河合会長に続いて登壇したガートナージャパンの日高信彦社長は、「今なぜASP・SaaSなのか」をテーマに講演した。
日高社長は、「CIOのかつての関心はテクノロジーだったが、ここ数年、最も関心が高いのがビジネスプロセスの改善となっている。CIOは、テクノロジーに加えて、プロセスと情報に関与することが求められている」と、CIOの役割が変化していることに触れ、ビジネスプロセスの改善のためには、ASPやSaaSの活用が注目を集めていることを示した。
ガートナーによると全世界におけるASP・SaaS市場の売上高は右肩上がりで成長しており、「ASP・SaaS市場を最も小さく見積もったエンタープライズアプリケーション市場においても、年平均20%で成長し、2011年には約1兆1000億円(約100億ドル)規模の市場に達する」とした。
なかでも、e-ラーニングやWeb会議などのコンテンツ/コミュニケーション/コラボレーション分野では、2011年までの年平均成長率が20.0%で成長。ASP・SaaS市場の31.3%を占めるという。また、21.3%の構成比を占めると見られるCRMは、年平均成長率は25.9%、市場全体の12.5%を占めるオフィススイート/デジタルコンテンツ作成は、最も成長率が高く、年平均成長率は95.7%増に達すると予測している。
だが、その一方で日本におけるSaaSの認知度が低いことは懸念材料だという。
「大企業では約40%がASPを利用していると回答している。また、中堅・中小企業でも2割を超える企業で、なにかしらの形でASPを利用している。だが、SaaSに関して調査した場合、大企業で利用していると回答したのはわずか4%。中堅企業、中小企業では0%の状態。大企業でもSaaSをまったく知らないという回答が28%を占めた。北米の調査では、SaaSを採用中とした企業が19%に達し、SaaSを知らないという企業は2%に留まっている。日本では、もっとSaaSを認知させていくことが必要である」と語った。
一方、ASP・SaaSの期待効果としては、運用コストの削減、短期導入、安価での機能利用といった短期的効果が上位を占めるが、「CIOクラスの回答では、他企業との連携、固定費の変動費化、運用要員の外部化といった点に注目が集まっている」と、SaaSを構造改革のベースに活用できるという観点で捉えていることを示した。
「ASP・SaaSの活用度合いはまだまだ低いが、アプリケーション・ポートフォリオ上での比重は倍増しており、1回利用すると継続利用するという企業が多い」との傾向を示した。
一方で、日本企業が懸念するASP・SaaSのリスクとして、想定以上にコストが高いこと、既存アプリケーションとの混在環境や、連携・統合における課題などの回答が多いことを示した。
「コストに関しては、期待値が高いということも影響している。ASP・SaaSの導入によって、10~30%のコスト削減は可能である。だが、単純なコスト削減効果だけでなく、もっと大きな観点からメリットを捉える必要がある」と指摘し、柔軟性や俊敏性などのASP・SaaSならではのメリットを認識する必要性を説いた。
日高社長は、現在、ASP・SaaSベンダーには、4つの立ち位置があるという。
1つは、インフラ事業に特化するベンダー。通信事業者などがここに含まれ、黒子に徹し、他社アプリケーションとは共存共栄の立場をとるものだ。2つめは、業務アプリケーションや関連する開発プラットフォームなどを提供するベンダー。だが、特定のソフトウェアに集中するケースが多く、「様々なベンダーが、様々な領域でサービスをしているという点では幅広いが、ワンストップで提供するベンダーが少なく、特定のアプリケーションの提供という意味では狭さがある」とした。
3つめは、パートナー企業のアプリケーションを利用したASP・SaaSベンダー。コンサルティング領域をカバーするメガベンダーも含まれるという。そして、4つめが、自社アプリケーションやパートナー企業のアプリケーションに加えて、ITインフラなどを一括で提供するワンストップで提供するベンダーだ。
「事業者は、どこに向かってASP・SaaS事業を進めていくのか、立ち位置を認識することが必要」とした。
最後に日高社長は、「SaaSは、はやり言葉の域を脱し、日本企業において無視することができない重要なトレンドとなっている。実際にニーズがあり、役に立つサービスと位置づけられている」とし、プラットフォームの進化、BPOとの融合、企業間連携、ビジネス革新の加速など、SaaSが持つ可能性に着目すべきこと、さらに、新興かつ発展途上のアプリケーションには積極的にSaaSを採用し、実験を通じた組織学習を行うことを提言。また、SaaSを効果的に利用するにはSOA、他システムとの統合、データ統合などのテクノロジギャップ、ビジネス戦略との整合、ベンダー戦略の評価といった課題が存在することを示した。
一方、「ASP・SaaSベンダーは、解約率、ユーザー数といったリスクを捉え、開発投資に見合わないという状況を回避する必要がある。また、パッケージ製品を持つベンダーは、棲み分けをどうするか、財務的な観点での戦略は大丈夫か、営業部門に対するインセンティブをどうするかといった、デザインも必要になる」と指摘した。