ウィルコム 取締役 常務執行役員 ネットワーク技術本部長 平澤弘樹氏 |
ワイヤレス・テクノロジー・パーク2008の「モバイルブロードバンドフォーラム」では、ウィルコム 取締役 常務執行役員 ネットワーク技術本部長の平澤弘樹氏が「次世代PHSが実現するBWA」との表題で講演を行った。
平澤氏は冒頭で、PHSの仕組みと、W-SIMによるハードウェアのオープン化への取り組みについて説明。コードレス電話を発展させる形で開発されたPHSの利点や、NTTの通信網を活用して通信網を構築してきた経緯を説明した。現在では、NTT交換局から基地局までの回線を、ISDNから光に置き換える作業を進めているという。
1995年と現在都内に設置された基地局の分布図を披露。現在都市部では、半径10メートルに1つの密度で設置されているとのことで、平澤氏は「ここまでアンテナが必要になるとは思っていなかった。分かっていたら事業自体やっていなかったかもしれない」と振り返った。
続いて次世代PHSの特徴についても説明。次世代PHSでは、上り/下り共に20Mbps以上の速度で通信が可能で、複数のアンテナでデータの送受信を行う高速化技術であるMIMOを導入すれば、さらに速度を向上することもできるとした。
また、現行PHSと同様にマイクロセルでのエリア展開を図ることにより、混雑したエリアでも安定した通信速度を提供できる大容量システムの構築が可能である点もアピール。また、アンテナ素子は現行PHS(1.9GHz帯)と次世代PHS(2.5GHz帯)で共用とすることで、既存基地局に次世代PHS用の機器を追加するだけでネットワークを構築できるため、現行のPHS基地局を活用して低コストかつ迅速にエリア展開が行えるとしている。
平澤氏によれば、新しい周波数帯を利用する無線ブロードバンドサービスの展開にあたり、ウィルコムでは通信方式としてモバイルWiMAXを採用することも検討したという。しかし、次世代PHSを選択したのは、"真の無線ブロードバンド"を実現するには現在同社が採用しているマイクロセルネットワークが必須であり、モバイルWiMAXと比べて、当初からマイクロセルを前提に仕様が決められている次世代PHSのほうが有利であるとの判断があったからだという。
ウィルコムは現行PHSで、隣り合った基地局でも同じ周波数が使える「アダプティブアレイ基地局」、同一セル内で同じ周波数が利用できる「空間多重」などの技術を既に投入しており、を効率的に使用できるといった利点がある。しかし、モバイルWiMAXを検討した結果、こういった同社の周波数利用効率向上技術を適用することは難しいという結論に至ったという。狭いエリアに多数の端末を収容しなければならない都心などで、速度低下を起こさない十分なサービスを提供するには、これまでPHSで培ってきた技術を生かせる次世代PHSが適当であるとしている。
次世代PHSは、2009年4月より山手線内側で試験サービスを開始し、2009年10月に首都圏/中部圏/関西圏/県庁所在地で、2010年度には全国主要都市で本格サービスを開始する。同社が総務省に提出した事業計画ではサービスエリアについて、2011年度末の人口カバー率を50%、2012年度末を同90%としているが、計画を前倒しで展開していくことも検討するとしている。