2006年公開のシルベスター・スタローン監督、主演作『ロッキー・ザ・ファイナル』は見た? 前作の『ロッキー5』から16年、最初の『ロッキー』から30年近く経って、今さら作ってもネタにしかならないんじゃないの? というのが大方の見方だった。ところが予想を裏切り、『ロッキー・ザ・ファイナル』は人間ドラマとして高い評価を得た。これに気を良くしたのか、スタローンは自分が作ったもう一人のヒーローも復活させた。それが『ランボー 最後の戦場』だ。
ランボーシリーズも、前作『ランボー3」からすでに20年。しかもロッキーシリーズとは別の意味で、いろいろといわく付きの作品だ。ご存じない方に説明すると、ランボーっていうのは元特殊部隊出身で、ベトナム戦争の英雄だったが、米国帰還後の普通の生活にはなじめない男。それが1988年の『ランボー3 怒りのアフガン』では、ソ連侵攻下のアフガニスタンで、地元のゲリラと協力してソ連軍と戦うことになる。ここでランボーが味方したアフガンゲリラの一派――アルカイダが、その後現実世界では米国相手に9.11テロを起こすという皮肉な運命となった。
そんな因縁もあるから、今回はてっきりアルカイダに落とし前をつけに行くのかと思ったら、今度の舞台はミャンマーだった。……過去のヤバイことは全部チャラですかそうですか。まあ、現在進行形でどうなるかわからない中東ネタより、アメリカ的にわりと善悪がはっきりしてるミャンマーを選んだというのが真相のようだけど、オイラとしては、ここは因縁に白黒付けて欲しかったなあ。
それをふまえて今回のお話。ランボーはアフガンで暴れた後はずーっと東南アジアをウロウロしていたようで、今ではタイの奥地で地元民や観光客相手のボートの船頭をやっている。そこに案内を依頼してきたのが、キリスト教系の慈善団体ご一行。ミャンマーの紛争地帯で弾圧されている少数民族に医療や物資を届けるという。この連中が絵に描いたような暴力否定主義者で、無事に帰っても日本だったら世間やマスコミから「自己責任」の集中砲火を浴びかねない人たちだ。最初はランボーも無茶な依頼を断るが、この団体のサラという女性に熱心に説得され……というより下心アリアリに見えるんですが(笑)、ミャンマーまで船で送ることになった。
一応ヒロイン(?) のサラを演じているのはジュリー・ベンツ。海外ドラマファンなら『バフィー ~恋する十字架~』、『エンジェル』のダーラ役の人といえばわかるかな。役作りのせいもあると思うけど、すっかり脂っ気の抜けた善人になっちゃって……。そういえば、サラと行動を共にする医者役の人もどこかで見たことあると思ったら、『24』のどこかのシーズンでジャック・バウアーの嫌味な上司をやってた人だ。以上「見たことあるけど誰だっけ?」のコーナーでした。
さて、途中危ない目に遭いつつも、ランボーはとりあえずご一行を送り届けることはできた。だがそれで済むはずもなく、サラたちが訪れた村はすぐに政府軍の襲撃を受ける。この場面をはじめ、リアルな戦闘や殺戮シーンがてんこ盛りなため、この作品は日本ではR-15指定になった。人体が破壊される映像って『プライベート・ライアン』あたりから格段に緻密なってきたと思うんだけど、この映画ではCG処理のおかげもあって「ここまで見せるのか」と言いたくなるほどクッキリ鮮やか(=グロい)。こういうシーンを「ランボー」のような社会派なのかエンタテインメントかが微妙な作品で見せられると、どう受け取ったら良いのか困るよ。
そんなこんなで政府軍の攻撃で村人の大半は殺され、サラたちは残りの村人とともに捕まってしまう。彼女らを助けるため、傭兵部隊5人組が派遣されることになった。ランボーは傭兵の案内を頼まれてサラたちが捕虜となったことを知り、20年ぶりの「戦闘モード」に入る。傭兵たちは最初、一緒に敵地に乗り込もうとするランボーを足手まといに思い同行を拒否するが、傭兵たちがピンチに陥ったときにうなりを上げて飛んでくる1本のボーガン! ここからは怒濤の展開だ。皆さんの期待どおりの活躍をするわけだが、結局今回のランボーのミッションって、ちょっと気がある女を助けるのが第一で、弾圧されてる現地民はついでに助けた形になっているのがどうも引っかかる。「ランボー一人じゃ問題は解決しないよ」って言いたいのかもしれないけど。
ただこの映画で何がすごいって、スタローンの61歳とは思えない動きだ。敵の追っ手を振りきって、森の中を走る走る! スタローンはキャンペーンで来日したときに、まだ続編を作るようなことを言ったらしいけど、この動きができるならアリじゃないですか?(ちなみに「最後の戦場」というタイトルは日本でつけたもので、原題はまんま"John Rambo"です) こうなりゃゴルゴ13並みに年齢不詳のヒーローとして、行けるところまで続けてほしい。
『ランボー 最後の戦場』
出演:シルベスター・スタローン / ジュリー・ベンツ / ポール・シュルツ / マシュー・マースデン / グレアム・マクダビッシュ / ケン・ハワード / レイ・ガイエゴス / ティム・カン / ジェイク・ラ・ボッツ
監督・脚本:シルベスター・スタローン
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
5月24日、日比谷スカラ座ほか全国東宝洋画系にてロードショー
(C) 2007 EQUITY PICTURES MEDIENFONDS GMBH & CO.KG IV