前回のあらすじ
前回はカプラン日本校代表石渡氏に、日本の英語教育における問題点を指摘していただき、ご意見をうかがった。石渡氏曰く、日本の英語教育の問題点は(1)訳読文法中心主義の「英語についての授業」(2)読み書きの比重が高くバランスが悪く、かえって読み書きもでなくなっている-ことにあるという。それを解決するためには(1)英語を英語で教え、英語で考えられるようにする世界標準の授業(2)リスニング、スピーキング、リーディング、ライティングの4つの能力をバランスよく伸ばし、その上で英語教育を抜本的に改革することが求められ、そうしなければ英語力において"アジア最低"という汚名は返上できないという。
プロフィール
石渡誠氏
1960年生まれ。米国ジョージタウン大学院卒。 英語教授法修士号取得。帰国後、松本亨高等英語専門学校を引き継ぐ、フェニックス英語学院の教務部長として英語教育、留学指導に専念。2004年、ワシントンポスト社の教育部門会社カプラン社とのライセンス契約によるカプラン日本校代表に就任。
――世界標準の授業を拝見させてください。
石渡 : カプランではたくさん授業をやっていまして、リスニング、スピーキング、リーディング、ライティングの4つの能力伸ばすため、英語特訓クラスのワークショプを週64時間取り放題で用意しています。
たとえば、ネイティブ表現マスター(Expressions through Film)では、1カ月間で1本の映画を取り上げ、すべてのシーンから語彙、表現、用法、発音などを学びます。生徒さんは授業の冒頭に、必ず映画を観るようにしています。そして最初にディクテーション(書き取り)させて、自分が聞けないところを分かった上で、そこを中心に徹底的に発音を直していきます。さらに映画シーンのセリフを使って、自分たちで会話をさせる練習を約50分間やっています。
英語を英語で説明する授業
実際に筆者が教室を訪れてみると、10人程度の生徒が集まっており、ネイティブの先生の解説に聞き入っていた。生徒の年齢はさまざま。年配のビジネスマン風の方から、30代、20代のOL、大学生、高校生までが一緒に授業を受けている。
授業は冒頭、映画の1シーンを取り上げ、その中に出てきたセリフの聞き取りを練習し、イントネーションや発音を詳細にチェック。そっくりに言えるようになるまで繰り返し練習していた。
もちろん授業はすべて英語。セリフがどんな感情を表現しているのか、本当は何を言おうとしているのか、などについて説明が続く。それもただ一方的に説明するのではなく、生徒たちに質問を発し、英語でやり取りしながら進めていた。
重要表現のところは、日常のシーンで使われる場面を想定した例文としてホワイトボードに書き出し、解説した後、3人のグループに分かれて、取り上げたいくつかの表現を自由に使って一つの会話を組み立てる作業に入った。ワークショップなのでさまざまなレベルの生徒がいたが、だれもが積極的に英語で発言していたのが印象的だった。それから10分程度グループごとに英語でディスカッションを行い、演じる役割とセリフを決めてオリジナルなストーリーを組み立て、それぞれに発表して授業は終了した。
――生徒同士の会話も英語なんですね
石渡 : ここでは日本語を使うと罰金なんです。そして私は英語で考えるということをいつも言っています。そもそも人間は言葉を使って考えるものので、英語で考えられないと英語を学んだことにはなりません。はじめはたどたどしくても練習すれば無意識にできるようになります。英語で考えてそれを口に出す。インプットしたものはアウトプットする、このバランスが大切です。
生徒インタビュー1
ネイティブ表現マスターの授業を受けていた生徒さんにお話をうかがってみた。
――はじめてどれくらいですか
ここは3カ月になります。実はそれまでマンツーマンのところへ通っていました。ただ英会話の練習をしているだけで、ライティングなどは一切ありませんでした。ここは発音もボキャブラリもライティングも、言語に必要なことをひと通り教えてくれるので選びました。
特に発音が正確にできることが大きかったです。仕事に必要なのと、発音もきれいな方が印象がいいと思ったので。あと、ここではいろいろなレベルの人といっしょに話せるところが違います。日本人同士でも言葉の使い方、表現がとても参考になります。
石渡 : つぎはニューズウィーク・リーディングの授業です。ニューズウィークは生徒さんみなさんに定期購読していただいています。ハードルが高いと思われがちですが、いろいろな授業をうけて4つの能力をバランスよく伸ばせば、ニューズウィークはきちんと読みこなせるようになります。
読むことに関していうと、わたしたちは子供の頃から自分のレベルより上のものを読み聞かせてもらってきました。そうやって語学能力を上げてきたわけです。このニューズウィーク・リーディングでは先生が中心となって読んでいき、解説を聞く授業となっています。これを繰り返すことでニューズウィークを読みこなすレベルに近づいてきます。
英語のシャワー、圧巻のニュースウィーク・リーディング
授業は1ページ分の記事、今回はIT関連の記事をネイティブの先生が読んでいくものだった。いわゆるひとつひとつの文章を精読していくというよりは、書かれている内容を把握することに主眼を置いており、時折出てくる表現、単語について解説が加えられていく。
記事にはオークション上での売買を自動化するウェブベースのサービスを、カナダの会社が買収したことが書かれていたが、途中内容の分かりにくいところを生徒が質問し、先生がそれに答える場面もあった。
一読しただけでは取っ付きにくい文章も、解説してもらえば内容がどんどん頭に入ってくる。英語のみの環境でこれを繰り返していけば、英語力がついてくることは間違いない。
――こちらは聞くことに集中する授業ですね
石渡 : ただ読んで終わりではなく、次の50分では読んだ内容に関して自分たちの意見を言うディスカッションの時間となっています。どこまで聞けていたのかはもちろん、記事の内容について掘り下げた話もします。ここれは"I have no idea."や"I don't know."は禁句です(笑)。
生徒インタビュー2
――始められたきっかけは?
自分が説明したいことを的確に伝えたい、英語でしっかりコミュニケーションできるようになりたいと思ったからです。ここに入って2年になりますが、当初に比べると発音が凄く良くなったと思います。読む方も苦しくなくなりました。
ただ自分の意見を述べるのはまだ難しいですね。もう少し詳しい部分まで説明できるよう>になりたいです。ワークショプはいろいろなレベルの人がいるので、上手な人の良いとこ>ろを取り入れるなど刺激になります。
石渡 : もともとどれくらいのレベルなのかにもよりますが、一般的にカプランのやり方で勉強すれば、1年くらいで周りからは凄く英語ができるように見えます。他の日本人とは差がつくということですね。もっとも授業に出ている本人は満足しないでしょうけど(笑)。
2~3年経つとスキルが買われて英語関係の部署に回される人も出てきます。そして5年間くらい真剣にやれば、ほとんどの人がどこの国へ行って誰と話そうとも恥じないレベル、TOEFL(iBT)でいうと100点を越えるレベルになります。世界水準の平均レベルと言えるでしょう。ぜひそこを目指してほしいと思います。