『恋人までの距離(ディスタンス)』(1995)、『ビフォア・サンセット』(2004)などの恋愛映画に出演し、高い評価を受けたイーサン・ホーク。近年は『チェルシーホテル』(2001)で監督業に進出、2冊目の小説を発表するなど、俳優の枠に留まらない活躍を見せている。
彼が再びメガホンを取り、脚本と出演も兼ねた『痛いほどきみが好きなのに』は同名の自著が原作だ。原題は「The Hottest State」。『チェルシー・ホテル』で起用したマーク・ウェバーが、この小説の主人公・ウィリアムのイメージにぴったりだと感じたことから、今回の映画化に踏み切ったという。若手俳優と歌手の切ない恋を描いたこの作品のPRのため、イーサン・ホークが6年ぶりに来日を果たした。インタビュー・ルームに現れた彼は、取材の疲れも見せずリラックスした面持ちでインタビューに答えてくれた。
『痛いほどきみが好きなのに』STORY
若手俳優のウィリアム(マーク・ウェバー)は21歳の誕生日を前に、NYのとあるバーでシンガーソングライターになることを目指すサラ(カタリーナ・サンディノ・モレノ)に出会う。2人は出会った瞬間に恋に落ち、その日のうちにキスを交わす。だが、サラは決して一線を越えようとしない。「セックスしたら、もっとあなたを好きになってしまう。それが怖いの」――お互いが好きなのに理解できない。追いかける夢と愛情の狭間で揺れる2人に、心から分かり合える日は来るのだろうか
自伝的小説をパーソナルな視点で映画化
――『痛いほどきみが好きなのに』は、ご自身の同名小説を映画化されたものですが、自分自身をさらけ出すことについて、躊躇はありませんでしたか?
「これは実際にあったことをつづった日記じゃない。100%フィクションだ。もちろん、実体験から引用した部分はあるけどね。これまでも、フィクションなんだけど、そこに真実があるようなパーソナルな作品に心動かされてきた。この作品もそのように作っているから、自分をさらけ出すことに抵抗はなかったよ。自分自身を反映させるというアートの形態は、ともすれば自己陶酔になりがちだから、危険なことではあるんだけどね」
――実際に起こったエピソードは、盛り込まれているのでしょうか?(※小説が発表された当初は、イーサンと彼が発掘した歌手リサ・ローブの関係を描いたものだと噂された)
「たくさんあるよ。あるセリフは、誰かが僕に言ったことだったり、誰かから聞いたものだったりする。でもすべてが映画通りのシチュエーションで起きたわけではない。あくまでも過去の体験を映画のストーリーに合うように掘り出していったに過ぎないんだ」
――本作の中で一番好きなセリフは?
「最後にサラがウィリアムに言うセリフ『あなたのハートは、私に出会う前から壊れていたんじゃない?』が好きだ。そのセリフは原作になかったんだけど、核心をついた特別なものだ。とは言っても作り手側は、最大の努力をして最高のものを作りたいと考えるから、どのセリフも最高であると願っているよ」
恋愛感を左右するのは、親から与えられた愛
――父親の存在がウィリアムの恋愛感に間接的に影響を与えていますね
「これは、僕らの恋愛感が自分の両親から与えられた愛によって、いかに形作られているかを描いたストーリーでもあるんだ。主人公は、自身を導く助言者(メンター)を求めていると思う。だって、自分に自信がないとちゃんとした恋愛は出来ないからね」
自伝的小説を自身で映画化した理由
――表現方法として最初に小説を選ばれたのに、改めて映画化されたお気持ちを教えて下さい
「僕は映画が大好きだから、常に映画のことを考えている。ただ、小説を書き始めた当時は若かったので、物語の本質がそこまで理解出来てなかった。今回、本作を作る過程で、より深く理解することが出来たことが収穫だったね」
――他の監督には映画化されたくなかった、という思いはありましたか?
「実を言うと、いくつか映画化したいというアプローチはあったんだけど、僕が任せたいと思う人じゃなかった。反対に引き受けて欲しいと思う人に話を持ちかけると、皆が口を揃えて『自分で作りなさい』と言うんだ。いい機会だと思ったから、自分で監督することにしたよ」
――主人公の父親役にはキーファー・サザーランドやヴィゴ・モーテンセンも候補に挙がっていたとか。ご自身がこの役を演じることになったいきさつを教えて下さい
「正直言って、監督として俳優の自分を演出するということには何の興味もなかった。場ミリ(立ち位置・機材の設置を示す業界用語)を間違えちゃうんじゃないかという不安もあってね(笑)。いろんな俳優にアプローチはしたけど、役の小ささの割にはテキサスやニューヨークにも行かなきゃいけない、とスケジュールの調整が大変だったんだ。役者を雇うお金もなかったし。そういう事情もあって、しょうがなく自分で演じたんだけど、結果的には収まるところに収まったという感じだね。本作の脚本家、原作者として父親が出てくるシーンは一番大切なものだと考えているから、重要な役を演じることが出来てよかったよ」
――ファイストやノラ・ジョーンズなど、本作のサウンドトラックへ参加した豪華なアーティストたちは、どのような基準で選ばれたのでしょう
「この映画は、音楽が重要になると最初から分かっていたから、作曲家は1人にして一貫性を持たせたいと思っていたんだ。(作曲をすべて任せた)ジェシー・ハリスとのコラボレーションは、とてもエキサイティングなプロセスだった。だから、彼に全部の曲を書いてもらった後に、曲を通して各シーンを饒舌に語ってくれるアーティストを選んでいった。例えば、恋に落ちていくシーンではその雰囲気が最高にはまるノラ・ジョーンズ、父親と母親が出てくる冒頭のシーンはテキサスが舞台で過去を描いているからウィリー・ネルソンがぴったり、といった風に、ジェリーと2人で一生懸命考えながら選んだ。そして、この曲のほとんどは、撮影前にレコーディングすることが出来た。本当に最高だったのは、すべて書き下ろしだったこと。ヴォーカルのアレンジや編集の仕方まで、全部こちらで決めることが出来たよ」
父親、アーティストとしての自分
――実生活ではご自身も子供を持つ父親ですね。映画の撮影で長期間家を離れる際には、仕事と私生活のバランスをどのように保たれていますか?
「仕事と私生活のバランスを保つのは、とても大変だよ。自分の人生における大きな問題だね。ここ最近は、舞台に多く出演しているからまだいいんだけど、監督の方がより父親に向いている仕事かな。やはり、俳優はタフな仕事だよ。撮影現場に行くため、家を離れなきゃならないし。子供が小さければ現場に連れて行くことも出来るけど、大きくなると友達と離れたがらないし学校もあるから難しいよね。舞台だとクリエイティブな意味でエキサイティングな仕事をやりつつ、子供の側にいることも出来るから、父親としては嬉しいよ」
――最後の質問です。あなたにとってのホッテスト・ステイト(The Hottest State : 最も意欲的な物事、という意味)は?
「僕は若い頃に夢見たことのすべてを実現できた。今は大人として、世の中のために何をすべきかということをよく考えるよ。自分のホッテスト・ステイトは、人間としてアーティストとしてより深く饒舌に自分を表現していくということだ。……こういう質問をぶつけられると、つい真面目に答えちゃうんだよね。夢見る夢男君みたいなコメントじゃなくて、もっとクレバーで笑えるような答えを求められているってことは分かるんだけど。まるで、お医者さんの前でカウンセリングを受けているみたいだな(笑)」
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イーサン・ホーク
1970年11月6日生まれ アメリカ、テキサス州オースティン出身 37歳
『エクスプロラーズ』(1985)で映画デビュー。『トレーニング・デイ』(2001)でアカデミー助演賞にノミネートされ、俳優としての地位を不動のものとする。1998年に女優のユマ・サーマンと結婚。一男一女をもうけるが、2004年に離婚。著書に『痛いほどきみが好きなのに』(1997)、『Ash Wednesday』(2002)がある。今年はヴァンパイア映画『Daybreakers』を含む計4本の新作が公開される予定
『痛いほどきみが好きなのに』作品情報
出演:マーク・ウェバー / カタリーナ・サンドラ・モレノ / ローラ・リニー / ソニア・プラガ / ミシェル・ウィリアムズ / イーサン・ホーク
原作・脚本・監督:イーサン・ホーク
5月17日、新宿武蔵野館ほかにてロードショー