私をパリに連れてって - 学生とメンター企業の歩み

さて、Imagine Cup日本代表チームも決まり、あとはフランス大会に備えていくわけだが、世界の壁は厚い。それを過去の大会で実感してきたマイクロソフトは、Imagine Cup 2008から新たな試みをスタートさせた。冒頭に述べた「学生メンタープログラム」だ。Imagine Cup 2008 日本大会の出場3チームを企業がメンター(助言、指導)するというもの。狙いは、日本レベルの作品を世界レベルへ引き上げることにある。

過去に優秀な成績を上げた日本人学生もいた。しかし、多くがその逆の結果に落ち込んだ。マイクロソフトでITベンチャー支援などを担当する長井伸明氏(デベロッパー&プラットフォーム統括本部 ビジネスインキュベーション シニアマネージャ)は、「学生は余裕で勝てると思っているが、大体は打ちのめされて帰ってくる」と過去の大会を振り返る。世界大会の優勝チームの作品レベルは高い。昨年、ソフトウェアデザイン部門で優勝したタイチームの作品は、Webカメラで読み込んだ文章の英単語上に、それを意味する絵をリアルタイムに表示していくというものだった。識字率向上を支援するソリューションだ。その革新的なUIを見たNISLabのメンバーも「驚いた」と話す。タイでは現地のマイクロソフトの強力なバックアップもあった。そうした出場チームの支援体制を日本でも進めていくというのが学生メンタープログラムになる。「学生の視点では作りたいものだけを作りがちになる。メンターは、ユーザーが求めるものを作るというマーケティングの視点をサポートできる」(同氏)。

過去の上位入賞国(ソフトウェアデザイン部門)
開催年(開催国) 優勝 2位 3位
2003年(スペイン) アメリカ
2004年(ブラジル) フランス ロシア ギリシャ
2005年(日本) ロシア ギリシャ 中国
2006年(インド) イタリア ブラジル ノルウェー
2007年(韓国) タイ 韓国 ジャマイカ

MS Innovation Award受賞企業がメンターに

Knowlbo(代表:斉藤友男、NISLab担当)、チェプロ(代表:福田玲二、IAMAS担当)、ソフトアドバンス(代表:菅原亘、Team EMET担当)がメンターを務めた。3社ともMicrosoft Innovation Award(MIA) 2007の受賞ベンチャー。MIAは、革新的なソフトウェアでビジネスを展開する企業やプロダクトに贈られる賞。マイクロソフトではこのようなMIAを含め、ITベンチャーを対象としたさまざまな支援活動を続けてきた。MIAのノミネート企業も、マイクロソフトと自治体が共同で地元ITベンチャーを支援する「インキュベーションプログラム/ITベンチャー支援プログラム」の選定企業から選ばれた。学生メンタープログラムは、そうしたITベンチャー支援活動と教育支援活動をリンクさせたものになる。長井氏は「点だったもの(各事業)が線になった」と表現する。

メンターの効果を判断するのはまだ早い。3チームの学生たちは、メンター企業がつくことを日本大会の1カ月前に知った。メンターとのやりとりは一切が当事者に任せられ、学生たちには戸惑いもあったようだ。どこまでメンターを頼れるのか。手探りの中、会合やメール相談を重ねた。作品のコンセプトは変えない。メンターは作品を見て、プレゼンの方向性、ユーザー視点や社会性など足りない部分をサポートするというやりとりが主だったようだ。パリには、NISLabとメンターのKnowlboが乗り込む。二人三脚で挑むフランス大会は、学生メンタープログラムが試される場にもなるだろう。

メンターを務めた3名。写真左から、チェプロ代表 福田玲二氏、Knowlbo代表 斉藤友男氏、ソフトアドバンス代表 菅原亘氏。菅原氏は実に悔しそうだった。代表となったNISLabの活躍を期待して、「世界で絶対に勝っていただきたい」とコメント

学生よ、世界を目指そう

マイクロソフトが謳う、"国際競争力を持った人材"の育成。学生が「世界」を身近に感じて行動するのは容易なことではないだろう。その点、Imagine Cupは世界規模のIT技術コンテストであり、登録時点で16歳以上の学生なら誰でもいきなり世界へ挑戦できるオープンな場だ。Team EMETのメンターを務めた菅原氏は、「これだけの場所でプレゼンする機会は、普通に学生をしていたら経験できない」とImagine Cupが貴重な体験の場になると語る。大会総責任者のEmanuele Ognissanti氏も「参加することに意義がある」。

チャレンジの場は用意されている。あとは多くの学生が自分のために利用するかどうか。世界にくらべると日本人の参加者は少ない。NISLabの中島申詞氏の言葉が印象的だった。「まずは出ると決める。そして、ビジョンは壮大に持ち、夢を話してモチベーションを上げていく」。日本でのImagine Cupの浸透は、業界が懸念するIT離れの歯止めやIT企業のイメージ向上の一助になれるだろうか。

「Imagine Cup 2008」各部門について
部門 概要
ソフトウェアデザイン部門 テクノロジの活用で問題を解決するソフトウェアを作成
インタフェースデザイン部門 革新的で独創的なユーザーインタフェースを作成する
組み込み開発部門 Windows CEや提供ハードを使ってユニークなデバイスを開発する
アルゴリズム部門 アルゴリズムの改良でさまざまな制限を克服。頭脳勝負の個人部門
ゲームプログラミング部門 「XNA Game Studio Express」で社会性のあるゲームを製作
ビジュアルゲーミング部門 架空のゲームの舞台設定上で動くロボットの挙動をプログラミング
ショートフィルム部門 テクノロジとアートが融合した映像を指定時間内に製作
写真部門 デジカメ写真を組み合わせてフォトエッセイを製作する
ITチャレンジ部門 ネット社会で発生しうる問題解決のための知識を競う