「メディカルツーリズム」とは
近年、アジア諸国における「メディカルツーリズム」が盛んになっている。
メディカルツーリズムとは、「観光」と「医療サービス」をセットにしたパッケージツアーで、一流ホテル並みの施設とサービスに加え、高度な医療技術も低価格で提供するものだ。ただし「メディカルツーリズム」と一言でいっても様々で、臓器移植をするために海外の医療を受けることから、美容整形やレーシック(近視手術)、健康診断などが手軽に受けられるという理由で海外へ行くことまで含まれる。
数十年ほど前から、医療費が高額な欧米の患者が自国の高い医療ではなく、医療費の安いアジア諸国に渡航し、現地の病院で治療を受けるケースが増えている。特にインドへのメディカルツーリズムが有名で、医療技術の高さに加え、英語が通じる気楽さが欧米の人々に受けているという。
そのほかにも、シンガポールやタイなどの東南アジアの国々でもメディカルツーリズムに力を入れており、欧米の国々を中心に多くの患者が医療を受けるため渡航している。
いずれの国々もメディカルツーリズムは政府主導で行っており、観光資源の豊かで、かつ医療費の安いアジア諸国にとっては、非常に手堅い外貨獲得のための手段ともいえよう。
3年以内に年間10万人が目標 - 台湾の参入
こうした世界的な新しい医療の流れの中、台湾がアジアの「メディカルツーリズム」市場に参入してきた。
たとえば台湾の最高行政機関である中華民国行政院は、2007年より台湾国内の病院と提携。医療を中心とするヘルスケアサービスをグローバルに展開する構想(メディカルツーリズム構想)の実現に向けて動き始めている。その最初の動きとして、中華民国対外貿易発展協会(TAITRA)は3月、横浜市西区のパシフィコ横浜で開催された「統合医療展2008」にて海外からの患者ニーズの受け入れに積極的な台湾国内の4つの病院のPRとともに、台湾の新たな「観光資源」をPRした。
このなかで台湾が得意とする高度先進医療として「生体肝移植」「頭骨顔面整形術」「人工生殖」「心臓内外科手術」「関節置換手術」の5つを挙げており、特に生体肝移植手術においては、5年生存率は米国よりも高いという。
これらの高度先進医療のほかにも、観光がてら手軽に健康をチェックできる人間ドックや、美容関係の施設などは国際的評価も高く、その費用も日本の1/3程度となっている。
台湾の対外貿易発展協会は、「今後3年以内に、医療や美容目的で台湾を訪れる人の目標を年間10万人とする」と意気込む。台湾は特に日本人観光客の人気が高く、年間約116万人が訪れることから、当協会では今後、日本語に対応したホームページの作成や日本語のメールでの問い合わせ先を設けるなどしてPRに努め、医療や美容目的の日本人観光客の獲得をめざすとしている。
なお、台湾の病院には日本語を話せるスタッフが常駐しており、診察を受ける際の医療者とのコミュニケーションはもちろん、検査後の説明や指導などにも不自由はないという。さらに台湾の医師の多くは日本の大学への留学経験があり、病院も日本に提携先の病院があるなど、帰国後のアフターケアもそれらの提携病院先で可能だという。
観光地として人気があり、医療技術も高い台湾が参入したことにより、アジア諸国のメディカルツーリズム市場は、患者獲得競争がますます激化することが予想される。
メディカルツーリズムのこれから
欧米の裕福層の間ではかなり浸透してきた「メディカルツーリズム」であるが、日本人のメディカルツーリズムの参加は、現時点ではそう活発ではない。
積極的に受け入れられない理由のひとつとして挙げられるのが、日本の「国民皆保険制度」だ。小学生以上70歳未満であれば、医療費の3割の自己負担で通常の治療を受けられる。いくら海外の医療費が安いとはいえ、渡航費用などを考えると、保険診療が適応される医療行為であれば、観光は別として国内で治療を受けたほうがまだ割安になる。
しかし、(1)国内では医療費が高い臓器移植を割安で受けられる、(2)国内未承認の新薬が使える、(3)美容整形などの保険外診療の費用が安く抑えられるなど、メリットの多い分野もある。
現在、日本の医療制度は過渡期を迎えており、さらに世界的な「医療のグローバル化」の波もあることから、近い将来、「メディカルツーリズム」という新しい医療の形が、日本でも欧米並みに受け入れられていく可能性は十分あるだろう。