東京都新宿区にあるNTTインターコミュニケーション・センター(以下、ICC) は、2008年で3回目を迎える「オープン・スペース」を新たなラインナップで公開。「オープン・スペース2008」として無料開放しており、ICCが理念として掲げてきた活動の集積である作品数十点を無料で鑑賞することができる。今回は同展覧会の様子を注目される作品の紹介とともにお伝えしたい。会期は2009年3月8日まで。

期待に胸を膨らませつつ「アート&テクノロジーゾーン」へ。途中、「インタラクティヴ年表 2008」と名づけられた階段の上で立ち止まるとメディア・アートや社会で起こった出来事に関する音声解説がながれる

3年目を迎える「オープン・スペース」は、ギャラリーの一部や図書館、ミニ・シアターなどが無料で解放されるコミュニティ・スペースとなっている。展示会場は「アート&テクノロジーゾーン」、「研究開発コーナー」「ネットワークゾーン」「アーカイヴゾーン」という4つのカテゴリーで構成。中でも、「アート&テクノロジーゾーン」は最大の展示スペースを有し、「インタラクティヴ」「映像」「音響」といったキーワードのもと、情報社会における芸術表現の推移を概観できるメディア・アート作品と触れ合うことができるという。

森美術館にて開催された「六本木クロッシング2007:未来への脈動」(2007年10月13日~2008年1月14日)でも展示されていた「計算の庭」(2007年/佐藤雅彦+桐山孝司)

「インタラクティヴ」(双方向的)をキーワードとするというだけあって「アート&テクノロジーゾーン」には、ただ鑑賞するだけではなく、来場者自身が働きかけることによって"経験"することができる作品が揃う。例えば、佐藤雅彦+桐山孝司の作品である「計算の庭」。同作品では数字が記されたRFIDタグ内蔵のカードを身につけ、"庭"の中に入ることで"ゲーム"がスタートする。庭内のゲートにはそれぞれ異なる計算式が記されており、ゲートをくぐるとカードの数字がその計算式によって自動的に演算され、計算の結果が「73」になれば庭から抜け出すことができる仕組みとなっている。実際に庭の中に入ると、自分の動きが"数字"の動きとリンクすることで、"計算"という抽象的な事象を実体験として感じることができる。

また4月25日にヤマハから発表され、"21世紀の音楽インタフェース"とも称される電子楽器「TENORI-ON(テノリオン)」や床に敷き詰められたパネルに足を踏み入れることで作品がリアルタイムに変化していく「gravicells[グラヴィセルズ]-重力と抵抗」など最先端のテクノロジーを駆使した作品が数多く展示されている。

電子楽器「TENORI-ON(テノリオン)」(2007年/岩井俊雄)。楽譜の読み書きができなくても直感的に操作し作曲や演奏ができる

「gravicells[グラヴィセルズ]-重力と抵抗」(2004年-/三上晴子+市川創太)。規則的なラインが表示されたパネル上に足を踏み入れると、センサーが体重や傾き、動きの速度を読み取り、ラインが歪むなど参加者のアクションがリアルタイムで作品へと反映される

「研究開発コーナー」に足を進めると、「情報を降らせるインタフェース」というタイトルの作品の下で、複数の人が手のひらを天井に向けて立っているのを発見。試しに天井に向けて手をさし出してみると、左右の手それぞれに別々の映像が投影された。両手をくっつけることで2つの映像を組み合わせ別の映像を再生することもでき、実体のないものを手の上で操るという近未来的なインタフェースを味わえる。「研究開発コーナー」では、上記の作品のように大学などの教育機関における研究成果や企業の研究所で進められているプロジェクトなど、産・官・学それぞれの研究事例を紹介しているという。

無言で天井に手のひらを向けて立っている人たち

「情報を降らせるインタフェース」(2007年/石井陽子+中茂睦裕+小林稔 NTTサイバーソリューション研究所)

このほか双方向の映像配信技術など、現在の生活に欠かせない存在となっている"ネットワーク技術"に触発されたアート作品や新たなコミュニケーションや表現を促すような技術を展示する「ネットワークゾーン」、図書室やミニ・シアター、ICCの映像アーカイヴ「HIVE」(ハイヴ)などが用意される「アーカイヴゾーン」など、訪れる人々の知的欲求に応えてくれる設備が揃っているのも同展覧会の特長だ。

「ネットワークゾーン」に展示される「フラッシュを使用しない撮影は許可されています。」(2008年/セミトラ)。映像の中で無秩序に動いているかのように見える光の粒はカメラのシャッタースピードを遅くして撮影することで"文字"として認識できる

ヴィデオ・アート作品、アーティストたちのインタビュー映像などをパソコンで閲覧できる「HIVE」コーナー

なお会場では、「オープン・スペース 2008」出品作家によるアーティスト・トークなどさまざまなイベントも開催予定となっている。詳細はICC公式サイトで確認することができる。新たなラインナップとともに来場者を待ち構えるICCのオープン・スペースにて、日本のメディア・アートやコミュニケーション文化の未来像を感じてみてはいかがだろうか。

展覧会名 オープン・スペース2008
会場 NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)
開館期間 2008年4月19日(土)~2009年3月8日(日)
休館日 月曜日(月曜が祝日の場合は翌日)/年末年始(12月29日~1月5日)/保守点検日(8月3日、2月8日)
開館時間 10:00~18:00