4月26日に公開された『紀元前1万年』は、太古の時代を舞台にした壮大なアドベンチャー映画だ。メガホンを取ったのは、『インデペンデンス・デイ』や『デイ・アフター・トゥモロー』などで、今まで誰も見たことのない光景を映像化して観客の度肝を抜いてきた巨匠ローランド・エメリッヒ。今回は有史以前の獰猛な野獣を最新のVFXで甦らせ、人類を救う運命を背負った若きヒーローの愛と冒険を見事に描いている。本作の公開直前に来日したエメリッヒ監督が、撮影の裏話や次回作について明かしてくれた。

監督はスケール感のあるパニック映画を得意とする、いわば"破壊王"。しかし、その素顔はダンディで穏やかな紳士

きっかけは"Google"!?『紀元前1万年』誕生秘話

誰も見たことのない"過去"に目を向けた理由

――本作の企画を思いついたのは、15年前にマンモスのドキュメンタリーを見ていたときだとか

「マンモスハンターが主人公で、侵略した部外者に恋人をさらわれるという基本的なストーリーはすぐに出来上がったんだけど、主人公が最終的にどこへたどり着くのかという部分がどうしても出来ずに行き詰まっていたんだ。ある時、ふと思いついてGoogleで"紀元前1万年(10,000 B.C.)"という言葉を検索してみた。すると、スフィンクスの謎やピラミッドは紀元前1万2千年前に作られたのではないか、という興味深い説がたくさん出てきた。これは面白いと思って、石器時代のマンモスハンターが文明人に出会うというストーリーにしたんだ」

デレー(スティーブン・ストレート)とエバレット(カミーラ・ベル)は深く愛し合うが、引き裂かれる運命に

オーディションでスターを発掘する秘訣

――『インデペンデンス・デイ』(1996)でウィル・スミス、『デイ・アフター・トゥモロー』(2004)でジェイク・ギレンホール、と、エメリッヒさんはブレイク寸前のスターを発掘するのがとても上手だと思います。オーディションの際、俳優のどこに注目しているのですか?

「実は、『パトリオット』(2000)で当時まだ無名だったヒース・レジャーをキャスティングしたのも僕なんだ。でもスターになるかどうかは、僕が決めることではないよ。単にラッキーだったのかもしれない。まぁ、これだけ長く仕事しているからね(笑)。オーディションでは、俳優の演技力とその役に相応しいかどうかを見ているよ」

撮影の様子。主演のスティーブン・ストレイトに演技指導を行っている

――スティーブン・ストレイトとカミーラ・ベルの起用理由を教えて下さい

「スティーブンは、この役に必要な少年と大人の要素を両方持っていた。また、ヒロインはこの世で最も美しい女性という設定だったので、容姿が美しいことは必須条件だったし、高い演技力もある、ということで彼女を選んだ。2人を一緒にカメラテストしてみたら、本当に相性ぴったりだったことも決め手となったよ」

碧い眼が美しいカミーラ

気になる次回作のテーマは世界の終末

――本作ではマンモス、サーベルタイガーを甦らせ、過去の作品では自由の女神、ホワイト・ハウスなどの歴史的建造物を破壊するなど、あなたは誰も観たことのない映像を作り出すことに長けていますね。今後、映像化したいクリーチャーや破壊してみたい建造物は?

「次回作、『2012』は"世界の終わり"がテーマだから、すべてを破壊してしまうつもりだよ。この映画の後は破壊するものがなくなってしまうから、こじんまりとしたラブストーリーでも撮ろうかな(笑)」

今作の目玉の一つ、巨大ピラミッド。これもやはり破壊されてしまうのか?

――『ミクロの決死圏(Fantastic Voyage)』(1966)のリメイクに関しても教えて下さい

時計はハミルトン。アリフレックスで有名なシネマ・カメラのトップメーカー、ARRI社からプレゼントされたそう。ちゃんと自分で使うところが律儀!

「『ミクロの決死圏』リメイクの企画からは下りたんだ。僕はオリジナルの脚本でやりたかったし、映画会社も『2012』を撮り終わるのを待ってくれないと思ったからね」

――なるほど。では『2012』に全力投球中なんですね

「『2012』は、『紀元前1万年』と同様に脚本家のハラルド・クローサーと一気に書き上げた。映画会社に売り込んだら、たった1日で採用が決まったよ。すでに撮影の準備がスタートしていて、公開は来年の夏。このプロジェクトは驚くべきスピードで進行してるよ。この映画は、観客に様々な哲学的質問を投げかけるはずだ。もし、世界が終わるとしたら何を真っ先にしたいか、そして何が一番大切か、ということを考えるきっかけになると思うよ」

インタビュー撮影:石井健

ローランド・エメリッヒ

1955年11月10日 旧西ドイツ シュツットガルト出身 52歳

ドイツのミュンヘン映画学校で学び、卒業制作の長編SF『スペースノア』がベルリン映画祭のコンペティション部門に出品され、一躍注目の若手監督として脚光を浴びる。1992年の『ユニバーサル・ソルジャー』で、ハリウッド進出。『インデペンデンス・デイ』『デイ・アフター・トゥモロー』の興行的成功でヒットメーカーの名を不動のものとする。70年代に大ヒットしたパニック映画『ポセイドン・アドベンチャー』『大地震』『タワーリング・インフェルノ』が好きだと公言するだけあって、今やこのジャンルは彼の独壇場と化している

『紀元前1万年』

舞台は巨大マンモスが闊歩する太古の時代。デレー(スティーブン・ストレイト)とエバレット(カミーラ・ベル)は子供の頃から将来を誓い合っていたが、ある時正体不明の集団に彼女を含む大勢の民がさらわれてしまう。デレーは愛するエバレットを救うため、大勢の仲間を従えて追っていく。過酷な旅の果てに彼らを待っていたのは、壮大なピラミッドが並ぶ想像を絶する文明の地。そのとき初めて、人類最初のヒーローという自らの宿命を理解したデレーは、人々を救うべく最後の戦いに挑むのだった……。 ピカデリー1他にて全国ロードショー中。配給はワーナー・ブラザース映画