日本エリクソンは17日、2月にスペインで開催された「Mobile World Congress 2008」の会期中に現地で行ったLTE(Long Term Evolution)端末の動作デモンストレーションを、日本でも報道関係者に公開した。
LTEはその名の通り3G(第3世代携帯電話)の"長期的発展"を目的とした次世代通信規格で、20MHz幅の帯域を利用した場合受信最大100Mbps、送信50Mbpsの速度を実現することを目指している。4Gへの橋渡しという意味で「3.9G」の移動体通信規格とも呼ばれる。
Mobile World Congressでのデモンストレーションと同様に、「Berta」と名付けられた携帯情報機器型のLTE端末をUSBモデムとしてPCに接続し、ファイルの転送や高解像度ムービーのストリーミングが行われた。ただし、今回は免許の都合上実際に電波を送信することができないため、無線部分はエミュレーターによる試験環境で代用した。
Bertaは受信最大25Mbps、送信最大25Mbpsをサポートし、ソフトウェアのアップデートにより受信速度は最大50Mbpsまで高速化できる予定。周波数帯はBand 1(2100MHz)、Band 4(2100/1700MHz)、Band 7(2500MHz)およびさらに低い周波数1バンドの合計4バンド、帯域幅は5/10/20MHz、2×2のMIMOにそれぞれ対応する。USBモデムとして利用しファイル転送(FTP)を行ったデモでは、ピークで22Mbps以上、平均でも20Mbps以上の実効スループットが得られており、同社では商用サービスに導入できるレベルに非常に近い性能が得られる端末としている。
同社はLTE端末を実現するチップセットおよびソフトウェアをプラットフォームとして提供する予定で、今月1日にそれを「M700 mobile platform」の名称で正式発表している。今年後半にはチップセットのサンプルを提供開始し、商用製品としての展開は2009年、プラットフォーム採用製品が市場に流通するのは2010年になる見込み。
「LTEはWiMAXよりも早く成長」
日本エリクソンのフレドリック・アラタロ社長 |
EricssonのLTEへの取り組みと日本でのビジネス拡大について説明した日本エリクソン代表取締役社長のフレドリック・アラタロ氏は、世界の各通信インフラベンダーがLTEに加えてUMB(Ultra Mobile Broadband)やWiMAXなどでの検討・研究開発を行っているのに対して、EricssonはW-CDMA/LTEのみに注力し、他の技術では事業を行わないという判断をしたことを強調。W-CDMAの標準化作業の場である3GPPで同じように標準化が進められているLTEのほうが、UMBやWiMAXよりも市場における成長が早いと断言した。
ライバル各社が複数の技術を採用するのに対し、Ericssonは3GPPのW-CDMA/LTEのみに注力する(NSNはNokia Siemens Networks、ALUはAlcatel-Lucent) |
日本においてはNTTドコモ、ソフトバンクモバイル(当初はデジタルホングループ)、イー・モバイルへの納入実績があり、同社製品の設置箇所は65,000サイトに上る。ドコモはLTEを「Super 3G」の名称で呼んでいるが、EricssonはSuper 3Gの基地局開発ベンダーとしても選定されている。日本では、世界の中で比較的早い時期にLTEの商用サービスが開始されると見られているが、Ericssonの製品は全世界に向けて開発されているため標準への準拠度や品質が高く、かつ低コストであるので、日本のLTE市場でも競争力のある展開が行えるとしている。
また、同社の事業は通信設備の提供や導入にとどまらず、運用サポートや通信事業者向けのシステムインテグレーションなどへ拡大してきた。近年ではマルチメディア分野での事業拡大に力を注いでおり、昨年はビデオ会議システムの分野で実績のあるTandberg Television、課金管理システムの独LHSを買収し、IPテレビなどを含むマルチメディアサービスのサービス基盤分野で事業の強化を図っている。
また、アラタロ社長は、昨今の通信トラフィックの急激な増大に関して「トラフィックの急増は、事業者にとっては恐怖となることがある。なぜなら、トラフィックと収益は必ずしも比例しない」と話し、より低いコストで大量のトラフィックを収容するためのインフラ改善に加えて、通信サービスとメディア・広告などとの融合による新たな収益源の獲得が事業者にとって課題となっていると指摘。このような事情を背景として、同社では通信事業者のコンサルティング事業も主要なビジネスのひとつとなっている。その意味でも、「通信分野では世界で最も進んだ市場」(アラタロ社長)である日本での事業に力を入れる意義は非常に大きいと強調した。