もし1年半後、本当にこの6社が約束通りにその共通仕様を発表したら、IT業界の一部だけではなく、日本の社会インフラそのもののあり方が大きく変わるかもしれない - そんな期待を抱かせるプロジェクトが14日、スタートした。プロジェクトの名称は「システム基盤の発注者要求を見える化する非機能要求グレード検討会」、やや長すぎるため、略称は「非機能要求グレード検討会」となっている。参画する6社には、NTTデータ、富士通、NEC、日立製作所、三菱電機インフォメーションシステムズ(MDIS)、OKIといった、国内最大手のSIベンダが名を連ねる。同検討会では、企業ごと、プロジェクトごとに行われてきた顧客からの"非機能要求"を見える化/共通仕様化し、顧客と開発ベンダの間でシステム開発において共通認識をもてる方法を策定していくという。

"非機能要求"とは

情報システムの"オープン化"という言葉がぽつぽつと使われ始めたのは今から約20年ほど前のことである。指数関数的にビジネスで扱うデータ量が増えるにつれ、現在では各企業が構築する情報システムは、その企業内だけで完結するのではなく、社会インフラ全体に影響を与えることが多くなってきている。当然、システムにトラブルが起きれば、大きなニュースとして扱われることも珍しくない。たとえば、銀行の合併によるATMシステム統合、航空会社の発券システムといった大規模なものから、一企業のWebシステムに至るまで、ひとたび停止してしまうようなことがあれば、当該企業のみならず受注側の責任問題に発展してしまうことも多い。

さまざまなシステムが存在し、それぞれが大規模化する中では「有機的な情報は増大する一方で、それらを統合しようとすれば、新たな危険性が生じる。安定したシステム基盤を作るにあたって、発注側とともに受注側は何をすべきなのかと考えたとき、とくに"非機能要求"に関しての認識をすりあわせることが重要だという、1つの解が(6社の間で)得られた」(NTTデータ 代表取締役副社長 重木昭信氏)

非機能要求とは何を指すのか。情報システムを構築する際、発注側からの要求は、業務実現に関する要求 - たとえば「営業情報をシステム上で共有し把握したい」「受発注情報に連動した在庫管理を行いたい」- などの"機能要求"のほかに、以下のような「システムの強度や品質」にかかわる要求がある。

  • 性能に関する要求…「レスポンスは3秒以内に」など
  • 可用性に関する要求…「システムダウン時の復旧は3時間以内に」など
  • セキュリティに関する要求…「重要情報の情報漏えい対策を」など
  • 移行に関する要求…「移行後もレガシーシステムを引き続き利用したい」など
  • 運用に関する要求…「業務時間中はシステム担当者が常駐」など
  • 拡張に関する要求…「将来に備えて現行の2倍の性能に拡張を」など

6社ではこういった発注側からの実現要求を「非機能要求」と呼んでいる。そしてこの非機能要求こそが、システムの基盤にかかわるものでありながら、これまで発注者と受注者の間で最もギャップが生じていた部分である。基盤部分にギャップが生じたままの状態でシステム開発を進めていけばどうなるか、当然、でき上がったシステムは不安定でリスクを抱えたものになってしまう。そして、現在ではそれが受発注者間の問題だけではなく、社会不安を誘発する要因にさえなるのだ。

非機能要求グレード検討会の目的は、非機能要求の選択肢を、上記に挙げた6つの分類を叩き台にしてさらに200項目ほどに細分化し、メニュー化して"松竹梅"のような「グレード」を策定し、発注側に提示することである。つまり、受注側、発注側の双方にわかる言葉でもって要求項目とグレードを"見える化"して共通認識を確立し、下流工程におけるシステム基盤変更を極力減らすことにほかならない。

機能要求は共通認識を得やすいが、非機能要求に関しては、発注側は具体的なイメージを適切な言葉で伝えることができず、受注側は発注側の要望を想像しにくい

ビルの基盤とシステムの基盤はよく似ている。どちらもファウンデーションの部分にミスがあれば、途中で修正しにくいうえ、その後の構築/運用はリスクに晒される