MacBook Air

アップルの「MacBook Air」は、同社ひさびさのモバイルノートパソコンだ。なにをもって「モバイルノートパソコン」と定義するかは時代によって変わってくるが、仮に1997年に発売された「PowerBook 2400c」(10.4型ディスプレイ搭載で約1.98kg)をMac最後のモバイル機と考えると、実に10年以上ぶりに"気軽に持ち歩きできるMac"が登場したことになる。

そんなMacBook Airの特長は、なんといっても薄いこと。最厚部でも19.4mmという超スリムボディはほかに並ぶノートPCがない。そして重量は約1.36kgと軽量だ。1kg以下の製品が多数流通しているなか、数字だけ見ると軽いとは感じられないが、13.3型ディスプレイ搭載機としては際立って軽い(残念ながら最軽量の座は、後日発表されたレノボ「ThinkPad X300」=約1.33kgに奪われてしまった)。

MacBook(高さ27.5mm)との薄さ比較。実際に薄いだけでなく、緩やかにカーブした底面など、デザインの力によってもスリム感を強調している

ただし、この薄さ・軽さと引き替えに失っているものも少なくない。まず、大きなものとして光学ドライブが非搭載となっている。有線LANポートやアップル自慢のFireWireポート(6ピン)も大胆にカット。拡張性を確保するUSBポートもわずか1ポートしか用意されていない。また、内蔵HDDも低速な1.8インチタイプとなっており、容量も80GBと心許ない(購入直後時点で約57GBの空き)。

USBポートは非使用時は収納可能なリトラクタブルタイプ。USBポートのほか、イヤフォンジャック(手前)とMicroDVIポート(奥)も用意されている

周辺機器はワイヤレスで接続する

この"代償"というにはあまりに大きな割り切りについて、アップルが採った解決策こそが、本機の「Air」たるゆえんだ。本機は、光学ドライブの非搭載や内蔵HDDの容量不足などといった弱点を無線LAN(IEEE802.11nドラフトおよびa/b/gに対応)を最大限活用することで解消しているのだ。

まず、"光学ドライブがない"ことについては、「Remote Disk」という仕組みを用意した。これは、同一ネットワーク上にあるパソコン(Mac、Windowsは問わない)の光学ドライブを無線LAN経由で利用するというもの。対象となるパソコン側に専用ソフトのインストールが必要(Mac OS X 10.5.2以降の場合は不要)となるが、その手順さえ踏んでしまえば、以後は簡単な操作で光学ドライブを利用できるようになる。

Finderウィンドウのサイドバーに表示されている「リモートディスク」をクリックするとネットワーク上のマシンが表示されるので(左上写真)、ドライブ代わりに使いたいマシンを選択。光学ドライブの「使用を依頼」すると(右上写真)、相手のマシンに利用を許可するかのアラートが表示される(左下写真)。それを「Accept」されると、Air側にメディアがマウントされる(右下写真)

"HDD容量が足りない"点については、同時発表された大容量HDD内蔵AirMacベースステーション「Time Capsule」を利用することで対応できる。Airに搭載されている「Mac OS X 10.5(Leopard)」には、OSレベルでバックアップ機能が用意されており、「Time Capsule」と連携させれば、HDD内の重要なデータを随時自動複製してくれるのだ。

なお、Time CapsuleにはUSBポートが用意されており、ここにプリンタを繋げばワイヤレスでの印刷が可能になる。加えて、MacBookAir本体はBluetooth 2.1+EDRに対応しているのでマウスなどはこれで繋いでしまえる。これによって"USBポートの数が少ない"という問題もクリアできる。

ただし、この「Air」ソリューションも完璧なものではない。どうやってもFireWire接続の周辺機器をつなげることはできないし、Remote DiskもDVDビデオの視聴には非対応なうえ、一部ソフトウェアのインストール時にエラーが出る(BootCamp利用時の「Windows XP」など)といった問題が報告されている。

なにより環境を整えるためにかなりの出費を強いられる点が厳しい。ストレスなく使うために、Time Capsule(Apple Store価格=1TBモデル:5万9800円/500GBモデル:3万5800円)、外付けドライブ(Apple Store価格=1万1800円)、Bluetoothマウス(純正品がApple Store価格=8800円)などをそろえていくと、なんと10万円近い費用がかかるのだ。もちろん、全ての人に全ての周辺機器が必要なわけではないが、IEEE802.11n環境に関してはAirユーザーの"必須"項目と思っておきたい。

しかし、その点さえ乗り越えてしまえば、あとは良いことづくめと言っていい。

フルサイズキーボードと新操作感覚のタッチパッド

まず全ての人に利する美点として大きなキーボードを挙げよう。Air発表時、アップルのジョブズCEOは従来のモバイルノートパソコンのキーボードを「ミニチュア」と揶揄したが、そう言うだけあってAirのキーボードは正真正銘の「フルサイズ」。デスクトップ機や他のノート型Macと同じ配列&キーピッチを確保しているので、複数マシンを切り替えて利用するときにありがちなタイプミスが発生しない。

デスクトップ型Macに付属するキーボードとのサイズ比較。キーピッチ約20mmとなっており快適なタイピングが可能。配列もFnキー回り以外、同一だ

キーボードは暗所で光るバックライト搭載型。刻印された文字を透過するように光るので、暗所でも惑うことなくタイピングできるようになっている

トラックパッドに関しては、新たに「iPod touch」ライクな「マルチタッチ」操作に対応した。トラックパッドを掃いたり(スワイプ)、つまんで縮めたり広げたり(ピンチ)といった操作で各種アプリをコントロールできるのだ。 。

トラックパッドは過去最大サイズ。直観的な操作で画像の拡大・縮小やウェブブラウザの戻る・進む操作ができる「マルチタッチ」が快適に利用できる

スペックはHDDを除けば軒並みモバイルPCの水準以上を誇る。まずCPUはインテルのCore 2 Duo(1.6GHz)を搭載。一般的なモバイルノートに搭載されている1.2GHzクラスのものと比べて明らかに速いうえ、CTOで1.8GHzにすることもできる。メモリは2GB固定で増設不能。ディスプレイは13.3型LEDバックライト付きTFTディスプレイ(1280×800ドット表示)を装備する。

バッテリー駆動時間は公称約5時間。独自の測定法を使っているため、他のWindows搭載機と比較することはできないが、ディスプレイ輝度を半分にし、ウェブブラウジングや電子メールの送受信程度の作業を行なった場合で、約4時間強程度利用できた。一般的な「JEITAバッテリ動作時間測定法 Ver1.0」で8時間駆動を謳っているマシンとほぼ同等という印象だ。ただし、バッテリーが本体に内蔵されており、ユーザーレベルでの交換ができない点は非常に残念。

機能をあきらめて小型化するという発想から始まったモバイルノートパソコン(サブノート)は、ここ数年、あきらめずに全てを盛り込む方向へ進化してきた。そんななかに登場したMacBook Airは、モバイルノートパソコンに必要とされる"全て"とは何かを再定義してきた製品と言えるだろう。人によっては妥協不能な問題点も多く備えているため、万人におすすめできる製品ではないが、圧倒的な薄さやフルサイズキーボードに代表される優れた操作性などの美点を評価できる人にはイチオシのマシンと言える。

スペック

CPU Core 2 Duo(1.6GHz)
チップセット 不明
メモリ 2GB(最大2GB)
グラフィックスチップ Intel GMA X3100(チップセット内蔵)
ディスプレイ 13.3型ワイド(LEDバックライト、1280×800ドット)
HDD 80GB
光学ドライブ なし
有線LAN なし
無線LAN 内蔵(IEEE802.11a/b/g/n)
Bluetooth 内蔵(Bluetooth 2.1+EDR)
モデム なし
Webカメラ iSightカメラ
その他の主な機能 とくになし
メディアカードスロット なし
拡張カードスロット なし
インタフェース Micro-DVI、USB2.0×1、ヘッドホン出力
本体サイズ 325(W)×227(D)×4~19.4(H)mm
本体重量 約1,360
バッテリ駆動時間(公称) 約5時間
OS Mac OS X v10.5 Leopard
価格 22万9,800円

(ジアスワークス)