徹頭徹尾、謎に包まれた映画『クローバーフィールド/HAKAISHA』がいよいよ4月5日に公開される。

「現在の映画のプロモーション手法は作品について語りすぎてしまう。劇場で観客をあっと言わせたかったんだ」というプロデューサーJ.J.エイブラムスの意向により、全米での公開前から作品についての情報露出は厳しく規制されていた。初めてティーザートレーラーが衆目に触れたのは昨年の7月2日。『トランスフォーマー』の上映館において何者かがニューヨークを蹂躙する衝撃的な映像が突如流れたのだ。タイトルも何もかもが秘されたまま、首のない自由の女神像がマンハッタン島を望むポスターも掲出されたが、それはまさに「teaser(=じらす)」であった。

全米に衝撃を与えた1枚だ

ある日、情報を収集していたネットウォッチャーが「http://www.1-18-08.com/」というサイトを発見する。数枚の写真が無造作に置かれており、1枚ずつドラッグして移動させることができる。裏返すとメッセージのようなものも見て取れるが、これが何を意味するのか、ヒントなのかミスリードなのか、そもそもこのサイト自体が何であるのか、謎は謎を呼んだ。

もう一つ、謎のサイトが議論の俎上に上がる。写真に残されたキーワードから導き出された「タグルアト」という日本企業の"オフィシャルHP"だ。海底油田の開発、飲料水「SLUSHO!」の製造販売などを主な業務とし、「吉田ガヌ」なる変わった名前のC.E.O.が率いるということくらいしかわからない。

公開まで二カ月を切ったころ、作品のタイトルが「Cloverfield」であるとの発表が行われる。意味はもちろんわからない。その後時置かずして、Youtubeにタグルアト社所有の大西洋の油田基地が大惨事を引き起こしたというニュース映像がアップロードされ、興奮が全米を覆った。

好奇心に駆られ、情報を渇望するユーザーと、完全に沈黙を守る制作サイド。トレーラーがネット上にアップされるや、世界中の映画ファンがこの謎の作品の虜となった。

そして2008年1月18日。『Cloverfield』は全米公開日を迎える。

謎の真相を自身の目で確かめたい、という人々が殺到し、なんと週末興行収入は4,100万ドル。1月公開の映画としては『スター・ウォーズ特別編』(1997)の記録を塗り替え、歴代1位という快挙を成し遂げた。

『クローバーフィールド/HAKAISHA』の日本公開を目前に控えた今、人々の期待と興奮はまさに暴発寸前だ。この「HAKAISHA」というサブタイトルはJ.J.エイブラムス自らが付けたのだというが、当然、日本の配給サイドも最低限の情報しか流していない。

一つ、確かなのは「何か巨大なもの(=HAKAISHA)がニューヨークを破壊する」ということ。

ジャパンプレミアにて。首のない自由の女神像が怪しくライトアップされている。左からマット・リーヴス監督、リジー・キャプラン、J.J.エイブラムス、マイケル・スタール=デヴィッド

4月1日に都内で行われたジャパンプレミアにおいて、J.J.エイブラムスは「この作品は日本でインスピレーションを受けて作ったんだ」と名言した。2006年6月、『M:I3』のプロモーションで来日した際、息子とトイショプに立ち寄り、「ここには文化的に生き延びている"HAKAISHA"がたくさんいる」と感じたという。「僕は東宝の怪獣映画で育った。ゴジラに与えてもらったドキドキと感動を違う方法で伝えたいと思った。オリジナルを超えるということではなくて、まったく違う手法でね。それが日本の偉大な発明であるハンディカメラで撮る、ってことだったんだ」。

何か巨大なものが……

『クローバーフィールド HAKAISHA』に固定カメラからの映像は存在しない。主人公ロブ(マイケル・スタール=デヴィッド)をはじめとした、登場人物たちが持つハンディカメラによる一貫した個人主観の"ビデオ"が延々と流れるだけだ。それは「その場に居合わせる恐怖」を体感するには十分すぎるほどのリアリティを観る者に突き付けてくる。「本当に怖いのは"見えない"ことなんだ。ジョーズだって水中に隠れて見えないってことがものすごく怖かったでしょ。ロブはもちろん撮影の素人だし、パニックに陥っているから大事なものを撮りこぼす。そして音と悲鳴だけが響くんだ」。こう言ってJ.J.はニヤリと笑った。観客を恐怖に突き落とす準備は万端のようだ。

プレミア会場が暗転、爆音と共に、吹き飛ばされた自由の女神像の首がステージから現れた!

その脇からにこやかに登場するスタッフ&キャスト。「残念だけど、これは実際に使ったものじゃないんだ」とJ.J.エイブラムス

しかし、『クローバーフィールド』はただの恐怖映画では終わらない。人間同士のドラマもしっかりと描いている。脚本のドリュー・ゴッダードは「制作の入る時点で、9.11の比喩にしようとかは考えてなかったけど、極限状態の中で、人間ひとりひとりがどう対処するか、そこに焦点を当てた。生きるか死ぬかってときの優先順位を認識して、再評価してもらいたい」と語る。

東京が世界でいちばん好きな都市だというJ.J.と

J.J.に「巨人」呼ばわりされる盟友ドリュー・ゴッダード。『バフィー 恋する十字架』の脚本に始まり、『エンジェル』、『エイリアス』など華々しいキャリアを積み上げている

監督のマット・リーヴスは、J.J.とゴッダードからこの作品のアウトラインを聞かされたとき、「なぜ僕に?」と疑問に思ったという。「まるでローランド・エメリッヒの『インデペンデンス・デイ』みたいだと思ったんだ。僕はそういう特殊効果満載の映画はやったことがないし、できるだけ自然なドラマを大切にする作品を撮ってきたのに。一人称視点で撮ったらどうだい、って提案されたとき、そういう縛りがあれば従来の怪獣映画のファンタジーな作りとは違うものが出来ると思った。アングルごとにテイクを重ねて、いちばんいいカットを繋げて作るのではなく、カメラが1台しかないからスタッフもキャストも1テイク1テイクを完璧に、集中して撮らないといけない。みんな最良の方法を考えながら頑張ってくれた。監督としてすごく満足しているよ」。

緊迫した映像の連続だ

恐怖の演出で重要なのはいかにリアリティを出すか、ということだ。そのためにキャスティングにもこだわった。その条件は「一見して誰なのかわからない俳優」。誰もが知る有名俳優が恐怖に顔を引きつらせ、逃げ惑ったとしてもやはりそれは「作り物」という印象しか観客に与えることはできない。そこで抜擢されたのがリジー・キャプランやマイケル・スタール=デヴィッドら、新進の俳優勢だ。

リジー・キャプラン

マイケル・スタール=デヴィッド

マイケル・スタール=デヴィッド演じるロブは日本に発つ前日、自身のお別れパーティの真っ最中に"HAKAISHA"の襲撃に遭う。会場の突然の停電。あたりに響く轟音と咆哮。和やかなパーティの様子を映していたハンディカメラは一転、困惑と恐怖に歪む人々の表情と、喉を涸らさんばかりに絞り出される悲鳴を記録し始める。「もっと早く出発しておけばよかった」というロブの発言は、きっと誰もがロブに自分を置き換えたときに考えることだろう。

『ミーン・ガールズ』(2004)で知られるリジー・キャプランはマレーナ役。「彼女は態度がすっごく悪いの。でもストーリーが進むにつれて少しずつ変わっていくから、そこを観て」とコメントした。

J.J.の友人、マジシャンのセロも駆けつけ、日本公開を祝った

『クローバーフィールド/HAKAISHA』は「全く新しいアトラクションタイプの映画」と銘打たれている。素人の撮影に似せてプロのカメラマンが撮った映像は、まるでジェットコースターに乗っているような感覚を、我々観客に体験させてくれる。しかし全米公開時、車酔いに似た症状を訴える人が続出、急遽日本では警告文が掲示されることとなった。迫力ある映像を余すところなく楽しむためには、万全の体調で劇場に赴いていただきたい。

『クローバーフィールド/HAKAISHA』は4月5日(土)よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他にて全国ロードショー。真実を目撃しに行こう

『クローバーフィールド HAKAISHA』ジャパンプレミア

作品のキャスト、スタッフのほかに、日本人ゲストも大勢登場したジャパンプレミア。豪華な面々を写真で紹介していこう。

相変わらずゴージャスな叶姉妹。サインを頼まれると気軽に応えていた

眞鍋かをりは鮮やかなグリーンのドレスで。背中が大きく開いていることをレポーターに指摘されると、「すごい鳥肌たっちゃってるんですよー。隠すためにキラキラ塗ってきました(笑)」

夏目ナナ

"予想GUY"ことダンテ・カーヴァー。ソフトバンクモバイルのCMで、すっかり上戸彩の"兄"として定着した

(C)2008 Paramount Pictures. All Rights Reserved.

撮影:石井健