ハードウェアの開発分担は具体的には述べられなかったが、スカラ部は富士通、ベクトル部はNEC・日立連合軍が担当するというのは、半ば公然の秘密である。理研の発表の図では、スカラ部とベクトル部は同じ大きさで描かれているが、これらの演算部の比率が1:1とは限らない。この比率がどうなるかは興味のあるところであるが、今回も、この点については発表されなかった。
実は、今回の理研シンポジウムでは、3月13日に理研の情報基盤センターの重谷氏が、理研センターの現在のスパコンの運用状況とリプレース計画について発表を行っている。理研の情報基盤センターの現用システムは理研スーパーコンバインド・クラスタ(Riken Super Combined Cluster、略称RSCC)というシステムで、3.06GHzクロックのシングルコアXeonを2チップ搭載する1Uサーバ512台をInfiniBandで接続したクラスタと、これと同構成の512ノードをMyrinet/IBで接続した、合計2048 CPUチップのPCクラスタからなるスカラ部、そしてNECのSX7/32のベクトル部で構成されている。このシステムのスカラ部のピーク性能は12.4TFlops、ベクトル部のピーク性能は0.285TFlopsである。また、PCクラスタの一部のマシンには分子動力学計算専用のアクセラレータであるMDGRAPEが付いている。設置当初は、MDGRAPE 2であったが、現在ではMDGRAPE 3にアップグレードされており、この部分のピーク性能は64TFlopsである。
このRSCCシステムは、2004年3月に運用を開始しており、すでに4年を経過して5年目に入っている。スパコンの更新時期は5年程度が一般的であり、このRSCCは2009年2月にリースが切れる予定である。このため、理研は、次期システムへのリプレース計画を検討している状況である。
このRSCC後継システムでは、PCクラスタ部を100TFlops以上と、現状の8倍以上に強化し、MDGRAPE 3やGPGPU、SIMDアクセラレータなどを接続する多目的PCクラスタ部に10TFlops以上の性能を持たせる。そして、大容量メモリ計算機部に512GBの共有メモリを持つシステムを設置する計画である。そして、大容量メモリ計算機部のピーク性能は0.23TFlops以上となっている。
大容量メモリ計算機部は、単一の大きなメモリ空間を必要とする計算向けで、ハードウェアとしては、ベクトル計算機でも良いし、スカラの大型SMP計算機でも良いという。ということで、RSCC後継システムでは、PCクラスタ部は現状の10倍近くに強化されるのに較べて、ベクトル機は大容量メモリ計算機部として採用されたとしても、ピーク性能では、現状より多少縮小傾向である。
理研の情報基盤センターのメンバーと、次世代スーパーコンピュータ開発実施本部のキーメンバーは重複しており、このRSCCの次期システムの構成から見て、日の丸スパコンでもスカラ部の比重がかなり大きくなっているのではないかと推測される。
なお、RSCCは1024台のXeon 2ソケットサーバを運用しているが、平均して月に3台程度は故障して修理しているとのことであり、桁違いに規模の大きい日の丸スパコンでは、信頼性が大きな問題になる。渡辺氏は、講演の中で、数万ノードにもなる多数のプロセサを効率よく動かすような高い並列性を持つアプリケーション・ソフトウェアの開発と並んで、信頼性の確保も大きな技術的チャレンジであると述べていた。