次に掲げる図は、理研の次世代スーパーコンピュータ開発実施本部のWebページに掲げられている開発スケジュールであるが、渡辺氏は、これとほぼ同じ図を示して、開発進捗状況を説明した。

次世代スーパーコンピュータの開発スケジュール。(出典:理研の次世代スーパーコンピュータ開発実施本部ウェブサイト)

このスケジュールに従って、昨年度は概念設計を行い、文部科学省や総合科学技術会議の評価を経て、昨年9月にシステム・アーキテクチャを決定した。現在は、このシステム・アーキテクチャに基づき、LSIやシステムソフトウェアの詳細設計が進んでいる状況であるという。そして、2009年の中頃には詳細設計が終わり、その後、試作評価を経て量産を行い、2011年の4月から一部のシステムの稼動を開始する。大量のハードウェアであるので、分割しての納入となり、システム全体が完成するのは2012年の3月となる予定である。

この次世代スパコンの設置場所は、神戸のポートアイランドに決定しており、システムを設置する計算機棟と、研究教育拠点となる研究棟が建設される。計算機棟の設計はすでに完了しており、今年度中には建設業者を選定し、4月から着工の運びになっているという。

次世代スパコンシステムの特徴。スカラ部とベクトル部と両方からアクセスできる共有ファイルからなる。

システムはLINPACK 10PFlopsの達成だけでなく、各種アプリケーションの実効性能を重視したシステム構成を目指しており、スカラ部とベクトル部からなる複合汎用システム構成を採った。このような構成により、(1)スカラ、ベクトルの両演算部の使い分けにより、各アプリケーションを最適な方の演算部で実行できる、(2)両演算部の同時使用により、マルチスケール問題への対応など、一つの問題にスカラ、ベクトルに適した部分を含むような計算を効率的に実行可能、(3)(2つの演算部があるが、システムソフトウェアにより)ユーザは両演算部を意識することなく、一体的な利用環境を提供できる、と説明された。

各種のアプリケーションで高い実効性能を達成できるよう、広い範囲の利用分野から次に示す21本のアプリケーションを選定し、ベンチマークテストを作ってアーキテクチャの検討を行ったと言う。

次世代スパコンのアーキテクチャ検討に使用した21本のターゲットアプリケーション。

また、ハードウェアに関しては、45nm半導体プロセスを用いる低消費電力CPUや光インターコネクトの採用などにより、低コスト、かつ、利便性の高い汎用システムになるという。

アプリケーションに関しては、ナノテクノロジー分野とライフサイエンス分野をグランドチャレンジと位置づけ、前者は岡崎の分子科学研究所が中心となり、後者は理研が中心となって開発を推進している。ナノテクノロジー分野では、原子レベルでの相互作用を計算し、太陽電池などの代替エネルギー源の研究、医薬品を中心とする次世代ナノ物質の研究、半導体やそれ以外の次世代情報処理機能物質の研究などを加速するナノ統合シミュレーションソフトウェアの開発を進めている。ライフサイエンス分野では、分子レベルから、細胞レベル、臓器レベル、そして全身レベルで生体内の現象を統合的に理解するための生体統合シミュレーションソフトウェアの開発を進めている。