「紀元前1万年」はタイトルどおり、今から1万2千年前の世界を描いた映画だ。この手の映画でよくあるのが、現代人がタイムスリップして迷い込むといったプロットだが、この映画にはその種のヒネリはない。正真正銘の原始人や当時の生き物しか出てこない(と言い切るにはちと微妙なのだが…)。監督、脚本は「インデペンデンス・デイ」「デイ・アフター・トゥモロー」でおなじみのローランド・エメリッヒ。CGを使った荒唐無稽な大作で知られている。ただそのぶん、ストーリーや細かい演出がおろそかになっている感も拭えないのよね。

今回もCGで魅せまくる!

見どころは、なんと言ってもエメリッヒらしいCGを使ったスケールの大きな原始時代の再現。「毛筋1本までよみがえらせた」と宣伝文句に謳われている迫力のマンモスの大群 vs. 原始人のバトルや、壮大な情景を空撮のような形で見せるやり方はたしかにスケール感たっぷりだ。最初、CGのマンモスが大暴れすると聞いて、オイラの頭をよぎったのは…そう、アレだ。緒形直人を俳優生命の危機に追い込んだ超B級大作「北京原人 Who are you」。あの映画の本当のツッコミどころはマンモスなんかじゃないのだが、さすがにあれから10年、ハリウッドの最新技術を使ったマンモスのリアルさは別次元だった。あーよかった。とはいえ、動物CGのデキが良いだけじゃ、BBCの作ってる科学番組と大して違わない。映画なんだから、もっとエンターテイメントがなくちゃね。

一昔前の「カッ○ヌードル」のCMっぽくもある

というわけで肝心の物語は、ヤガルという狩猟種族の村から始まる。この村にある日、行き倒れになった母親とともに青い瞳をもつ種族の少女、エバレットが流れ着いた。この娘が物語のヒロインだ。彼女が住んでいた村は「四本脚の悪魔」に全滅させられたそうだ。その話を聞いた村の長老の巫女はカッと目を見開き、脳裏に浮かぶ「四本脚の悪魔」のビジョン……ってコレ、馬に乗った人じゃん?! 紀元前1万年というと、日本だと石器時代から縄文時代への過渡期で…なんて考えながら見てたのだが、早くもアホらしくなってきた。同時にこの長老、将来ヤガルの村もこの悪魔に襲われて全滅することやら、そのとき救世主が現れ人民を救う等々、ヤケに細かい予言をして、実際物語はその通り進む。これって予言じゃなくて、単なるネタばらしでは…?

碧い眼のエバレット

とにかくここで予言された「救世主」となるのが、主人公のデレーという少年。父親は村のリーダー的存在だったが、長老の予言を聞いてある日失踪する。残されたデレーは臆病者の息子ということで周りにいじめられ、屈折した少年時代を過ごす羽目に。

レゲエミュージシャンのようなデレー君

そして、これまた都会から田舎に来た転校生みたいに村になじめないエバレットと、はぐれ者どうし惹かれあい将来を誓う…何だか「砂時計」みたいな展開だな(わかりにくいネタ振りでスマソ)。

いかにも! なファッションである

時は流れ、エバレットもデレーもそこそこ大人になったころ、予言どおり村は騎馬民族(苦笑)に襲われ、エバレットをはじめ多くの人がさらわれてしまう。難を逃れたデレーは、3人の仲間とともにこれを追いかける旅に出た。ちなみに紹介しておくと、エバレット役はカミーラ・ベルという女優さんで、『ジュラシック・パークII』の冒頭で恐竜に襲われる子役だったそうな。大きくなったねえ。デレー役はスティーブン・ストレイト……全然知りません。あとエンドロールの出演者クレジットを見てたらオマー・シャリフの名前が! どこに出てたっけ?と思って調べたら、ナレーションでした。

捕らえる道具は網!

さて、デレーたちは冒険の中、意外な肉食獣に襲われたり、サーベルタイガーが現れたりと、それなりに見せ場は続く。やがて「四本脚の悪魔」に襲われた他の部族の応援も借りて、ついに敵の本拠地に乗り込んだ。そこに広がるのは、拉致した人を奴隷としてこき使って建造を進める巨大なピラミッドだった!

ガオーッ!

ええーっ?

ここまで来ると、もうピラミッドでも円盤でも出してくれって気分だが、このピラミッド、見かけも作り方も西暦20XX年の救世主マンガに出てくる"聖帝十字陵"そのものじゃん。オマケに敵側にも予言があって、ある「印」が見つかったときに自分たちを狩りに来る「ハンター」が現れるという。エバレットに付けられた傷がその「印」の形をしていることがわかり、敵は大騒ぎ。その形とは…?! さらに結末まで行くと、「少年ジャンプ」の読者なら、大きなデジャヴを持つことだろう(ちょっと「宇宙戦艦ヤマト」テイストも入ってるかも)。これってエメリッヒ一流のオマージュ? それともパク……?(以下自重)。違うのは、「救世主」であるデレーがけっこう普通の人で、大して強くもなければカリスマ性も感じられないことか。この頼りないヤツに、みんなよく運命を任せられるなって思うよ。

がんばってるんだけどね

それにしても、これだけオーバーテクノロジーを出してくるなら、超古代文明が核戦争で滅びた後の話とか、敵ボスの正体は異星人だったって話にしてもまったく違和感ない。どうせならそのくらいのオチつけた方が良かったんじゃないの? エメリッヒさん!

CGの迫力はやっぱりスゴイ。これだけでも見る価値アリ!

(C)2008 Warner Bros. Entertainment Inc.

『紀元前1万年』

出演:カミーラ・ベル / スティーブン・ストレイト / クリフ・カーティス
監督・脚本・制作:ローランド・エメリッヒ

予告編はこちら

4月26日より丸の内ピカデリー1他にて全国ロードショー