趣味で撮影した写真を、素敵に可愛く変身させたいと思ったことはないだろうか? そんな願いを叶えてくれるのが、普段は写真展示を行う「NADAR/OSAKA」(大阪市中央区)。3月16日まで「ナダール写真学校」と銘打ち、写真にまつわる様々な授業を展開している。

「NADAR/OSAKA」では、「写真に関するすべての事」をやろうと写真ギャラリー、撮影、企画、教室、デザインなどを行っている。「ナダール写真学校」は初めての試みで、写真好きの人たちが知りたいであろう「ざっくり世界写真史教室」や「色々な写真の展示方法教室」、「おうちでできる製本教室」、「ポートレート撮影教室」、「モノクロ体験教室」、「写真相談室」(各日程など詳細はこちらを開催。写真専門ギャラリー・スタッフだからこそ分かる、かゆいところに手が届くような内容ばかりだ。

数ある授業の中で、私が生徒として参加したのは「おうちでできる製本教室」。その名の通り、「自宅にある物でできる」というのがポイントだ。写真を貼るための、ハードカバーの書籍やノートは用意するとなると少し高価なイメージだが、なんと手作りすることができるという。私の参加動機は、「結婚式から半年経った今も放置したままになっている写真を製本して写真集にしたい」。不精で不器用な私に果たして製本ができるのだろうか……。

店頭に並べても売れそうな出来栄えに大満足

先生は「NADAR/OSAKA」マネージャーの橋本大和さん。橋本さんが製本を始めたきっかけは「写真はもちろんだが、コンテストでの製本の完成度も上げようと思った。雑貨も好きだから作ってみたくなった」ということで、今回その技術と楽しさをお裾分けしてくれた。

まず始めに、私が実際に製本したノートを披露しておく。私でも店頭に並べても売れそうな出来栄えと、自画自賛できるまでに至った製本の軌跡を紹介しよう。

私が製本したハードカバーのノート。初めての経験だったが、小学校時代の工作を思い出しながら、きれいに仕上がった

作業を始める前の机の上には、材料として表紙に使うお気に入りの布、表紙の芯に使用するボール紙、製本して綴じ合わせる本体のノート、見返し用の紙2枚、寒冷紗、しおりひも、花ぎれがずらりと並んでいた。これらが合体すると出来上がる。道具は、カッター、はさみ、長定規、たこ糸、クリップ、木工用ボンド、でんぷんのり、刷毛、編み針や菜箸、チラシなどの要らない紙を使用している。

材料や道具がずらり。家庭にある物や余った物で気軽に作ることができるので、何度も製本しようという気になるかも?

前準備としては、木工用ボンドとでんぷんのりを半々に混ぜて「混合のり」を作る。伸ばしづらい木工用ボンドと、水分が多いでんぷんのりを混ぜて使い易くするためだ。用意ができると早速、「本体と見返しを貼り合わせる」という工程からスタート。表紙を剥がし取ったノートに、二つ折りにした見返しの片側を貼っていく。

背表紙から3mmほどの部分にだけ刷毛でのりを塗るのは、コツをつかむと簡単。久しぶりの工作が楽しい

次に寒冷紗、しおり、花ぎれを本体に貼り付けた。寒冷紗は織り目の粗い薄地綿布、花ぎれは背表紙と本体が接着されている間に見える小さな布で、製本の際の補強には欠かせない。

背表紙にのりをつけ、寒冷紗としおりを貼り付けた。家にある本も裸にするとこうなっているはず

開きたいところを我慢、我慢

いよいよ表紙(背表紙含む)を作る。仕上げた本体の寸法を測り、それを基にして表紙2枚と背表紙1枚分の芯となるボール紙を切る。細かく寸法を測るのは1番苦手。いつも見るハードカバーの本を想像しながら、寸法に余裕を持たせるなど調整しながら作業を進めていった。続けて表紙に使う布が薄い布だったため、布のゆがみやのりが染み出るのを防ごうと、接着芯で裏打ち。扱いやすくなった表紙用の布を裏返し、表紙2枚の間に1cmずつ空けて背表紙を並べ、四方約1.5cmの余白をつくって布を切る。それにボール紙を貼り付け、余白の布も内側に折り曲げて接着する。完成形が見えてきて一気に興奮が高まる。

苦手な寸法測りを乗り越えて、表紙用の布と芯が一体化。出来上がりに期待が膨らんできた

平日だったため"先生"である橋本さん(写真右)からマンツーマン指導で教わる。同席した参加者(写真左)も布をきれいに折り曲げて表紙と芯を貼り合わせる作業に真剣

いよいよ、本体と表紙を貼り合わせる。表紙2枚と背表紙の間に空いた1cmずつの隙間にのりをつけ、本体に合わせてそっと被せる。編み棒を溝にはめてクリップで固定し、そのまま約10分間放置。完成を目の前にやっと一息ついた。

ついにそれぞれ出来上がった表紙と本体が合体

クリップや編み棒を使って固定され、こんな姿になりながらのりが接着するのを待つ

表紙と本体が接着されると、クリップなどは外し、溝には凧糸をかけて固定し結んでおく。これで終わり……と思いきや、まだ最後に見返しと表紙を張り合わせる作業が残っていた。私はのりの伸ばし方にむらがあったのか、プレスが弱かったのか、集中力が切れたのか……、見返しがしわしわになってしまった。だが、同席した参加者の「手作りの味ですね」という励ましが嬉しく、じわじわと出来上がった製本にも愛着が湧いてきた。今度こそ完成である。「できた! 」と歓声を挙げノートを開いてみようとすると「まだダメ! 」との橋本さんの声が。凧糸はそのままに、開きたいところを我慢して1日乾かすという忍耐が大事なのだ。そこで、2時間余りをかけて99%出来上がった製本の写真を撮影したり、批評し合ったりと喜びを分かち合う。同じ花柄でも、参加者によって出来上がりは様々。選ぶ布や紙で新しい1冊が生まれるのが製本の魅力だろう。

最後の最後で残念! 見返しにしわができてしまった。これも"手作りの味"

重い書籍を載せておいたり、体重をかけてプレスすることが、しわや反り返りを防ぐのに大切

同席した参加者の製本(写真左)は女性らしい花柄が大人の印象。布が違うとこんなにも印象が違うから驚きだ

橋本さんがインクジェットプリントした写真を製本した写真集。黒い布の表紙と、赤い紙の見返しがシックでお洒落な印象を醸し出す。製本はアイデア次第で、様々なバリエーションを楽しむことができる

インクジェットでプリントした用紙で本体を作るオリジナルの写真集やスクラップブックのほか、文庫本の表紙を付け替えて、ずっと大事にしておくこともアイデア次第。今回をきっかけに、結婚式の写真集はもちろん本棚が自作のハードカバーで埋まることは間違いなしだ。