こうした状況の中、ワークライフバランスの重要性が昨今強調されるようになってきているが、その背景には育児や介護により時間制約のある社員が増加したことに加え、社員の価値観やライフスタイルの多様化も挙げられる。佐藤氏は「ワークライフバランスは女性の問題と捉える傾向があるが、男性にとっても大事なこと。企業にとっても予測できないリスクを吸収できる体制を整えることにより、生産性を高めることができる」と述べ、仕事を第一に考えるこれまでの体質から脱却し、企業はワークライフバランスの実現を重視すべきだと提案した。

東京大学社会科学研究所・日本社会研究情報センター教授 佐藤博樹氏

佐藤氏によると、ワークライフバランスで実現すべき内容は3つ。まずは、社員の時間的制約を前提とした仕事管理/働き方の実現。その解決策として「仕事と時間の管理に対する考え方は、これまで仕事の総量を基本として仕事がすべて完了するまで時間資源の投入を行ってきたが、これからは時間総量を軸にその範囲内で実現可能な仕事の付加価値の最大化を目指していく管理の仕方を行うよう変えること。経営者は時間資源を"有限な"経営資源と捉え、仕事の優先順位を付け、無駄な仕事の排除や過剰品質を解消するなど、時間資源を合理的・効率的に活用する取り組みを意識化しなければならない」と説明した。

2点目は、ワークライフバランス支援のための制度の導入と、制度を導入できる職場づくりの整備。社員の仕事の重複化や、担当できる仕事の幅の拡大、情報の共有化などの人材育成を図ると同時に、お互いがサポートしあう意識を浸透させ、ワークライフバランス制度を利用する同僚の仕事をカバーした社員には、報酬や能力開発機会などに優位に反映する環境も整えていかなければならないという。

3点目は、多様な価値観やライフスタイルを需要できる職場づくり。これはワークライフバランス実現にとってなによりも重要なもので、他の2つのポイントの土台となる。佐藤氏は「女性の育児休暇については理解が得られていても、男性が育児休暇まではまだのところが多い。自分が望ましいとしてきたことを部下も望ましいと考えているわけではないということを管理職は認識すべき。管理職が多様な価値観や生き方、ライフスタイルを受容できるかが、ワークライフバランスを実現する職場づくりを左右する」と述べ、ワークライフバランス支援の定着でカギを握るのは管理職の意識改革にあることを強調した。