あの『スーパーサイズ・ミー』を覚えているだろうか。30日間ファーストフードのみを食べ続けるというモーガン・スパーロック監督の実体験を綴ったドキュメンタリー映画で、当時その結末に凍えた人も多かっただろう。「食べたらどうなるか」を描いたこの作品だが、では、その食べ物は誰がどうやって作っているのか、知る勇気はあるだろうか。
16日より公開される映画『ファーストフード・ネイション』は、その規格化・工業化された"食"の実体に迫った作品。あの『スーパーサイズ・ミー』にも大きな影響を与えたという『ファストフードが世界を食いつくす』(エリック・シュローサー著 草思社刊)を元に、ジェレミー・トーマス、マルコム・マクラーレンの大物プロデューサーが仕掛け、『スクール・オブ・ロック』などで知られるリチャード・リンクレイターが監督を務めた。2006年カンヌ国際映画祭・コンペティション部門に出品され賛否両論を巻き起こした問題作だ。
ストーリーは、ハンバーガーチェーン店の本社幹部、下請けの工場で働く不法移民、時給のために勤務時間をやり過ごす学生アルバイト、という三者の視点で描かれる。そこに浮き彫りになるのは、食の安全性、格差社会、環境破壊、そして不法移民や労働者搾取など、現代社会に深く根を張る病巣……、それはアメリカだけの問題に留まらない。
リアリティあるドラマはリアリティあるキャラクターによって造られる。キャストには、監督の盟友イーサン・ホークのほか、グレッグ・キニアやパトリシア・アークエット、歌手のアヴリル・ラヴィーンも出演している。さらに、キャスト一覧に名前は無いが"世界一運の悪い奴"でお馴染みの「あの大物俳優」が重要な役どころで顔を見せるという(戦場にはならないようだ)。
昨年からメディアには食品偽装の報道が絶えない。そのタイミングを見計らったように、衝撃の作品がやってきた。偽装問題にはそれこそ「食傷気味」の向きも多いだろうが、自分の口に入るモノが安全かどうかという事の先に、実はまだ多くの問題が連なっているのだ。検査と表示義務と罰則を並べ立てたところで、それは問題のほんの表面であることを、映画は物語っている。
『ファーストフード・ネイション』は2月16日、ユーロスペース他 全国順次ロードショー。配給はトランスフォーマー。
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