ソフトバンク代表取締役の孫正義氏

「これまでに何度も決算会見を開いたが、Googleの名が一番多く出たのは今日だろう」――ソフトバンクの孫正義社長は、2007年度第3四半期決算の説明会の席上でこのように述べた。米Microsoftが検索サービス、それに連動した広告事業の強化を図り、米Yahoo!の買収を提案したことで、創業時から米Yahoo!に出資し、さらには同社と共同で日本のヤフーを設立した孫社長が注目されている。Microsoftと組んでGoogleと対抗するのか、あるいは米Yahoo!独自でGoogleと争闘するのか、また別の道を選択するのか。

これについて孫社長は明言を避けたが、携帯電話とインターネットの融合が進む中、ソフトバンクの新たな戦いの焦点は明確になった。

ソフトバンクにとって、Googleは脅威なのか。直近の四半期決算(2007年10-12月期)をみると、米Googleは売上高が前年同期比51%増の48億2,600万ドル、純利益は同17%増の12億600万ドルで、増収増益だ。一方、米Yahoo!の売上高は同8%増の18億3,190万ドルで増収ではあったものの、純利益は約23%減の2億570万ドルで減益なばかりか、両者の実績には大差がついている。だが孫社長は「Googleは中国では決してナンバーワンではない。日本でも、韓国でもそうだ。(アジアの)漢字圏、お箸を使うところと、ナイフ、フォークを持つところとでは、文化が異なる。箸文化圏ではGoogleはナンバーワンではない。巻き返しのチャンスはある」と強気だ。

「我々も日本ではヤフーで、中国ではYahoo! Chinaを通じて、日中その他の人々に検索サービスを提供しているわけだが、あれこれの機能によっては、勝ったり、負けたりしている。しかし、日本では圧倒的に、大半の人がヤフーを使っている、中国では百度、韓国ではNAVERが強い。アメリカ人技術者のつくった検索システムと、アジア人のつくったそれとでは、まだ差がある。アジア各国の文化・技術を十分理解し、搭載相手のパートナー(検索エンジンの提供先サイト)との関係を考えた上で手を打っていく」と続ける。

2006年の世界の名目GDPの順位では、米国が首位、日本は2位、ドイツが3位だが、すでに中国は4位であり、しかもドイツとの差は縮まるばかりだ。それどころか、早ければ2010年にも日本は中国に抜かれる、との試算さえある。こうした流れをにらんでか、孫社長は「これまでは米国を制した者が世界を制したが、今後は中国を制した者が世界を制する」と強調、「アジアでナンバーワンのネット企業になりたい」と語る。アジアで首位とは、中国で覇者となることとほぼ同義語だ。Googleはアジアではまだ完全に勝利していない。このことが、孫社長の強気の背景にあるようだ。

この日、孫社長は次のように述べた。「これから、インターネットの利用はパソコンではなく携帯電話が中心となる時代がやってくる。携帯電話はインターネットマシンになる」。このような潮流が強くなれば、携帯ビジネスの中核となるのは、NTTドコモやKDDIのような通信会社ではなくて、インターネット企業である、というのが孫社長の主張だ。それはソフトバンクだけではない。「iPhone」を引っ提げて殴り込みをかけてきたApple、渦中のYahoo!、Microsoft、そしてGoogleも携帯電話向けプラットフォーム「Android」を擁し、虎視眈々だ。

しかし、ここでもソフトバンクが優位にあるという。「インフラだけ、あるいはポータルだけをもっている会社はいくつかあるが、インフラ、ポータル、コンテンツ、これらすべてをもっているのはソフトバンクだけだ」(孫社長)からだ。孫社長は「Googleも当初は検索一辺倒だったが、YouTubeを買収したり、最近では携帯電話の領域にも参入する意向を示すなど、手を広げようとしている。最後は総力戦になる。(パソコンの世界では)昔は、表計算では「Lotus 1-2-3」が、日本のワープロソフトでは、ジャストシステムの「一太郎」が先行していたが、総力戦となるとそれぞれ単品ではもたなかった。アジアでも、総力戦の局面ではソフトバンクがリードしている」と自信を示す。また「長期的には、携帯電話によるインターネットをおさえた者が世界でナンバーワンになるのでは」とも語る。

コンテンツ、ポータル、インフラ、すべてを握っている者が総力戦では有利、と孫社長は語る

とはいえ、孫社長はGoogleをみくびっているわけではない。「我々の中長期的な経営戦略では、携帯電話はインターネットマシンになると捉えている」と繰り返したうえで「これから、5年、10年の戦いで、注視すべき相手にGoogleはなる。(彼らと)戦うためには、まずアジアをしっかりと守っていく。結果的に、アジアを守ることが世界一への近道かもしれない」と発言している。いずれは、携帯電話の分野でもGoogleが台頭してくることを予想しているかのようでもある。