富士通は6日、現時点で世界最小というモバイルWiMAX基地局「BroadOne WX300」を開発、4月から販売を開始すると発表した。従来の他社の基地局に比べて同性能で半分程度のサイズを実現し、低コストでの設置・運用を可能にしたという。

BroadOne WX300。隣のノートPCと比べて小型なきょう体を実現しているのが分かる

モバイルWiMAXは、ワイヤレスブロードバンドを実現する無線規格で、1つの基地局で半径数kmのエリアをカバーし、時速120kmの高速移動環境でも大容量通信が可能で、理論値では70~80Mbpsもの高速通信に対応する。

欧米でも事業化に向けて各事業者が準備を進めているところだが、国内でも昨年12月にKDDIなどが出資するワイヤレスブロードバンド企画が総務省から2.5GHz帯の免許割り当てを受け、2009年にも事業を開始する予定になっている。米IntelもモバイルWiMAXを推進し、ノートPCへの組み込んでいく方針を明らかにしており、今後利用の拡大が見込まれている。

富士通による固定・モバイルWiMAXの加入者予測。2008年以降、モバイルWiMAXが牽引して急速に拡大する

WiMAX基地局とLTE(Long Term Evolution、日本でいうSuper 3G)機器の市場予測。合計では、2011年度までに4,000億円近くにまで達する

富士通ではモバイルWiMAXは、携帯電話事業者などによるサービスだけでなく、通信過疎地帯に対するデジタルデバイド対策、ITSや鉄道などといった幅広い応用が行われ、利用者は順調に拡大するとみており、固定・モバイルをあわせたWiMAXの利用者数は2010年には世界で4,800万人となり、WiMAX機器の市場は2010年には2,000億円弱にまで伸びると予測している。

さまざまな領域で拡大が見込まれるモバイルWiMAX

WiMAXの規格化を行う標準化団体WiMAX Forumのボードメンバーでもある富士通は、同社としては初となるモバイルWiMAX基地局を開発。他社同性能の製品に対して小型であり、同サイズの他社製品に対して高性能である点を大きなポイントとしている。

WX300の主な仕様

モバイルWiMAXの基地局は大きく分けて屋外設置用で数kmのエリアをカバーするマクロ基地局、屋外設置用で数百mをカバーするマイクロ基地局、屋内設置用の超小型基地局があり、WX300はマクロ基地局となる。

モバイルWiMAX基地局のラインナップ。今回開発されたのはマクロ基地局の一体型

他社同性能の製品に比べて半分というサイズは、体積が約20リットル、重量は20kg以下となっており、このサイズで出力は10W×2系統。他社同サイズの製品では「出力が2~3Wと小さい」(常務理事・岩渕英介モバイルシステム事業本部長)ということで、小型ながら大出力を実現した。消費電力も200W以下と抑えられ、電源・GPS受信機・光ネットワークインタフェースを内蔵したオールインワンタイプの製品となっている。

小型で電源も内蔵するため、設置スペースの確保も容易で、通常の大きな基地局では別に屋外設置用のシェルターも必要となるが、WX300ではシェルターも不要で、たとえばビルの屋上に設置する場合も、WX300とアンテナをつなぎ、電源を接続するだけと、これまでよりも簡便にすむという。

小型化のポイントは、同社現行システムと比べて約2倍の電力効率を実現した高効率アンプを開発した点。従来のアンプでは電波出力の際にどうしても歪みが発生してしまい、それを解消するために補助アンプを使っていたが、同社ではアンプの前に歪みを解消するデジタル回路「歪補償回路(DPP)」を利用したことで、電力消費の大きなアンプが最小限ですみ、効率も大幅にアップしたという。

基地局の小型化を実現した技術の詳細

こうして完成したWX300は、同社の従来技術で作った基地局と比べて1/4の大きさですみ、シェルターなどが不要なため設置面積をさらに小さくすることが可能になった。

性能に関しても、複数のアンテナで帯域を拡大するMIMOにも対応。さらに対応帯域幅は、現行製品が10MHzどまりのところ、将来性を見越して20MHzまでサポート。必要なときにオンラインアップデートで20MHz対応を可能にするなど、「大きなトラフィックもカバーでき、(理論値の下り速度)75Mbpsを安定的に提供できる」(同)ことが大きなメリットだ。

WX300では、国内・海外に向けて同じ製品を出荷することでボリュームメリットによる製品価格の低廉化も実現しているほか、同性能の既存製品に比べてランニングコストも削減できるという。岩渕本部長によれば、既存製品ではシェルターや電源設備を準備する必要があり、設置工事だけで「従来は800万円ぐらいかかるような雰囲気」だったが、WX300では設置コストが半分以下、場所代や電力使用量などのランニングコストは1/3になるそうだ。

また、今回同社では米国のWiMAX機器ベンダーAirspan Networksと業務提携。Airspanは固定WiMAXの基地局や端末で実績があり、マイクロ基地局や超小型基地局で強みを持っているほか、顧客は相対的に小規模の事業者だという。それに対して富士通は今回マクロ基地局を開発、携帯電話事業などのモバイルシステムで実績があり、比較的大規模事業者が顧客に多いことから、販路がバッティングせず、製品レンジを拡大できるというメリットがあるとしている。

Airspanとの提携により、Airspanのマイクロ基地局や超小型基地局はラインナップに加えて販売していく

富士通はWIMAX事業ではチップセットや端末からインフラ、アプリケーションまで幅広くカバーできる。その第1弾となるのが今回のWX300

富士通では、モバイルWiMAXは2008年から日米欧で市場が立ち上がるとみているが、さらに豪州やアジア、特に中国やインドが大きな市場になるとして積極的に事業を展開。5年で10万台を売り、3年後には世界でシェア20%を獲得したい考えだ。

富士通の経営執行役上席常務・弓場英明氏。今回のWX300は、同社の次世代ネットワーク関連事業の「集大成の一つであり、自信作。自信を持って世の中に出していきたい」という

常務理事・岩渕英介モバイルシステム事業本部長