「メイド検定」を受けてみようと思ったのは2007年冬のこと。憧れの"メイドさん"に近づく(というと若干の語弊があるが)第一歩としてメイド検定を受けることを決めたのであった。さて、結果はいかに……?
「メイド検定って何? 初めて聞いたんですけど」。そんな読者のために、簡単にご説明しよう。メイド検定とは日本メイド協会が2007年より開始した検定試験である。日本メイド協会のWebサイトより言葉を借りると「メイドを職業選択の一つとして選ぶ女性を対象とした検定試験」であり、メイドに関するマニアックな知識を競うものではないとのことだ。
また、メイド検定は3級・2級・1級からなり、3級は初心者向けでメイドとしての接客、マナー・歴史の筆記試験(事前にセミナーあり)、2級は接客、マナー・歴史・縫製・料理・掃除、洗濯の筆記試験。そして1級は接客、マナー・歴史・縫製・料理・掃除、洗濯の実技試験を受けなければならない。ただし受検者は、3級、2級と順を追って受検し、かつ合格しなければ1級の受検資格を得ることはできない。一流のメイドさんになるには、相当の努力が要るのである。日本メイド協会は「メイド検定が今後、ホテルやレストランなどの就職先への斡旋に役立てば」と期待をこめる。なお、2008年は3級(第2回目)が3月29日、2級(第1回目)が6月、1級(第1回)が12月に実施される予定だ。
少し気になるのが、メイド検定を受ける人はどんな人かという点。日本メイド協会によると「メイド産業に携わっている方が多いですが、そうではない方も受検されているようです」とのことだった。それを聞き、これから受検する私は、心の中で少しほっとする。Web媒体の編集者(メイド歴なし)が、本当に受けていいのだろうか、という不安が一瞬なりとも頭を掠めていたからだ。そこで早速、申し込みを開始することにした。
検定の申し込みは簡単。日本メイド協会のサイト上で申し込みをすると、ヤマト運輸の代金引換宅配便にて受験票が届き、その時点で申し込み完了となる。受検料を支払いに出かける必要もないので、非常に便利だ。なお受検料は、3級が4,000円(セミナー受講料含む)、2級が5,000円、1級が6,000円とのことだ。
ところで何故、私がメイド検定を受けようと思ったか。疑問に思われた読者の方(関係ねぇと思った方は読み飛ばしてください)にかいつまんでお話しすると、それはもちろん「メイド」さんへの畏敬の念からである。テレビや雑誌等を通して、メイドさんのお仕事ぶりを拝見していたのだが、ご主人様にご奉仕する忠誠心や、ホスピタリティ精神を見ているうちに、勝手に「女性の品格」に通じるものがあることを感じた私。そこから、徐々に高まっていった"メイドさん"への憧れ。そして「メイドさんに一歩でも近づきたい」と思った私が取った結論が「メイド検定」だった訳である。
そんな前置きはともかく、自宅に届いた受験票等一式を携え、メイド検定3級を受けに行くこととなった私。2007年12月23日。世はクリスマスイブの前日である。こんな日に独身女性がメイド検定を受けに行くなんて……という突っ込みはご法度である。受検会場は秋葉原駅から程近い東京都中小企業振興公社。女性限定の検定であるため、会場内は華やかな雰囲気だ。そしてもちろん、メイドさんがいっぱい…・・・と思いきや、メイド服の人は少ない。3,4人といったところである。メイドさんに囲まれて受検する様を想像していた自分にとって少々がっかり……いや、意外な光景であった。
それにしても、会場内にいるのは見目麗しい女性ばかり。会話の端はしからも、メイド喫茶等で働かれているのであろうと推察される方が大勢いらっしゃっていた。秋葉原駅から受検会場に向かう途中、大勢のメイドさんを視界の端にして会場までやってきた私にとって、遠い存在だったメイドさんとの距離が一気に縮んだ瞬間である。そして、心の中で叫んだ。
「女でよかった!!」(男性の方、ごめんなさい)。
受検されている方は、実際にメイドとして働いたり、メイド産業に携わっている方だけでなく、一方で「メイドさんに憧れて」受検する、私のような人間もいることも知り、3%程度残っていた羞恥心も消えていった。
感動する私を他所に、日本メイド協会の挨拶が粛々と始まる。そこで、同協会の趣旨と目標が紹介された。
日本メイド協会趣旨と目標(抜粋) メイドの能力やスキルが向上することにより、変えられるものがあります。それは「ご主人様」です。優秀なメイドを雇うには、それにふさわしい人間であることが求められます。つまり、ジェントルマンであることです。素晴らしいメイドは、素晴らしい「ご主人様」をつくることができます。
そうか、やはりメイドといえば「ご主人様」である。ご主人様を啓蒙するには、お側にいるメイドさんが優秀であることが必須用件なのだ。そして、そのスキルアップのお手伝いとしてメイド検定があるということを知る。俄然、受検への熱意が高まる。
メイド検定3級試験のスケジュールは、接客・マナーセミナーとメイドの歴史・変遷を学び、それを踏まえて検定試験に臨むといった内容。所要時間は約3時間30分である。うちセミナーの時間に約2時間が割かれており、メイドとしての教養を養うことに十分な配慮がなされているという印象を受けた。
接客・マナーセミナーは全体として、お辞儀の仕方や電話応対など一般的なマナー講習会と変わりはない。メイドとしてのマナーであるという1点を除けば、だが。
たとえば、メイドには「基本六大用語」なるものがある。列挙すると「お帰りなさいませ」「はい、かしこまりました」「少々、お待ち下さいませ」「大変お待たせ致しました」「どうもありがとうございました」「いってらっしゃいませ」である。
ここで肝心なのは、やはり「お帰りなさいませ」だろう(そんなことはセミナーでは言われていないが)。ちなみに、「お帰りなさいませ」は30度でお辞儀し、頭を下げる時より上げる時をゆっくりとするのがコツとのこと。もちろん「心をこめて」である。そうすることで、ご主人様に「感じがいい」「誠実そうだ」といった良い印象を与えることができるというのだ。そんなことを考えていると、突然マナー担当の先生が私たちに声をかけた。
「それでは、皆さん立ってください」。
何が始まるのかと思いきや、先生が受検者全員を立ち上がらせ、六大用語とお辞儀の練習が始まった。「お帰りなさいませ」と声を揃えてお辞儀をすると、先生が「もっとゆっくりと頭を上げてくださいね」などと声をかけてくださる。「 メイドさんと一緒にお辞儀ができるなんて……」と感無量の一時ではあったが、そんなことはお構いなしにセミナーは続く。あわせて、「主人第一主義」を基本とするというメイドの心得も教えていただいた。何を考えるにも、まずご主人様あってのこと。当たり前のようだが、行動する上ではとても大事であるし、それを再確認する意味で重要なことだと感じた。
続いて若干の休憩時間を挟み、メイドの歴史についての勉強を再開。驚いたのは、メイドと一口に言っても「パーラーメイド」「レディースメイド」「キッチンメイド」など、役割によって異なるメイドがいること。たとえばパーラーメイドは、食事の際の給仕などを行うため「メイド喫茶で働くメイドさんは、パーラーメイドに近い」という。ちなみにメイド服は、ヴィクトリア朝に成立。同協会によると当時、メイドは女主人のお下がりを着ていたため、女主人と使用人の服装に明確な違いが見られず、外出時にどちらが女主人か判別できなかったことから、メイド服が生まれたらしい。
メイドについての見識を深めた後は、いよいよ受検開始となる。先ほど教えていただいた内容が出題範囲となっているので、それを思い出しながら1時間かけて問題を埋めていく。そして、何とか終了。配られたアンケートと一緒に解答用紙を提出する。会場を出て、すっかり暗くなったJR秋葉原駅に向かう途中、先ほど見かけたような"メイドさん"に遭遇。さっきまで、一緒に受検した"同士"という気持ちになり、ぐっと親近感が深まるのを感じる私。もちろん、メイドさんから見れば意味不明な笑みを浮かべたオンナに見えたかもしれないが。
後日。
1月31日までにメールにて合否通知が来るという話を聞いていたが、案外早くメールは届いた。
なお、メイド検定3級合格証明書は、身分証明書を郵送し、本人確認をした後に送られてくるという。
これで、晴れてメイドである(とここでは断言しておく)。せっかくだから、編集者からメイドへの華麗なる転身を図りたい気持ちにもなるが、それはやはり1級に合格してからだろう。メイドへの道は始まったばかりなのだから……。