ウィルコムは、2008年に入って最初の会見を開き、今年春モデルの第1弾製品を発表した。今回は第1弾ということで「音声」に関する製品を投入。そのため、ウィルコムが得意とするデータ通信関連の製品やスマートフォン関連の新製品は発表されなかった。ウィルコムの喜久川政樹社長は、携帯電話と比較したPHSのメリットのうち、音声定額とEメールの送受信が無料というポイントを広く訴求し、「PHSの魅力なのにそれを知っている人が少ない」ところから新規顧客を掘り起こしていきたい考えを示す。
2007年のウィルコムは当初、PCとつないだモデム利用でのデータ定額やウィルコム同士であれば制限のない音声定額などで法人・個人ユーザーを獲得していたが、制限はあるもののより低価格な準音声定額のソフトバンクモバイル、より低価格・高速なデータ定額のイー・モバイルなど、他社の猛追で後半は契約数が減少。
しかし、端末の割賦販売・割引の「W-VALUE SELECT」で新規ユーザーが契約しやすくなったことに加え、既存ユーザーが機種変更しやすくなったことで解約率も低下。さらに人気のスマートフォンAdvanced/W-ZERO3[es]に学生・教職員向けのアカデミックパックを追加し、これまでビジネス向けだったスマートフォンを学生に持ってもらうという新規市場の開拓に成功した。また、法人向けではオフィスの内線電話とPHS間の通話料を定額にするW-VPNサービスのプレセールスが好調で、これらの施策で昨年12月には契約数が純増に転じ、今年1月もドコモのPHSユーザーの流入もあって「純増になる見込み」(喜久川社長)だという。
これに対してさらにユーザーを獲得するために、まずは音声端末を強化。ウィルコムが一般の携帯ユーザーに調査したところ、ウィルコムの魅力として、ウィルコム同士であれば「ノーリミット」(同)で通話が定額になる点、Eメールの送受信が無料である点、パケット料金が割安である点が挙げられたが、そのうちメール無料・パケット料割安であるということを実際に「知っている」と回答した人が少なかった点に着目。このポイントを訴求することでさらに新規顧客を掘り起こせると判断した。
たとえばウィルコムは音声定額の「ウィルコム定額プラン」(月額2,900円)だけで端末単体でのEメール送受信がすべて無料になるが、他の携帯電話の場合はネット接続のためのオプション料金(月額210円~315円)+パケット料またはメール1通ごとの課金が必要となり、たとえばソフトバンクの「Softbank 3G」では100KBの写真付きメールを送ると、1通で105円、同報で5通送ると525円かかってしまうが、ウィルコム定額プランでは無料で送信できるためメリットが大きいという。
さらにNTTドコモやauの絵文字との互換を22日から開始、ソフトバンクとも今春には互換を始めることで、ユーザーの利便性を向上。2月下旬からはHTMLメールの送受信サービス「デコラティブメール」を開始。今春にはメールボックス容量を原稿の1MBから15MBへ拡充しつつ、無料サービスは継続することでユーザーニーズに応える。
「安いだけでは訴求しない」と喜久川社長。料金とサービスの総合力で勝負するという意気込みを話す。とはいえ、「データ通信といえばウィルコム」の牙城を切り崩すイー・モバイルに対しては料金面での対応も図る意向で、データ通信の新しい料金プランを「近々発表する」(同)。
通信速度の面でも、バックボーンの光ファイバ化が進展して底上げを実現。さらに昨年に2.5GHz帯の周波数の新規割り当てを受けたウィルコムでは、新たなPHSシステムを市場に投入できるようになっており、来年以降は「次世代PHS」の導入によって速度が大幅に向上する。PHSシステムは小型の基地局を密接して設置するマイクロセル方式を採用しており、現在は16万基地局を設置。次世代PHSでは「苦労してきたものが競争力のあるものに変えられる」(同)ことで、今後はさらに料金とサービスの総合力で携帯キャリアに対抗していきたい考えだ。
また、日本全体で携帯・PHSの契約数が1億を超えている現状では、ウィルコムは「音声定額」「Eメール無料」で2台目需要を掘り起こしていく戦略だが、さらにワンセグやおサイフケータイにも今後対応し、1台目の端末にウィルコムを採用してもらえるようサービスの拡充を行っていく。
なお、喜久川社長は今回の会見では「音声端末の強化」を強調しており、W-ZERO3で一定の評価を得たスマートフォンに関しては今後新製品を投入する意向を示した。1月初旬に米国で開催された家電ショー「2008 International CES」で公開されたUMPCについては視野に入れているとしつつ、スペックなどの詳細はやはり明らかにはされなかった。