――情報通信法には含まれない、著作権法の問題があるわけですね。その他に著作権法に関わる問題はあるのでしょうか。

アメリカ法では「フェアユース」という包括的な著作権制限規定がありますが、日本の著作権法にはありません。このため、急速な技術の進歩がもたらす新たな事態に対処することが困難になっています。例えば、キャッシュなどの位置付けがグレーになる、検索エンジンのサーバーを国内に置きにくい、そのため貴重な国際回線が徒に大きく費消されている、ひいてはコストに跳ね返るなどの問題も生じています。

岡村久道弁護士のホームページ「サイバースペースの法律」では、インターネットに関係する法律のさまざまな情報が掲載されている

それだけではありません。コンテンツホルダーをどう扱うかという問題があります。携帯向けの楽曲ダウンロードサービスを行っていた「MYUTA」(まいうた)※をJASRACが訴えた裁判で、東京地裁が出した判決(裁判所サイト)は、アップロードとダウンロードの主体を、ユーザーではなくサービス提供事業者と言い切った不合理なものでした。

なぜなら、こうなると、ユーザーはいくら海賊版を作ってもOKということになり、JASRACとしても困る事態になりかねません。プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求も否定されてしまうおそれがあります。加えて、ユーザーが行為主体ではないとすれば、ユーザーは「通信の秘密」の保護が受けられないことになってしまいます。憲法に由来する「通信の秘密」を、どうして著作権法の解釈で否定できるのでしょうか。この判決は、著作権の混迷度合いを如実に表しているといえます。

※情報サービス会社のイメージシティが2005年11月から2006年4月まで提供していたサービスの名称。自分のCDをサーバーにアップロードし、自分の携帯電話にダウンロードできる(他人の携帯電話にはダウンロードできない)というストレージ・ホスティング・サービスだった。裁判では、同サービスを利用してサーバーにデータを保存し、それをユーザーの携帯電話に送信する行為について、それぞれが私的複製かどうか、自動公衆送信かが争われた。MYUTA側は、同サービスはユーザー個人によるハードディスクへの保存及び読み込みに等しく、それぞれ私的複製であり、自動公衆送信ではないという主張をしていた。

一般の人にとって、こうした状況を理解するには複雑怪奇といっていいようなことになっているのです。

ネットは「公道」、新たなルール整備が必要

――いまや、情報と通信をめぐる状況変化は、事業者だけの問題ではなくなっているのですね。

だれもが創作活動ができるような状況になったとしても、従来のメディアはメディアとしての役割があるのだと思います。ただ、ユーザー側が情報を発信できるようになったため、トラブルが起こりやすい状況になったのは確かです。

ネットは一種の公道のようなものであり、そこには、未成年者も泥棒もいるわけです。新宿の歌舞伎町やゴールデン街に未成年者が入ることはめったにありませんが、ネットには簡単に入ることができます。公道となれば整備は必要で、それなりのルールを作らなければなりません。それをどうするかが、今問われているのだと思います。