――確かに、民放連をはじめとした放送業界は、中間取りまとめ案に対するヒアリングの場などで情報通信法に反対してきました。

これまで放送は、視聴エリアという観点から、都道府県単位の地上波放送を中心に、市町村単位のケーブルテレビ、全国単位の衛星放送という3種類に区分されてきました。この区分を前提として、民放の収益構造が成り立ってきたわけです。

情報通信法では、伝送インフラに関する法体系を抜本的に再編する考えだ(出典:総務省資料)

この区分が崩れると、収益的に成り立たないおそれのある放送局が登場してきます。たとえば地上波は、東京などキー局の放送番組を、系列のローカル局が、同時に、もしくは時間帯を変更して、自局の受信エリアに流すという構造になっていました。東京キー局の電波を、受信エリア外である地方から直接受信して視聴することはできないことを前提に、この区分は機能してきました。

ところが、もともとネットには受信エリアの制限というものはありません。ですから、ネット上で東京キー局の放送を見ることができるのなら、わざわざ視聴者がローカル局を選んで同一番組を視聴する必要がないのではないか、という問題が生じてきます。そのため、民放のビジネスモデルが、今後は大幅な変更を迫られるおそれがあるわけです。

しかも、ケーブルテレビなどと異なって、従来の地上波放送では、コンテンツと伝送インフラ、さらにプラットフォームの3層が、原則的にすべて放送局に集中してきました。これを区分してとらえるという考え方も、これらを分離する方向に連なるという点で、新しい法体系は、いわば未体験ゾーンとなります。

情報の発信者拡大により、著作権トラブルも増加

――ネットは「地域」という枠を超えてしまうわけですね。そのほかに構造的な変化はあるのでしょうか。

情報の発信者についても変化が生じています。前世紀に起こった技術の発展と巨大なマスメディアの登場によって、個人は情報の「送り手」という地位から疎外されてしまい、情報の「受け手」の地位に甘んじざるを得ない状況でした。

ところが、ネットの発達によって、個人であっても簡単に情報の「送り手」という地位に立つことが可能になりました。自分のウェブページを開設することに比べて、ブログ、電子掲示板への書き込みなど、情報発信の「しきい」は次第に低くなっています。ネットにおける「影」の側面として、ひぼう中傷などによるトラブルが発生する背景には、こうした経緯があります。

発信される情報は、多くの場合には著作物でもあります。デジタルは究極のコピー技術、ネットは究極の情報流通技術なので、必然的に著作権関係のトラブルも増加します。

ただ、ここで重要なのは、そうした「影」の側面だけでなく、「光」の側面として、誰もが著作物の「受け手」であるとともに、「作り手」にもなりうるという事実です。これまで「作り手」は限られた者であって、それがマスメディアという情報流通網に乗っかることができるのは、ごく限られたケースだけでした。つまり、著作物の作成と流通はプロが独占し、これをアマチュアである消費者が使うという形で、はっきりと立場が分かれていたわけです。その垣根が崩れつつあるという意味になります。

こうした状況の変化に伴って、法律の専門家の中でも一部しか理解できないような、きわめて難しい内容の現行著作権法についても、誰もが理解でき、そして使えるように、全面的に書き直して、抜本的な改正をすることが求められています。