総務省の「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」が昨年12月にまとめた「情報通信法(仮称)」の最終報告書。放送・通信の融合からネットコンテンツ規制まで幅広い内容を含む同報告書だが、その分、今後法制化に向けて検討しなければならない課題は山ほどあるといっていいのが現状だ。そうした課題について、インターネット関連の法律の第一人者である、弁護士(英知法律事務所)で国立情報学研究所客員教授の岡村久道氏に話を聞いた。

技術的発展により、放送・通信の「二分割モデル」が変化

――最終報告書によれば、情報通信法は放送や通信に関する9つの法律を包括したものになりそうですが、こうした法律を作る意味はあるのでしょうか。

通信と放送を融合する法律を作ろうというのは、技術の発展による必要性から出たものです。

伝統的に通信と放送は峻別されてきました。というのも、もともと通信は「1対1(point-to-point)」の関係です。特定の人が他の特定の人に対して電話するという典型的な場合を考えると理解しやすいはずです。ここでは憲法に由来する「通信の秘密」が重要となります。

「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」の最終報告書では、公開ヒアリングの結果も踏まえ、新しい法制度の必要性について明記された(出典:総務省資料)

これに対し、放送や有線放送は「1対多(point-to-multi-point)」の関係です。ひとつの放送局が流す地上波を、不特定多数の視聴者が誰でも同時に直接受信して見ることができるというモデルが想定されています。ここでは、やはり憲法に基づく「表現の自由」が重要となります。

ところが、こうした「二分割モデル」は、技術の発展によって変化してきました。

たとえばウェブサイトの場合には、これを不特定多数のインターネットユーザーが閲覧することができます。そこでは、通信であるにもかかわらず「1対多」の関係となっています。そのため「公然性を有する通信」と呼ばれることがあります。

他方で、CS放送のような場合には、スクランブルが掛けられており、特定の視聴者しか見ることができないという設定が可能です。こうした特徴から、「限定性を有する放送」と呼ばれることもあります。

伝送路の区分にも大きな変化

――こうした変化によって、放送と通信、双方の「融合」が指向されてきたということですね。

その一方、伝送路の区分も崩れてきています。通信用の伝送路を用いてケーブルテレビを流すことが技術的には可能ですが、これを法律的にも認めるために、すでに数年前、電気通信役務利用放送法という法律が制定されています。これによって、経営的にペイする人口密集地帯以外でも、すでに電力会社が持っている通信用光ファイバーなどによって、経済的にケーブルテレビを構築することも可能になりました。

これらはほんの一例ですが、このように伝統的な通信と放送の区分が崩れてきていることは事実です。したがって、それに対応して大幅な法整備が必要となったわけです。