米ラスベガスで開催中の「2008 International CES」の東芝ブースでは、液晶テレビの「レグザ」や、「WirelessHD」規格を使ったノートPCやテレビ、HD DVDプレイヤーとの無線伝送の展示などを行っていたが、ここでは同社の新技術を中心に見てみたい。

東芝ブース

まずは東芝の展示会の定番、燃料電池。とはいえ、今回は昨年のCEATEC JAPAN 2007で出展されていたものと違いはない。燃料電池搭載の携帯型メディアプレーヤーのベースとなるのはオーディオプレーヤーの「gigabeat V41」で、前面はほぼベース端末と同じだが、右側にメタノールの残量が見える窓が追加されている。背面には吸気用のスリットが設けられており、さらに厚みもベース端末に比べて厚め。駆動時間は約10時間で、このあたりもCEATECの時と変わらない。

gigabeat V41をベースに燃料電池を搭載

背面のスリットは吸気口

同社の燃料電池は燃料にメタノールを使うダイレクトメタノール方式。起動時のピーク電源を確保するためにリチウムイオン電池も併用するが、いずれにしてもメタノールを供給するだけで電源が復活するため、不意の電源不足も、ボトルからメタノールを注入するだけと簡単だ。

ベースのV41に比べるとまだ厚みがある

メタノール注入用のボトル。これで50ccが入るというが、安全性を高めるための工夫で少々大きめ。端末の注入口に差し込まないとメタノールが出ないようになっている。今後はボトルの小型化も検討しているそうだ

ただ、原理上空気を取り込む必要があるため、吸気口を確保できる製品の方が搭載しやすく、そのため画面が大きく、背面が広く取れる今回のような製品がデモ機として利用されているようだ。ただ、販売数を稼ぐためには「携帯電話が一番」(同ブース担当者)で、空気孔をどう確保するかが課題のようだ。開発自体は着実に進んでいるが、燃料電池を使った製品の登場時期については明言されなかった。

燃料電池を充電器として利用する方法もある

なお、同社の燃料電池では、Menlow搭載のUMPCに燃料電池を搭載した例も展示されていた。こちらは燃料電池の応用例といった形で、実際にこのUMPCに燃料電池を搭載するわけではないようだが、いずれにしても燃料電池には積極的な姿勢を示している。

UMPCに燃料電池を搭載した例。やはり多少大型化されているが、このあたりの改善を目指している

続いては今後登場するノートPC「Qosmio」に搭載される可能性のある新技術。プレイステーション3のCPUとして使われている「Cell Broadband Engine」のクロック数を下げ、コアを半減させた「SpursEngine」を同社は開発している。これは主に映像処理に使われるプロセッサだ。

SpursEngine

性能は高く、これを利用することでCPUの負荷を低減し、高速な映像処理が可能になる。複数のデモを紹介しており、PCカメラで読み取った人の手の動きを認識し、ビデオ再生時のコントロールをジェスチャーで行うデモでは、握った拳を合図に手を開いたら停止、拳を動かすとカーソルが動く、といった新しいUIを公開。これ自体はCEATECでも行われていたものだが、さらに精度を高めているという。

手を使ったUIのデモ

続いて、動画から人の顔を検出し、検出した顔のシーンをインデックス化し、サムネイルとして保存、その顔を選択すると、そのシーンを頭出しできるという機能。録画と同時にリアルタイムでインデックス化が行われるので、録画終了と同時に顔を使った頭出しができるようになるのは便利。海外番組(CM)にも対応した点は新しいが、これもCEATECで公開したものだ。

顔を検出してシーンの頭出しができる。録画と同時にインデックス化してくれるのが便利

さらに、PCカメラで読み取った人の顔のパーツを検出し、別の髪型やアニメのような目、化粧を顔に合成しつつ、人が横を向けばそれに従って髪や目もリアルタイムで動く、というデモも実施。これもCEATECで公開済みだが、精度は高く、顔を検出している間はSpursEngineが動作してCPUの利用率が急激に下がるのが示され、SpursEngineのメリットが視覚的に分かりやすい。

髪型を変えて、顔に化粧をしたところ

さらに目を追加して横を向くと、それにあわせて髪型や目も移動する

画面下にある「FRAME METER」と「CPU METER」に注目。FRAME METERがSpursEngine

CEATECでは未公開というデモでは、SDサイズの動画をHD動画へと変換するデモも実施。アップスケール時の画像劣化を抑え、より高画質な形で映像を生成できるというのが特徴だ。ただし、高速なSpursEngineでもリアルタイムのエンコード処理は行えないそうで、実時間の3~4倍の時間がかかってしまうそうだ。このあたりは今後の課題だという。

アップスケールのデモ。写真では分かりづらいが、よりシャープに映り、高画質化されていることが一目で分かるレベルだ

もう1つはCorelとの協業で開発された「DVD MovieFactory for Toshiba」で実現する高速な動画エンコード。デモでは、1分間のMPEG-2動画(1,440×1,080・30fps)を利用し、H.264へのソフトウェアエンコードとSpursEngineでのエンコードの比較をするというものだった。その結果、SpursEngineの方は50秒弱でエンコードが終了し、数倍のスピードとなった。

また、フルHD動画などを編集しようとすると、SpursEngineを使っていてもプレビュー映像の早送り・早戻しなどではもたつきが出てしまう。そこで、いったんプレビュー映像をH.264などにバックグラウンドでエンコードし、それを使って編集を行うことで快適に操作できるようにもした。プレビューのエンコードが高速なために、それほどストレスなく利用できるのがメリットだ。

こちらはソフトウェアエンコード。エンコード開始から39秒でまだ9%しか進んでいない

SpursEngineによるエンコード。開始30秒でもう56%

これらの機能は、MovieFactoryがSpursEngineを利用するように設計されているため可能となっている。同社ではこうしたソフトメーカーのサポートを拡大させていきたい考えで、今後も各社にSpursEngineのサポートを求めていく。ちなみに、動画編集だけでなく、RAW現像のような静止画の処理にも利用できるそうだ。

こうした機能が実現できるSpursEngineだが、実際の登場時期に関してはまだ未定という部分が大きい。広いスパンで見れば1年以内、「インテルの新チップセットの登場にあわせて」という声も聞かれたので、今年中には登場しそうな印象。MovieFactoryに関しても、これにあわせて登場する予定だ。

さて、このSpursEngineはCell Broadband Engineをベースにしているが、そのCell自体を使ったソリューションも東芝ブースでは紹介されていた。それがテレビ関連への応用だ。デモされていたのは2種類。1つがSpursEngineのデモにもあったアップスケールのデモだが、こちらはコアが多く、周波数も高いおかげでリアルタイムエンコードをサポート。さらに、HD映像の一部を拡大してそれをHDに変換する、ということもできる。画面に小さく映った気になる部分を拡大してきれいに見る、という使い方ができる。

もう1つが画面を48分割してそれぞれに映像を映すというもの。たとえば48番組を一度に映すことができるので、見たい番組をより見つけやすくなる。たとえばHDDレコーダー内の録画映像の検索や、テレビやインターネット番組などのいろいろな番組を組み合わせて表示してチャンネル選択する、といった使い方が想定されている。

Cell Broadband Engineを使ったアップスケールのデモ。これも写真では分かりにくいが、画面下のHD映像の一部を拡大、さらにHD映像にアップスケールしている。かなりきれい

48画面同時表示。この48画面がすべて動画としてきちんと表示されている

また、1つの動画内のチャプターを一覧表示してすべてを同時に再生することも可能。これも検索性を高める仕組みだ。画面下半分に映像を拡大してチェックし、気に入った場面があったらそれを全画面表示にする、という操作にも対応している。

これは1つの映像内のシーンを48個同時に流しているところ

一部を拡大することもできる

これは東芝のMenlow世代のUMPC

ソフトウェアキーボードを表示したところ

状況に応じて画面横からせり出す操作パネルが自動的に変わるようになっている。操作パネルの出し方も、画面端から中心に向かって指を滑らすというタッチパネルを有効に使ったインタフェース