昨年12月に総務省の「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会」がまとめた情報通信法(仮称)最終報告書。ネット規制などの要素があるため議論が絶えない同法だが、そもそもの主要な目的のひとつに、放送コンテンツ、アニメ、ゲーム、漫画などを含めた日本のコンテンツ産業の振興、特に海外への進出促進がある。欧米でアニメ、中国、韓国などでオンラインゲームを展開し、コンテンツ分野における海外進出企業の草分けといえる、GDHの石川真一郎社長に日本のコンテンツ産業の未来を聞いた。
ライセンスアウトのビジネスモデルに限界
――日本のコンテンツ産業に関する現状認識をお聞かせください。
肌感覚で言うと、世界から見てそのまま通用する日本のコンテンツは、ジャンルで言えば、アニメ、漫画、ゲームなのではないでしょうか。もちろん、映画や放送コンテンツで海外でも人気のあるものもありますが、海外市場でインパクトを持つには、それなりのシェアがなくてはなりません。そうした意味では、日本のアニメは世界で5割近くのシェアを持っていますし、漫画もアジアなどを中心に、「マンガ」という発音が国際的に通用するほどになっています。
また、ゲームに関してはEAやアクティビジョン、インフォグラムなど欧米の企業に押され気味ではありますが、そこそこのシェアをキープしています。こうした現状を見ると、さきほど申し上げたように、アニメ、漫画、ゲームが経済的に見て、世界である程度のポジションを得ていると認識しています。
――では、ビジネスとして、これらの分野は成功していると言ってもいいのでしょうか。
残念ながら、これらの分野においても、ビジネスとしては発展途上にあるというのが現状ではないでしょうか。これらの分野で現在主流のビジネスモデルは、ライセンスアウト(既存タイトルの使用許諾)だと思いますが、ライセンスアウトは頑張っても売り上げの数%が入ってくるという程度のもので、ビジネスを主体的にリードしているとは言えない状況にあります。
そうした許諾料に頼るビジネスモデルではなく、海外でももっと主体的にビジネスを展開することが必要なのではないでしょうか。例えば、アニメを例にとっても、日本においても米国の「カートゥーンネットワーク」のチャンネルがあるわけですが、日本の企業が海外でそうしたアニメチャンネルを展開していると聞いたことはありません。また、漫画でも、「少年ジャンプ」の米国版がありますが、成功と言えるところまでたどりついているとは言えないのが現状です。
ゲームに関しても、負けているのではないでしょうか。もちろん、家庭用ゲームは日本が源流ですが、日本はいいものさえ作れば売れるという、"草の根"的なマーケティングが主流です。これに対し欧米は、FIFAやWRCから権利を獲得してマスマーケティングを展開するなど、ビジネス展開に一日の長があります。
コンテンツ産業は"文化"を売る産業
――コンテンツの海外展開をする上で日本の企業に欠けているものは何なのでしょう。
ゲームなどについては、日本のやり方を世界に広げていくという考え方が強いのが一因となっています。こうした考えは、ソフトではなくハードにおいて通用するものです。例えば、自動車において「燃費がいい」などの機能は、明確に良さが分かります。
ですが、ソフトの場合、切り口の勝負みたいなところがあって、文化性が高いのです。日本企業の場合、「文化を海外に売る」といったようなことに関して、ノウハウを持っていないのです。国際企業なのに取締役会を英語ではなく日本語でやるといったようなことが、文化を海外で売るノウハウの蓄積に、マイナスの影響を及ぼしている可能性もあります。
また、放送コンテンツや映画に関しては、そもそも海外市場の土俵にものぼっていません。その理由としては、メディア産業の構築の仕方に根本的な原因があります。つまり、世界の中で、自国市場だけでメディア産業を支えられるのは、世界広しといえど、日本と米国の2カ国しかなく、日本においては、全ての仕組みが日本国内でどうやって利益を最大化させるかという点のみに注意がはらわれてきたのです。
そのため、国内の法制度も、海外から"侵略"されないことにエネルギーが使われ、国内のコンテンツ産業をグローバル化することにインセンティブを与えないような仕組みになってきたわけです。
グローバル化の流れで野球も国際化
――そうした枠組みを維持してきた政府が、ここにきてコンテンツのグローバル化を推進する立場となったのは、どのような理由があるのでしょうか。
まず、インターネットの普及があります。90年代後半から2000年にかけてインターネットが普及し、コンテンツの後ろをつなぐ"バックボーン"があっという間につながりました。さらに、2000年~2005年までのブロードバンドの普及があり、2010年までには、全ての先進国で普及されると予想されます。
この結果、普通の家庭でも数百チャンネルが視聴できるような環境ができてきています。こうした状況では、コンテンツもグローバル化せざるを得ません。いい例が野球です。
スポーツの世界では、長らくサッカーと野球が争ってきましたが、ブロードバンド普及によるグローバル化の時代となって、圧倒的にサッカーが有利になっています。ここで危機感を抱いた米国は、野球の国際化に乗り出しました。
日本や韓国、台湾などから有名な選手を世界中から獲得するなど、サッカーよりも魅力的なコンテンツを作ろうと努力しているのは周知の通りです。WBCの開催もこの流れの中にあります。
ですが、こうした状況を見て日本の一部の人たちは、「日本から人材が流出するのは遺憾である」といったような事を言うわけです。何か違うと思いませんか?
各国のGDPに占めるメディアコンテンツ産業の比率を見れば明確です。世界平均では3%、米国では5%近くあるのに対し、日本では2%プラスアルファしかないのです。この5年間、どんどん地位が下がる一方のコンテンツ産業に危機感を抱いたことが、政府の方針の背景にあるのです。