さまざまな問題がアドビを中心として解決されていく


――新しいサービスを立ち上げるにはクリエイターと開発者の連携が重要ですね。

いま問題なのが、デザイナーと開発者間にあるギャップです。いろいろなアイデアがあって素晴らしい絵を描くことができても、クリエイターから開発者に渡すまでの過程でたくさんのことが失われてしまうことがあります。そこでアドビはThermo(サーモ)を発表しました。Thermoを経由するとコードやバグの検知、テストが簡素化されているため、ツール、スクリプト、アーキテクチャ等の開発が非常に簡単になり、デザイナー側で作ることができます。同時にThermoを使うと開発者側もインフラを作りながらデザイン側の動きを理解していくことができます。

Thermoでもうひとつ重要な点は、デザインから開発に移る際にシミュレーションを提供していることです。実際に作られたときどうなるのかシミュレーションで確認できます。そのプロセスを密接にすればするほど、デザイナーと開発者のあいだのやり取りが減り、作業の速度が早くなり、結果もより良くなります。

私自身は開発者ではありませんが、実際Thermoを使って、プログラマがいなくともデザイナー側で十分様々なことができることを経験しています。Thermoはまず英語バージョンがツールとして出ますが、日本向けのローカライズも同時に行っているので2008年の半ばから後半には日本語バージョンも出したいと思っています。

――印刷、紙媒体向けデザインツールについてはいかがでしょうか。

InDesignはとても大事なものです。それはわれわれとって出版がコアビジネスの一つだからです。この業界もWeb化が進んでいますがなくなることはあり得ません。これからもコミュニケーションの源として残っていくと考えています。

Illustratorは一人の人がデザインしてそれを提出するツールでしたが、InDesignは出版社が出版にかかわるそれぞれのプレーヤーといっしょに仕事がしやすくするためのコラボレーションやワークフローがポイントになっています。また同じコンテンツをネットに流したり、携帯端末に流したり、他のデバイスに対して反映できるようにすることがこのInDesignの最終的な目的です。雑誌では、新しい媒体、たとえば携帯コンテンツが出てくると、広告量が減るなどの影響が出ることがあります。その時は別の方法で収益を上げていかなければなりません。アドビの戦略というのは、誌面の収益が減ることに対処できるようにするとともに、モバイルやWebで収益を上げることがより早くできるようにすることのお手伝い、つまり今の状態を保つお手伝いではなく、成長するためのお手伝いをしたいと考えています。

そこでカギになるのはワークフローです。その作業に対して必要となるリソースをできるだけ小さくし、逆にリーチを最大限にすることです。PDFとFlashという地球上で最もユビキタスなプラットフォームがあるわけですから、それを活用していただきたい。われわれの方でツールは用意しています。

アメリカの印刷メディアは、いま売上が大きなプレッシャーとなっています。広告主、マーケッターがWebの方に移行してしまっているからです。ただそれはPCベースの話です。一方日本の場合は携帯電話で新聞、雑誌記事を読むということは幅広く行われています。ですから、売上に対するプレッシャーは今後アメリカよりも大きくなると思われます。幸い多くの日本の出版社はコンテンツのモバイル化、Web化が必要なことをよく理解しており、InDesignを使うことでインターネット上でもコンテンツを出せることをわかっています。これからすべてが融合していくでしょう。その真ん中にアドビがいるだろうと考えています。

――ありがとうございました。