エンタープライス市場において新しい芽を育てる
――そうしたことを踏まえ、2008年にはどんなことが起こるのでしょうか。
農業に例えれば、種をまき、芽を出させるには、まず土地をならさなければいけません。2008年に向けてアドビが何をしてきたかというと、企業が置かれている環境を知るということに注力してきました。マクロメディアを買収したことで、Webベース、そしてマルチメディアでのプレゼンテーション技術が加わり、そしてこれが強力なスタンダードであるアクロバットと統合しました。その結果、クリエイターとデベロッパーの双方に訴求することができ、企業にも、メディアにも訴えかけることができるようになりました。
2008年以降、アドビはいままで努力をしてきた企業向け市場の開拓に引き続き焦点を置いていきます。同時に今年は、企業のみなさまに大切なメッセージを出したいと思います。企業はいまビジネスがどんな状態にあるのかを注視しなければなりません。多くの会社ではインフラの整備やIT環境におけるシステムなどに焦点を置いており、そうした会社ではビジネスの大半を占めているのは”技術”になってきています。しかしその技術を今度は企業が、エンドユーザーにまで拡張していかなければなりません。
エンドユーザー側から見れば、アーキテクチャが何だろうと、OSが何だろうと、アプリケーションが何だろうと構わないわけです。エンドユーザーが気にしているのは、マウスを動かしたときに選択肢があるのか、見やすいのかというところなのです。したがって2008年のテーマは、クリエイティブのテクノロジとワークフローのテクノロジを組み合わせる部分にあるといえるでしょう。Webでお客様が何かを購入したり調べたりするとき、結果や体験がとても重要になってきます。ですから、素晴らしい体験を作って提供できるような人たちは、これまで以上に大きな結果を出していくと思います。これが2008年に起きると予想していることです。
――アドビとして具体的にどんなことをするのでしょうか。具体的には開発ツールであるFlexを、ワークフローのLiveCycleに組み込み、FlashやアクロバットなどをAIRに統合することで、ユビキタスなプラットフォームを提供していきます。このプラットフォーム上で開発もデザインもでき、サービスをエンドユーザーのところまで提供することができます。またSaaS(Software as a Service)型のサービスを提供します。たとえばPremiere Expressや、2008年すぐにリリースを予定しているエントリー向けのPhotoshop Expressも提供していきます。さらに重要なのがAIRの日本語バージョンが出ることです。夏ごろリリースが行われる予定となっています。
――グーグルやマイクロソフトもSaaS型のホスティングサービスに熱心なようですが。エンドユーザーに対してSaaS型のサービスを提供することにほとんどの会社が苦労しています。なぜかというと期待値が違っているからです。ユーザー側から見るとSaaSは安い、もしくは無料に見えますが、プロバイダから見ると異なるインフラを使ってサービスを提供する機会であり、従来とは異なるかたちで収益化しようと考えています。グーグルであれば広告で、マイクロソフトは長期的にどういうことを考えているのかはわかりませんが、何らかのかたちで収益化をはかると思います。アドビはリーダーやプレーヤーなど、すでに長い間サービスを無料で提供してきた歴史があります。コンシューマには無料で、クリエイターには有料でアプリケーション・ツールを提供するという仕組みを持つのはアドビだけです。われわれは、いままで培ってきた経験、実績を活用していきますが、前に進む必要があります。Premiere Expressは2008年の春後半に日本のパートナーと組んでリリースされますし、Photoshop Expressも提供します。オンラインワープロのBuzzwordも買収しました。これから年を追うごとに多くのアプリケーションが出てくることになります。その多くはパッケージソフトウェアのエクステンションとして出てきます。これがアドビの提供するSaaS型の追加サービスです。
またAIRもありますので、システムインテグレータや開発者が独自のサービスを作ってユーザーのデスクトップに提供できます。AIR はFlash、PDF、HTMLがサポートされるユビキタスな環境においてサーバ側から提供され、ブラウザから独立したかたちとなります。したがってローカルハードディスクにあるデータとも連携することができます。これはいままでとやり方を変えることになるでしょう。まだいろいろな作業が残っているので、2008年どれだけ実現できるかわかりませんが、確実に起こることです。