ユニークな視点で映画と音楽を斬る映画批評家/ 作家のKurt Loder氏が、2007年のベストムービーを明らかにした。
「"あまり良くなかった"が映画鑑賞の平均になってしまうものだが、今年は芸術的な感情を湧き起こしていくれる素晴らしい映画が飛び抜けて多い年となった」(Loder氏)。07年のベストを選ぶのは「ダーツに矢を投げるような気分だった」というが、そのような中から同氏がベスト作品に選んだのは……。
『Michael Clayton / マイケル・クレイトン』
ジョージ・クルーニー主演のリーガルミステリー。『オーシャズ13』のスティーヴン・ソダーバーグ、シドニー・ポラックが製作に名を連ねる。長年脚本家としてキャリアを積んだトニー・ギルロイ監督が、感情に訴える脚本に確かな演出を加えたことで、完璧なノワールが作り出されているという。トム・ウィルキンソンやテイルダ・スウィントンを配したキャスティング、ジェームズ・ニュートン・ハワードの音楽がクルーニーの情熱的な演技を引き立ているとLoder氏。
またベスト作品にしてもおかしくない"ベスト作品候補以上"として、以下の5作品を挙げた。
- 『No Country for Old Men / ノーカントリー』 : コーマック・マッカーシーの原作『血と暴力の国』の荒涼とした世界をコーエン兄弟がスクリーンで表現。ウッディ・ハレルソンが役者として最高の時期を迎えたと思わせる演技を見せれば、トミー・リー・ジョーンズはジョーンズにしかできなさそうな役回りを見事にこなしたと評価する。またハビエム・バルデムが演じた殺人者を"今年もっとも不気味だった悪役"に選出した。日本での公開は2008年3月15日。
『Zodiac / ゾディアック』 : デビッド・フィンチャー監督作品。フィンチャーが独特の構成力で、未解決のゾディアック事件を納得できる形でまとめたと評価。またドノバンの音楽を、過去の誰よりも不気味に使ったと付け加えている。連続殺人という題材で158分と長い上映時間に多くの人が敬遠している作品だが、これから観るならDVD2枚組とボリュームたっぷりのディレクターズカット版を勧める。
『Gone Baby Gone』 : ベン・アフレックが監督デビュー作品として、デニス・レヘインの「愛しき者はすべて去りゆく」を映画化した。弟のケイシー・アフレックを主役に抜擢したことでも話題に。「結末が煮え切らない作品の1つ」としながらも、「『No Country for Old Men』と同様、解決しないストーリーが映画館を出てからも心に引っかかり続けるだろう」とお勧めポイントとして挙げる。
『The Assassination of Jesse James by the Coward Robert Ford / ジェシー・ジェームズの暗殺』 : ブラッド・ピットが西部開拓時代の無法者ジェシー・ジェームズを演じた。その命を狙う敵との駆け引き、信頼できる仲間の存在……と、アメリカ史上に名を残すアウトローが破滅に至るまでの人間ドラマだ。「ブラッド・ピットが、あえてスター性を抑えて、ケイシー・アフレックに映画を託している」のが作品を輝かせているという。タイトルが長いが、上映時間も160分と長い。だが、「数多くのもっと (上映時間の)短い映画の方が、ずっと長く感じた」とLoder氏。
『Sweeney Todd : The Demon Barber of Fleet Street / スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師)』 : ティム・バートン監督とジョニー・デップのコンビの最新作。ミュージカルは苦手な分野だが、スウィーニー・トッドは傑作と言わざるを得ないそうだ。バートン監督が、残酷で猟奇的なのに、コミカルでピュアな魅力あふれる世界を作り出している。音楽はミュージカルにありがちな大げさな扱いではなく、自然で、出演者がそれぞれのボーカルで巧みに"映画"に貢献しているという。
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なおベスト監督にはジョエル・コーエン / イーサン・コーエン。ベスト男優に『There Will Be Blood』のダニエル・ディ・ルイス、ベスト女優には『La Vie en Rose / エディット・ピアフ~愛の賛歌~』のマリオン・コティヤールを選んだ。
ちなみにLoder氏の07年ワースト作品は、『Grindhouse / グラインドハウス)』、『Ghost Ride / ゴーストライダー)』、『Hannibal Rising / ハンニバル・ライジング)』、『The Invasion / インベージョン)』、『The Hitcher / ヒッチャー』、『The Number 23 / ナンバー23』、『Joshua』、『I Know Who Killed Me』など。
(ジョージ・クルーニー撮影 : 石井健)