マイクロソフトは21日、Windows Mobileの製品展開について最新状況を報道関係者に説明した。Windows Mobile搭載スマートフォンの利用者はPC利用能力の高いハイエンドユーザーが中心だが、女性や従来より若い層の利用者が確実に増えているとする調査結果などが紹介された。

同社の調査は、一般の携帯電話ユーザーとWindows Mobileユーザーそれぞれに対してオンラインで行われ、10月16日~18日に行われた最新の調査では、携帯電話ユーザー516サンプル、Windows Mobileユーザー206サンプルの回答を得ている。

製品の性質上、PCリテラシーの高い男性が中心の傾向は変わらないが、約1年で女性ユーザーは3.2%から14.6%へ増加し、年齢層も若い方へシフトしている

約1年前の前回調査(2006年11月29日~12月2日、携帯電話1,035サンプル・Windows Mobile309サンプル)と比較すると、Windows Mobileの女性ユーザーが3.2%から14.6%へと大幅に増加しているほか、全体に占める40代・50代ユーザーの割合が減り、逆に20代・30代ユーザーの割合が高くなっている。年齢層別で最も多いのは30代で、全体の45.1%を占めている。

一般の携帯電話ユーザーとWindows Mobileユーザーの間で顕著に見られる違いとしては、当然のことながらWindows MobileユーザーのほうがPCの利用に精通している傾向が見られたほか、一般携帯電話の場合89%の人が1台のみを所有しているのに対し、Windows Mobileユーザーでは1台で済ませる人は36%で、2台を所有している人が45%、3台を所有している人が16%に上ることがわかったという。音声通話は従来型の携帯電話、データ通信はWindows Mobile機と使い分けるのが主流で、今後の利用意向を問う質問に対しても、全Windows Mobileユーザーのうち「1台のみを携帯するようにしたい」との回答は31%にとどまり、残りの69%は「1台にはしたくない」と回答している。

Windows Moblieユーザーは、音声とデータで2台以上の携帯電話を使い分けるのが主流。いまのところ1台への集約意向もそれほど高くない。また、Windows Mobileユーザーは携帯電話に費やす料金も高い傾向があるという

Windows Mobile搭載スマートフォンを、どのようなメリットを持つ製品ととらえているかについても、一般携帯電話ユーザーとWindows Mobileユーザーの間では差が大きかった。既にWindows Mobileを使っている人の場合、魅力的な点(複数回答)として多く挙げられたのは、PC向けWebサイトの閲覧機能(全回答数のうち80%以上)、PCとのデータ同期機能(約50%)、ExcelやWordのファイルを閲覧する機能(45%以上)、ExcelやWordのファイルを作成・編集する機能(35%以上)などで、主に従来PCで行っていた作業がPCのないモバイル環境でも可能になったことを評価している。対して、一般携帯電話ユーザーがWindows Mobileに期待する点(複数回答)としては、メールの送受信(70%以上)、カメラ機能(50%以上)などが多く挙げられている。一般携帯電話ユーザーにとってWindows Mobileは、従来の携帯電話の高機能版として見られている可能性もある。

また、先の調査結果の通りスマートフォンと一般携帯電話の"2台持ち"が主流とはいえ、Windows Mobileのユーザー/非ユーザーとも、Windows Mobile機で音声通話が行えることに魅力を感じているとする回答が過半数だった。今後はスマートフォン1台への集約が進むことも考えられる。

一般携帯電話は見た目や価格で選ばれることが多いのに対し、Windows Mobile機はPCとの連携やデータ通信の性能が重視されている

Windows MoblieユーザーはPC作業のモバイル化を魅力としているが、非ユーザーはWindows Moblie機も同じ携帯電話の用途で見ている

一般携帯電話ユーザーへのWindows Mobileの認知度については、Windows Mobile自体を知っているかどうかにかかわらず具体的な搭載製品を知っているとする回答が61%、Windows Mobile自体を知っているとする回答が40%、Windows Mobileに興味があるとする回答が30%だった。「興味がある」とする回答は全体から見れば半数以下だが、Windows Mobileをすでに認知している人に限れば、4人に3人は興味を持っていると見ることもできる。マイクロソフトでは「Windows Mobile」という存在の認知が進めば興味を持つ人も増えるとして、この調査結果をポジティブにとらえているという。

Windows Mobile自体を認知している人のうち、4人に3人がWindows Mobileへの興味を持っているとの調査結果

2008年の携帯電話市場は厳しいが、スマートフォン拡大の余地はあり

IDC Japan シニア・マーケット・アナリストの木村融人氏

この日は、調査会社IDC Japanのシニア・マーケット・アナリスト、木村融人氏が招かれ、日本の携帯電話市場全体の見通しについても語られた。2007年の携帯電話出荷台数は前年を上回って5,000万台を超える見込みで、一見好調に見える。しかし、年間を通じて出荷台数が安定していた2005年ごろまでと比べると、ここ1~2年は四半期ごとの変動が激しくなっている。ユーザーの要求が細分化し、携帯電話市場における「多品種少量」の傾向が強まる中で、携帯電話事業者やメーカーが機種ごとの売れ行きを予測しにくくなっているのではないか、と木村氏は分析する。

しかも、この冬商戦からNTTドコモとKDDIが携帯電話の新しい販売方式を導入することで、1台の電話機をより長く使用するようになることが予想されるほか、開発コスト増・メーカー間の競争激化による業界再編の動きも一部では見られるなど、先行きは不透明だ。来年以降は「厳しめの展開にならざるを得ない」(木村氏)とし、2008年の出荷台数は2割減程度のマイナス予測としている。

近年、四半期ごとの出荷台数の変動が大きくなっている。2008年以降の予測では厳しい数字が並んでいる

一方、これまでは事業者が販売代理店に支払っていた販売奨励金のため、電話機の店頭価格が一律に安く抑えられていたが、ソフトバンクモバイルの「(新)スーパーボーナス」導入以降、高機能な機種とエントリークラスの機種の間で価格差が大きくなってきた。これによって、従来ほとんどの携帯電話ユーザーが「高機能で、価格も安い」製品を求めていたのに対し、最近では「品質・機能よりも価格の安さ」を選ぶ人や、「価格はそれほど気にせず、まず自分の欲しいものを」選ぶ人などが現れ、ユーザー層の分化が進んでいると木村氏は指摘。後者の、価格よりも機能を求めるユーザー層が拡大すれば、市場全体としては厳しい状況ながら、スマートフォンについては伸びる可能性があるとしている。

従来は大多数の携帯電話ユーザーがこの表でいう「A」(価格も品質も追求)のセグメントだったが、「B」(品質より価格を追求)や「C」(価格より品質を追求)のユーザー層が形成されつつあり、Cのユーザーが増えればスマートフォンも拡大の余地がある

フォームファクタ、UI、アプリケーションの組み合わせがカギ

説明会では、木村氏のほか、端末メーカーHTC Nipponのビジネス・ストラテジー&マーケティング本部 ディレクターの田中義昭氏、マイクロソフトのモバイル&エンベデッドデバイス本部長 梅田成二氏の3人によるパネルディスカッションが行われ、スマートフォン普及拡大のため今後何が必要かについて話し合われた。

HTC Nippon ビジネス・ストラテジー&マーケティング本部 ディレクターの田中義昭氏

田中氏は、「海外の端末ベンダーにとって日本は難しい市場。ユーザーの要求も事業者の要求も高いが、それは非常に良いことだと考えている。我々はスマートフォン専業メーカーなので、グローバルのスケールメリットが生かされ、チャレンジはいろいろあったものの比較的すんなり参入できたかなと思っている」と話し、Windows Mobileという共通プラットフォームを採用していたことによって、同社が世界で展開していた製品が日本のユーザーにも受け入れられやすかったと振り返る。

スマートフォン市場を広げるためのの施策としては「よりいろいろなフォームファクタのものを出していく」(田中氏)ことを挙げる。日本市場でのスマートフォンというと、スライド型のQWERTYキーボードとタッチスクリーンを搭載した機器という印象が強いが、キーボードがないものや、ストレート型、「HTC Advantage X7501」のようなモバイルPC型など、これまでになかったスタイルの製品を出していくことで、法人需要を含めた多様なニーズに対応し、ユーザーの幅を広げていきたいとしている。また、携帯電話に限らずあらゆる製品においてUI(ユーザーインタフェース)の進化は不可欠で、同社が開発したタッチパネルUIの「TouchFLO」など、操作系の革新によってもユーザー層の拡大を図ることができると見ている。

HTCは、キーボードレスの「P3600」(左)、モバイルPC型の「Advantage X7501」をSIMフリーモデルとして日本でも発売した。ただし、あくまで携帯電話事業者との連携が基本であり、SIMフリー機はそれだけではカバーできない需要を満たすための実験的な取り組みだとしている

木村氏は、スマートフォンは「"携帯上がり"の需要と、"PC下り"の需要がある」と述べ、携帯電話の可搬性とPCの機能性・柔軟性を兼ね備えた製品と位置づけるが、日本の場合、携帯電話で利用できるサービスが充実していたため、"携帯上がり"でスマートフォンを求めるユーザーが少なかったと指摘する。携帯電話とPCの中間を求める需要は確実に存在するが、多様なアプリケーションを利用可能な柔軟性を持つがゆえに「これがあれば盛り上がる」というキラーアプリケーションはなく、むしろさまざまなアプリケーションを組み合わせることが、スマートフォン市場活性化のカギになるとしている。

また、海外でスマートフォンは「持っていることがステータス」(木村氏)という見方をされることもあるといい、ユーザーの所有欲をかき立てる"very smartphone"、"really smartphone"が日本にもあって良いのではないか、との見方を示した。

マイクロソフト モバイル&エンベデッドデバイス本部長の梅田成二氏

梅田氏は、携帯電話のディスプレイとしては高解像度のWVGA(800×480)液晶を利用したWindows Mobile機が日本で人気を集めているが、こうした日本市場の要求に応じられる機能をプラットフォームに取り込んでいったことで、ユーザーの満足度は確実に上がっていると話す。端末メーカーや通信事業者といったパートナー企業とは、PC向けのOSを開発するときよりもさらに緊密な関係にあり、同じバージョンのWindows Mobileでもスマートフォンの機種ごとに細かな改良が加えられている。そうして枝分かれする中で得られた新機能は、この夏に登場したWindows Mobile 6のように、メジャーバージョンアップのタイミングで共通プラットフォームに取り込まれることもあるという。

30日からWebサイトでWindows Mobileの体験談を募集

マイクロソフトでは、2008年1月8日までにWindows Mobile 6搭載スマートフォンを購入すると抽選で各種賞品が当たる「スマートチャンスキャンペーン」を現在開催しているが、11月30日からは追加で、スマートフォンの使いこなし方、成功談・失敗談など、Windows Mobileにまつわる体験を「あなたのスマートチャンス」として特設サイト(音声有り)上で募集開始する。優秀作品は同サイト内で紹介し、投稿者にQUOカードをプレゼントする予定。

11月30日から、Windows MobileにまつわるエピソードなどをWebサイトで募集する。スマートフォンの新たな使い方を発掘するための試みでもある