20日より行われていた第20回東京国際映画祭を締めくくるクロージング・セレモニーが28日、東京・渋谷のBunkamuraで行われた。この日は台風一過で朝から晴天となり、会場には感動のフィナーレを取材すべく多くの報道陣が殺到。クロージング作品に選ばれた『シルク』の俳優陣がレッドカーペットに現れると、沿道のファンからの声援と無数のフラッシュが浴びせられた。
映画祭で最も注目されるコンペティション部門の最高賞「東京サクラグランプリ」には、エラン・コリリン監督の『迷子の警察音楽隊』が輝いた。トロフィーを受け取ったコリリン監督は興奮を隠しきれない様子で、「この受賞を誇りに思う。何が人に評価されるのかはわからないけれど、この作品には安らぎと思いやりが詰まっています」とコメント。会場は盛大な拍手で包まれた。
『迷子の警察音楽隊』
イスラエルへ演奏旅行に訪れたエジプト警察音楽隊が間違えて砂漠の真中の忘れられたような小さな町にたどり着く。そこで出会った町の住人と楽隊メンバーの心の交流を描く、あたたかくて忘れられない平和と希望の物語。
監督/エラン・コリリン
出演/サッソン・ガーベイ、ロニ・エルカベッツ他
さらに、美術監督として名高いリー・チーシアン監督の長編2作目となる『思い出の西幹道(仮題)』が審査員特別賞、『デンジャラス・パーキング』で自ら主役も務めたピーター・ハウイットが最優秀監督賞、差別と前向きに戦う少年をコメディタッチで描いた『リーロイ!』が観客賞を受賞した。
コンペティション国際審査委員長のアラン・ラッド・Jr.は「今回は素晴らしい作品ばかりだったので、賞を決めるのにとても迷いました。審査はお互いの意見を尊重しながら1つ1つじっくりと選んでいったので、ケンカをすることもありませんでした。そんな中、グランプリの作品だけは満場一致で決まりました。宗教を問わず、人が助け合いながら生きのびていく姿にとても感銘しました」と総評を述べた。
表彰式の後には、今回の映画祭の記念すべきクロージング作品に選ばれた『シルク』(2008年正月公開)の舞台挨拶が行われ、フランソワ・ジラール監督、マイケル・ピット、役所広司、芦名星、中谷美紀、國村隼、本郷奏多らが颯爽と登場した。「原作が持っている夢のような質感がある作品で、すごく気に入っている」(マイケル・ピット)、「とても美しい映画に仕上がっています。ぜひ楽しんでください」(役所)、「一曲の音楽が流れているような作品です」(芦名)、「私が出演している映画に坂本龍一さんが音楽をつけてくださるのが長年の夢だったのですごく嬉しです」(中谷)、「ゆったりと時間が流れているようなあたたかい作品です」(本郷)、「普遍的なストーリーを上質に描いています。ゆったりと楽しんでください」(國村)、「海を渡り、やっと日本の方々に見てもらえるのが嬉しくて仕方ないです」(フランソワ・ジラール監督)と作品についてそれぞれの想いを語った。
『シルク』
若き軍人エルヴェは美しいエレーヌと出会い結婚するが、村で起きたある出来事を機に日本へと旅立つ。そこにはもう一つの運命的な出会いが待っていた…。「シルク・ド・ソレイユ」の天才演出家フランソワ・ジラールによる、日本×カナダ×イタリア合作の、切なく美しいエピック・ラブロマン。音楽は『ラスト・エンペラー』でアカデミー賞作曲賞を受賞した世界の坂本龍一が手がける。2008年正月公開。
監督/フランソワ・ジラール
出演/マイケル・ピット、キーラ・ナイトレイ、役所広司、芦名星、中谷美紀 他
クロージング上映直前の会場は、いよいよフィナーレという名残惜しさや寂しさ、感動が入り混じったような空気に包まれ、集まった映画ファンたちの鼓動が聞こえてくるようだった。回を重ねるごとに進化していく東京国際映画祭――。来年はどんな素晴らしい作品に出会えるのか、今から楽しみだ。
第20回東京国際映画祭 受賞作品・受賞者リスト
賞 | 受賞作品 / 受賞者 |
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東京サクラグランプリ | 『迷子の警察音楽隊』 |
審査員特別賞 | 『思い出の西幹道(仮題)』 |
最優秀監督賞 | ピーター・ハウイット(『デンジャラス・パーキング』) |
最優秀女優賞 | シェファリ・シャー(『ガンジー、わが父』) |
最優秀男優賞 | ダミアン・ウル(『トリック』) |
最優秀芸術貢献賞 | 『ワルツ』 |
観客賞 | 『リーロイ!』 |
最優秀アジア映画賞 | 『シンガポール・ドリーム』 |
アジア映画賞スペシャル・メンション | 『ダンシング・ベル』 |
日本映画・ある視点:作品賞 | 『実録・連合赤軍-あさま山荘への道程』 |
日本映画・ある視点:特別賞 | 『子猫の涙』 |
黒澤明賞 | デヴィッド・パットナム |
撮影 : 石井健