「公衆電話」は、たしかに携帯電話の普及によってめっきり見かけなくなった。最後に公衆電話を使ったのはいつだったか、思い出せないほどだ。記事では、「1997年には全米に200万台の公衆電話があったが、現在ではおよそ半減している」とある。日本でも同様で、NTT東日本が公開している統計では、平成7年(1995年)に38.5万台あったのが、10年後の平成17年(2005年)には18.7万台と約半分になったという。さらに、通信回数では同じ10年で34.9億回から3.0億回と1/10にまで落ち込んでいる。ユニバーサル・サービスの見地から、戸外における最低限の通信手段の確保を目的として維持される方向にあるようだが、確かにビジネスとして収益が見込める状況ではなさそうだ。10年後も公衆電話は設置されているだろうが、必要な時にすぐに見つけられるかどうかは定かでないというところだろう。

「古本屋」はどうだろう。神保町がどういう街か知っている日本人にとっては、10年後に古本屋が一軒もなくなっているという状況は到底想像できないだろう。ただし、一般的な書籍流通の手段というよりは、稀覯本や絶版書籍を探すコレクターや研究者等を対象とした特殊な専門的ビジネスという色彩をより強める傾向にあるのは間違いなさそうだ。そもそも欧米では、インターネット普及以前からカタログを郵送して注文を受ける通販型の古本屋がいろいろある一方、街中で店を構える古本屋はあまり見かけた記憶がないので、米国では日本とは位置づけが異なるのかもしれない。通販型の古書店はインターネットに移行するのが自然だろうし、日本でもオークションサイトなどでの古書流通は一般化しているのは確かだ。古書店主には、目利きとして価格形成を担うという役割もあったのだが、その役割が今後どうなっていくかも気になるところだ。

「貯金箱」は、事業ということではないようだが、もしかしたら貯金箱製造販売業、といたビジネスを想定しているのかもしれない。記事では「キャッシュレス化の進行によって貯金箱が存在しなくなる日がくる」とし、「10年後には骨董屋で見かけるくらいか」としている。とはいえ、子供がいきなりクレジットカードやら電子マネーやらを使い始めるとも思えないので、幼い子供に経済観念を教える際には今後も変わらず重宝されるような気もするのだが。

「電話セールス」(Telemarketing)は、このリストのなかでは唯一、ぜひなくなってほしいと思えるものだ。社会的に有用な側面もあるかもしれないが、望まない電話に邪魔されるのを煩わしく思う人は少なからずいるはずだ。記事でも同様のトーンでまとめているが、業界がタフで売上も少なからずあることから、各種規制で困難な状況にはあるものの、絶滅には至らないという見込みだ。振り込め詐欺のようなものもあり、利益が見込めるのであれば手がける人間は皆無にはならないだろう。

「アーケードゲーム」に関しては、意見が分かれそうだ。記事では任天堂のWiiやMicrosoft Xbox 360を挙げ(PS3は名前すら挙げてもらえなかったようだが)、いわゆるゲームセンターの先行きを案じている。米国では、「10年前に1万あったゲームアーケードが、現在では3,000ほどにまで減少している」そうだ。これを踏まえ、10年後の予測として「ゲームオーバー」と宣告されている。一方日本では、家庭にゲーム機が普及し始めたのは米国よりも先だろうと思われるが、今でも繁華街にはゲームセンターが営業しているのを見かける。自宅に設置するのは不可能な大型の特殊な筐体を利用したものも多く、こうしたゲームで遊びたいというユーザーが皆無になるとは思えないところだ。

全体としてみると、実は刺激的なタイトルを掲げていながら、リストアップされた個々の項目は、10年後に確実になくなっているというほどのことではないものばかりのようで、正直やや肩すかしな感がある。さらに、全体的にインターネットの影響を過大評価しているという印象も受ける。この1997年からの10年間は、インターネットが爆発的に普及した時期とも重なるわけだが、この10年でインターネットに完全に駆逐されて消え去ったビジネスがどれほどあるかと考えてみると、次の10年に起こる変化も漸進的なものにならざるを得ないだろうと思われる。

また、街のCDショップや書店、ゲームセンターなどは、大都市圏では一定の需要は残るだろう。明確な目的が決まった上での指名買いならインターネットで用が足りるが、「何となく見てみたい」とか「ちょっと空き時間を潰したい」といった要望がなくなるとは思えない。まだ行ってみてはいないのだが、国内で急成長しているビレッジバンガードなどの書店の例は、インターネットで買えるものをリアル店舗で売ることが絶望的な状況などではないことを示唆しているといえるだろう。元記事がEntrepreneur.comというサイトに掲載されたことを考え合わせると、今後どのような事業が有望なのか、起業に当たってどのようなアイデアを検討すべきか、という前向きな示唆が含まれない点も不満が残るところだ。本当に有効なアイデアを思いつければ起業は成功する可能性が高いし、そのアイデアは記事を読んで手軽に得られるようなものではない、ということなのかもしれないが。