マイクロソフトは7日、同社が特別協賛する「MCPCモバイルソリューションフェア2007」(主催:モバイルコンピューティング推進コンソーシアム)で代表執行役兼COOの樋口泰行氏が基調講演し、携帯情報機器向けOS「Windows Mobile」を核にした同社のビジネス向けモバイル製品戦略を説明した。PDAや特定業務向けだったWindows Mobileデバイスを、PCのようにビジネスのあらゆる場面で使える汎用のツールに発展させていく方向性が示された。

マイクロソフト代表執行役兼COO・樋口泰行氏

樋口氏は、スマートフォンは2011年まで年平均およそ30%の伸びを示し出荷台数は3億台以上になる、と予測する調査結果を引用し、既に一定の普及が進んだ携帯電話やノートPCに比べ、スマートフォンは今後もまだまだ市場が拡大する分野との認識を示した。そのうちWindows Mobile搭載端末については、現在世界で47のメーカーによって140機種が提供されており、年間出荷台数は1,000万台を突破したという。

日本国内について見ると、2005年末にウィルコムの「W-ZERO3」が発売されたのを皮切りに、NTTドコモ、ソフトバンクモバイル、イー・モバイルがWindows Mobile搭載機を投入し、今後発売されるものも含めると現時点で10機種が発表されている。現在のユーザーは「アーリーアダプター」などと呼ばれる新しいもの好きの個人が大半だが、樋口氏は現在の状況について、一般の企業にPCが導入され始めたころの状況に近いと見ている。それは、全社ではPCを導入していないが、個人でPCを所有している社員が職場にそれを持ち込んで使うようになり、次第に一部の部署が導入を始めるという段階で、スマートフォンも現在は個人ユースのものがビジネスでも使われている状況だという。

スマートフォンは2011年までに3億台以上に達するとの予測(出典はIDC)

日本で発表されたWindows Mobile搭載スマートフォンは10機種になった

PCがそうであったように、スマートフォンも今後は企業によって一括で導入、管理されるものに変化していくとし、その時代においては「サーバーと組み合わせたときに大きなバリューを発揮する」(樋口氏)。Windows MobileはメッセージングサーバーのExchange Server、コンテンツ管理サーバーのSharePoint Serverなどとの連携が最初から考慮されており、それらと組み合わせた場合はよりリッチなメッセージングやドキュメント利用の環境が実現されるほか、VPNを使わずともセキュアな通信が行われるため、企業による携帯端末の導入時に最大の懸念材料となる情報漏洩リスクも防げるとしている。

日本は米国などに比べて業務にITが活用される領域が小さいとされるが、樋口氏は「(PCの導入に関しては)タイプライターがあった米国に対して日本は文化的ハンディキャップがあったが、携帯の活用では日本のほうが早い」と指摘。ビジネスでのモバイル活用を推進するため、同社は魅力的なフォームファクタが出てくる環境を整える「プラットフォームベンダーに徹し」(樋口氏)、「ホワイトカラーの生産性向上、ひいては日本の競争力回復に貢献したい」(同)とした。

USJやINAX保守会社で本格導入

今回の基調講演では、Windows Mobile搭載スマートフォンを導入した企業として、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)を運営するユー・エス・ジェイと、家庭に設置されたINAX製品の修理・保守を行うINAXメンテナンスの2社の事例が紹介された。

USJではどこにいてもメールチェックできる環境を整え、意志決定の迅速化を図った

ユー・エス・ジェイでは、NTTドコモのスマートフォン「htc z」を約130台導入し、Exchange Serverと連携させることで、幹部社員がいつどこにいても社内と同等の環境でメールを利用できる環境を構築した。同社では導入前に対象社員の1日の業務を調査しており、それによると勤務中およそ55%の時間はPCの前にいることがわかり、全勤務時間のうち25%がメールの処理に費やされていたという。会議や部下とのミーティングよりも、PCに向かっている時間のほうが長かったことになる。

それが、スマートフォンの導入により移動中などの「すきま時間」にメール処理を行えるようになったことで、オフィスに着いてまずメールの返事を書くという時間が不要になり、USJの園内に出ている間や外出中、重要なメールが入ったためにオフィスへ戻るといった手間も省けるようになったという。同社の場合、メールサーバーとしてExchange Serverをすでに使用しており、スマートフォン導入の決定からシステムの利用開始までは2カ月ほどだった。また、さらに高いセキュリティを確保するため、スマートフォンとサーバーの通信にはNTTドコモの専用線遠隔接続サービス「ビジネスmoperaアクセスプロ」を利用した。

INAXメンテナンスでは、サービスエンジニアが携帯していたPDAをスマートフォンに置き換え、使い勝手を高めた

INAXメンテナンスでは、顧客製品の修理・交換などを行った際にその場で業務報告を送信していたが、従来PDAとデータ通信カードを組み合わせて実現していたこのシステムを、Windows Mobile搭載スマートフォンで代替した。同社は全国に600人のサービスエンジニアを擁しており、顧客からの作業依頼がセンターに入ると、センターのオペレーターは作業場所に近いエンジニアが持つスマートフォンのスケジュールおよび顧客情報をPush更新し、次に向かうべき場所を指示する。エンジニアは顧客先での作業を終えた後、モバイルプリンタを利用して作業代金の振込用紙をその場で発行し、スマートフォン内蔵カメラで撮影した作業内容の写真を含んだ作業報告を会社に送信する。

このシステムでは、外出先の端末から顧客の個人情報を含むデータベースにアクセスすることになるので、情報がセキュアな状態で扱われることが第一に必要となる。そのため端末とサーバーとの通信のほか、端末内に格納された顧客情報も暗号化されており、さらに、万一端末を紛失したときには遠隔で端末内の情報を消去することができる。また、PDAとデータ通信カードの組み合わせに比べるとスマートフォンは持ち歩きが楽で、キーボードを搭載しているため従来定型文が中心だった作業報告で自由文入力もより多く使われるようになったという。