理由、背景がいまひとつはっきりしないのだが、中国のメディアがネットワーク世界の非規範文字へ"攻撃"を仕掛け、しかもそれらに「火星文」というあだ名を付けた。メディアは、「火星文」の流行を「90后」(1990年代以降生まれの人)のせいにしている。
火星文とは何か。台湾に端を発する火星文は、符号、繁体字、日本語のカナ文字、冷僻字(あまり使われない字、見慣れない字)など非規範漢字や符号を組み合わせて作られ、一見すると、文字化けや打ち間違えた字にもみえる。使い方も中国語の規範に合わず、字面からはその言わんとする内容が全く理解できない。
読み方が同じか相似、書きやすさも
よく見れば、火星文は確かに中国語と対応する意味を表しているが、その表現形式は極めて自由奔放である。ある解釈によれば、火星文は形式上、中国語、英語、日本語、数字、符号などを融合した一種の新文字なのだ。少し上の世代なら、まず、すぐには判読、理解ができない。火星文が通常「模糊語言(はっきりしない言語)」と言われるゆえんである。
火星文の大半は、非正規の漢字符号、ピンイン(中国語の表音表記)、字母(表音文字、あるいは表音符号の最小の表記単位)、異体字(正体字と字音も字義も同じであるが字体が異なる字)、繁体字などからなり、普通は読み方が同じか極めて相似をなし、書きやすいというのが特徴だ。いくつか例を挙げてみたい。
句読符号類(カッコ内は日本語での意味)
- (^-^)(微笑み)
- (^_^)(シャイな微笑)
- (↑o↑) (嬉し泣き)
- \(^o^)/(踊り上がって喜ぶ)
(>_<)}}(とても寒い)
漢字類(カッコ内は中国語での意味、その発音、日本語での意味)
- 17闘4幻j( 一切都是幻覚 、yi qie du shi huan jue、全ては幻)
5T頭d( 五体投地、wu ti tou di、敬服)
英字類(カッコ内は中国語での意味、その発音、日本語での意味)
- 3Q(謝謝、xie xie、ありがとう)
- EDD(一点点、yi dian dian、ちょっとだけ)
この種の難解な言語表現が、一部の青少年の間で流行り出したわけだが、「普通の地球人には理解できない」ということで、「火星文」と表現されたのである。多くの言語学者たちは、「文字使用に弾力性はあってしかるべきだが、適度にコントロールをおこなう必要もある。ネットワーク上のバーチャル環境とはいえ、現代中国語の規範に符合した文字表記を推奨すべきだ」としている。
つまり、ニューメディアプラットフォームから生まれた「新語」でも、時代の先端をゆき、規範に符合し、しかもすでに多くの人に認められているネットワーク新語なら排斥しないというのだ。たとえば、「版主」(掲示板管理人)、「鏈接」(リンク)、「下載」(ダウンロード)などである。
個人のサインやチャット、ブログなどで拡大
火星文のオリジンだが、本を正せば、多くの若者が他人が書いたものを見て面白いと思って使い始め、最終的には自らオリジナルを創り始める、というごく自然なものだった。現在、火星文の広がっている範囲は、ネットワークにおける個人のサイン、簡単な自己紹介やチャット、ブログの文章などが中心で、使用者は専ら青少年。彼らのなかでは、普通文字の偏(へん)や旁(つくり)、字形、字母、数字の発音などから、だいたいは語句の意味が推測できるようだ。
反対派がいれば、もちろん賛成派もいる。火星文について、ネットワーク利用者の意見は真っ向から対立している。多くの人は火星文に、伝統的な漢字文化を侮辱していると非難を浴びせる。編集などに従事する人のなかには、「漢字と他の表音文字との大きな違いは形で意を表すところにある。字母、ピンイン、誤字などが入り乱れるようになれば、漢字本来の美をどこに見出せばよいのか」と憤る人たちもいる。ただ、大半のネット利用者は、火星文を創作するにしろ閲読するにしろ、想像力に満ちた「チャレンジ」のようなもので、言語は革新の中でこそ発展する、との見方にむしろ賛同しているようだ。