最後にHorowitz教授が立ち、「CMOSの次は何も無い。これでお仕舞い、もう言うことは無い。家に帰っても良いか?」と切り出した。CMOSのスケーリングが何時かは止まるというのは避けられないが、スケーリングが止まってもエレクトロニクスやコンピュータの業界が没落するということにはならない。鉄やコンクリートの分野の技術の進歩はピーク時に較べて大幅にスローダウンしたが、今でも鉄とコンクリートが土木や建設の主要材料であり、他の新素材がこれらを置き換えた訳でない。このようにCMOSも進歩がスローダウンしても、代替の候補の無い現状では、主役で有り続けるという見方を示した。また、SCEのPS3と任天堂のWiiを引き合いに出し、人々は高性能なコンピュータを欲しがっているわけでは無い。人々が買いたいと思うものを作ることが重要と述べた。

会場からの質問で、スケーリングが1世代進むごとに投資は大幅に増大し、投資が回収できなくなるのではないか? メーカーの大同団結が必要になるのではないかという質問が出たが、IntelのMayberry氏は、反トラスト法もあるし、早く次世代を立ち上げた方が有利になるという状況もあるので、競争は止まないという回答であった。

また、量子コンピューティングは超低温が必要なのが問題。常温で出来ないのかという質問があり、Kubiatowicz教授は、イオントラップは常温に近い温度で実現できると述べたが、続けて、量子コンピューティングの答えは確率的にしか得られないが、シリコンCMOSのディジタル回路でもバラつきが増えると確率的にしか正しい答えが得られなくなる。確率的に答えが出るシステムをどう使うか考える必要があると述べた。

すると、すかさず会場から、「確率的な航空管制システムは怖くて使えない」というコメントが出たが、Horowitz教授が、「現在の航空管制システムは、人間(パイロットや管制官)という確率的な要素に頼っている」と切り返す一幕もあり、面白かった。

スケーリングが進むと一層、中性子などに起因するソフトエラーが問題となるのではないかという質問に対して、IntelのMayberry氏は、問題を解決することは可能で、致命的な問題ではないと述べていた。

筆者の印象は、「スケーリングが止まったとしても、現状ではCMOSに置き換わるものは考えられない。素子の進歩がスローダウンするという環境で、如何にしてユーザにアピールするものを作っていくかが問題」という、ある意味では、当然の結論であったと思う。

終了予定の午後9時半よりは若干早く終わったが、駐車場までの道は真っ暗で、長い一日であった。