6月27日に発売された新型ノア・ヴォクシーの販売が好調だ。トヨタの発表によると受注台数は発売から7月26日までの1カ月間で、約3万7,000(ノア1万6,500台、ヴォクシー2万500)台を受注した。最近は新車が売れず各メーカーの国内販売担当者からのグチが聞かれるようになったが、ノア・ヴォクシーは快進撃を続けているようだ。メーカーが設定する月間目標台数は最初から低く見積もる傾向があるが、それでもノア・ヴォクシーの月間目標台数は1万台とかなりのボリューム。それを3.5倍も超える受注台数なのだから相当な人気なのだ。

先代とほぼ同様のボディサイズに納められているが、エアロパーツを装備するノアのSとSi、ヴォクシーのZとZSは幅がわずかに5ナンバーサイズを上回るので3ナンバーになっている。写真左側のヴォクシーは若い世代を狙って開発されたデザインだ

ヴォクシーのフロントデザインは特に個性的だが機能的な意味合いもある。ボンネットを高くしているのは、エンジンとボンネットとのクリアランスを大きく取り、歩行者との衝突時に頭部が受けるダメージを小さくするため

この受注データを見て意外だったのは、ノアよりもヴォクシーのほうが圧倒的に売れていること。ノアは強力な販売チャンネルであるカローラ店扱いだから今までもヴォクシーを上回る台数を稼ぐことが多かった。それとヴォクシーのデザインが個性的という点だ。ファミリーユースが多いミニバンでは、あまり飛びぬけたデザインは選ばれにくいと思っていた。ところがヴォクシーが売れている。

写真は明るいホワイト系の室内色のノア。ヴォクシーは落ち着いたブラック系の室内色となる。ミニバンらしい開放感があるのはホワイト系のノアのほうだ。デザインは共通で、センタークラスターはトヨタが最近採用を続けているパネルタイプ。5人乗りとXグレード以外は、この視認性に優れるオプティトロンメーターが標準

死角を少なくするためAピラーはなるべく細くし、三角窓を大きくして視界を確保している。さらに従来はドアミラーをこのフレームに付けていたが、ドアにマウントすることで視界をよくしている

実はヴォクシーで気になっていたことがある。新型ノア・ヴォクシーをはじめて見たのは、発表の少し前にメーカー主催で行われるマスコミ向けの事前撮影会。メーカーのエンジニアも参加しているため、ボクは担当者に「ヴォクシーのデザインはちょっと派手過ぎませんか」と質問した。その担当者は「20代後半から30代半ばまでのユーザーを狙いましたから、このようなデザインにしたわけです。狙った層のユーザーだけにわかっていただければいいと思っています」という。とりあえず受注台数だけを見ればエンジニアの狙いは成功で、トヨタのマーケットリサーチ力が高いことを証明している。

ではクルマそのもののできはどうだというと、これがなかなかいい。新型は先代からのキャリーオーバーの部分が多く、基幹部分であるプラットフォームやサスペンションといったものは改良を加えているが先代のパーツを踏襲したもの。コストをできる限り抑えながら重要なポイントにはコストをかけている。それが新搭載の"バルブマチック"エンジン。排気量2Lの3ZR-FAE型エンジンは、BMWが採用しているバルブトロニックと同様、エンジンの吸気バルブで出力を調整するというもの。通常のガソリンエンジンは吸気管に付けられているスロットルバルブで出力を調整するが、バルブマチックはバルブのリフト量を可変することで調整している。メリットはポンピングロスの低減とレスポンスの向上、最高出力の向上などだ。

試乗してみると確かにアクセル操作に対するエンジンレスポンスがいい。特に中間加速域でアクセルを踏み込んだときのフィールはスポーティ。だが、期待が大きすぎたせいかそれほどパワフルという印象がない。というのは3ZR-FAE型エンジン搭載車でマニュアルシフトを使い全開加速すると、タコメーターの6400回転からのレッドゾーン手前でアップシフトしてしまう。それもまだエンジンのトルクが伸びている約6000回転ほどで、もったいないことにアップシフトしてしまうのだ。エンジンの高回転の伸びがいいだけになんとも惜しい設定だが、これにはわけがあった。

新型は4WDを含めて全グレードのミッションにCVTを採用。3ZR-FAE型搭載車には7速シーケンシャルモードが付けられたスーパーCVT-iが組み合わされているが、このCVTの耐久性を確保するために1速では高回転域まで引っぱらない設定にしている。ローギヤードの1速で高回転まで回すと2速にアップしたときに受ける負担が大きくなるからだ。トルク変動が大きくならないよう、あえて1速はレッドゾーンまで引っ張らないというわけだ。

もう一つのエンジンはバルブマチックを採用しない3ZR-FE型。3ZR-FAE型が158(4WD用は155)馬力なのに対して15馬力低い143(同140)馬力だが、低中回転域のトルクが充実しているために加速力はほぼ同じ感覚だ。バルブマチックはこれから主流になるだろうメカニズムだけに先進的な魅力はあるが、通常の走行ではほとんど差がないといっていい。ただ気になったのはなぜか量販グレードの3ZR-FE型エンジン搭載車のほうが、ロードノイズが大きかったこと。タイヤサイズは3ZR-FAE型搭載車のほうがひと回り太い205/60R16を履くからノイズ的には厳しいはずだが、静粛性という点ではスポーティなエンジンを搭載するグレード(ノアSi、ヴォクシーZS)のほうが静かだった。

このクラスのファミリーミニバンは、後席に人を乗せる機会が多いため乗り心地も重要なポイント。ミドルクラスのミニバンでは、日産セレナが重い車重をうまく乗り味にむすびつけて落ち着いた乗り心地を実現していたが、このクラスのリーダーに立ったのはノア・ヴォクシーだ。先代からのプラットフォームとサスペンションを改良しただけだが、サスペンションはスムーズにストロークして荒れた路面でも乗り心地がいい。ピッチングやロールがうまく押さえ込まれているが硬いという印象はなく、タイヤがうまく路面に追従しているという感じだ。これは先代から流用したことがうまくいった例。基本設計を受け継ぐということはテスト期間を長く取れるということで、乗り心地を改良する"熟成"期間をしっかりと取れる。同様の例が少し前に発売されたプレミオ・アリオン。これも基本は先代からの流用だがテストがしっかりできるため、あまり立派でないタイヤを装着しているグレードでもしなやかで落ち着きのある乗り心地を実現していた。新開発や新機構ばかりがいいわけではないという好例だ。それにコストも下げられるからメーカーにもユーザーにもメリットがあるわけだ。

室内装備で注目はノアのG、ヴォクシーのVに標準装備されているロングスライドマルチ回転シート。セカンドシートが470mmもスライドし、サードシートと向き合って座ることができるが、それよりも注目なのがこのシートのもう1つの機能"チャイルドケアモード"だ。回転機構を生かして助手席側は外側に60度、運転席側は30度レバー1つで回転させられるから、チャイルドシートに子供を乗せるときにとても便利。ミニバンでも親がクルマに乗り込んで座らせるということが多いが、これならばスライドドアを開けてレバーを引くだけで子供をグッと乗せやすくなる。子育て世代にうれしい装備だ。このチャイルドケアモードの開発には子育て世代の女性スタッフが加わり、実際の使い勝手を考えて開発したと言うだけのことはある。それにシートがISO-FIX対応なのはもちろん、衝突時のチャイルドシート固定を助けるテザーアンカーまで装備している。

また子供が乗り込みやすいようにBピラー(フロントシートの後ろ側の柱)には子供が手を掛けやすい"チャイルドグリップ"を装備。さらにステップ自体も先代よりも30mm低くなっているから小さな子供やお年寄りでも乗降が楽になっている。また、サードシートにも工夫がある。Lクラスミニバンではサードシートを床下に収納するタイプが多いが、ノア・ヴォクシーはスペース効率がいい跳ね上げ式を採用しているがレバー1つで簡単に収納できる。通常跳ね上げ式は重いシートを持ち上げる必要があるが、収納機構にバネを組み込むことで片手のまま楽に操作できるのだ。こうした細かな部分をよく考えてあるのも新型ノア・ヴォクシー良い部分だ。

最後に設定グレードのなかで注目しておきたいのが5人乗り仕様。ノアがYY、ヴォクシーがトランスXというグレード名だが、サードシートを廃止してリヤを大きなラゲッジスペースにしている。ここには荷物の仕切りにも使える3分割のボードが設置されているが、このボードを倒したセカンドシートに合わせて敷き詰めると、なんとベッドスペースになってしまうのだ。ベッドの幅は1580mmあるから大人2人が寝ることができる。簡易キャンピングカーとして使えるから、オートキャンプを楽しみたいと言う人にはお薦めだ。

全グレードのフロントシートにはアムーレストが備わる。ノアのグレージユと呼ぶ内装色に組み合わされるファブリックは触感がいい。ノアはほかにミディアムグレーの内装色も選べるが、ヴォクシーのシートカラーはブラック系のみ。ヴォクシーのシート地には光沢プリントを組み合わせた"ラグジュアリージャージ"があるが、これは少々体が滑りやすく、ホールド性は今一歩

ほとんどのグレードに標準なのがこのワンタッチタンブルシート。センターのシートを写真のようにたためば前後シートにウオークスルーできる

センターのシートをセットすれば3人掛けができるが、やはりセンターはクッションが薄めで座り心地はあまりよくない

簡単にセカンドシートを跳ね上げられるため、サードシートへの乗り込みは楽だ

サードシートの乗り心地は改善され、足下のスペースが広くなっている。横幅はそれほど広くないので3人掛けではきついが、2人掛けならばロングドライブも余裕でこなす

子供用のアシストグリップがこれ。Bピラーの低い部分に付けられているため、身長が低い子供でも1人で安全に乗り込むことができる

サードシートはこのようにサイドに跳ね上げるタイプ

サードシートはシート下に隠されているこのレバーを軽く引くだけで跳ね上げられる。手を添えるというより、指を添えているだけで軽く持ち上げ収納することができる

ラゲッジアンダーボックスは十分なスペースがあって使いやすい。ゴルフバッグを収納できる78Lの容量を確保している

乗り心地がよく走りも十分満足できる。注目されれているバルブマチックも悪くはないが、通常の走りではノーマルエンジンとほとんど変わらない

サイドモニターがあれば死角になる左前輪付近が見える。小さな子供がここにしゃがんでいてもモニターを確認することで発見が可能だ

サイドモニターとセットのワイドビューフロントモニター。T字路から出るときにクルマをあまり前に出さなくても左右の確認ができるから安全

レクサスLSにも採用されているインテリジェントパーキングアシスト。クルマが自動的にステアリングを操作して駐車してくれる。車庫入れはもちろん、縦列駐車もできる

ロングスライドマルチ回転シートに装備されているのがチャイルドケアモード。写真のように助手席側は60度も外側に回転するから子供をチャイルドシートに乗せやすい

180度回転させればサードシートと対面対座できる。マーケットリサーチでこのシートアレンジはあまり使われないことがわかっていたため開発時には採用しない予定だったが、チャイルドケアモードを実現させるにはシートに回転機構を組み込まなければなず、付加価値として装備された

欧米のクルマには採用例もあるが、これはリヤシートに座っている子供の様子を確認するためのミラー。これがあれば振り向かなくてもいいので安全性が高まる

注目グレードは5人乗り仕様のノアYYとヴォクシーのトランスX。セカンドシートを倒して、付属のボードをリヤに並べれば簡単に完全フルフラットのベッドが出来上がる。そのまま寝るには床が硬いので、キャンプ用のベッドマットなどを使えばキャンピングカーのように寝ることができる

5人乗り仕様は3分割シートのうちの1枚がテーブルになっているため、このように室内で4人がテーブルを囲んで食事をすることができる。まさに簡易キャンピングカー

丸山 誠(まるやま まこと)

自動車専門誌での試乗インプレッションや新車解説のほかに燃料電池車など環境関連 の取材も行っている。愛車は現行型プリウスでキャンピングトレーラーをトーイングして いる。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
RJCカー・オブ・ザ・イヤー選考委員