Second Life利用のリスクと展望

SLが流行らないのではないか、あるいは一般には浸透しないのではないか、という議論があります。筆者はSLの将来については楽観視していますが、SLが今後クリアしなければならない課題が多くあるのも事実です。ここではSLのビジネス利用に関連したリスクとその展望を考えてみます。

サーバーダウン、障害、バグなどによるリスク

SLで利用されているサーバーは全てLinden Labが直接管理しており、アメリカ国内に設置されているとされています。SIMを購入したユーザーはSL内におけるそのSIMの管理権限を得ることはできますが、SIMが入っているサーバー自体を直接管理することはできません。よって、急にサーバーが落ちたとか、うまくデータが読み込まれないなどといった事態に対してはLinden Labに直接申し出るしかありません。Linden Labは障害については何ら保障してくれないので、本気でビジネスに利用しようとする場合、その点の責任の所在が問題となります。将来的にサーバー設置がオープンになり、一般のユーザーでもサーバーを自前で持てるようになったとき、この問題が解決に向かうでしょう。

為替リスク

現在、リンデンドルとUSドルの為替レートは約1US$=260L$で安定しています。しかし今後の状況は予断を許しません。何しろ仮想経済世界においてこれだけの巨大な額がリアルタイムに取引されている中、為替レートを管理するというのは人類史上初の試みだからです。将来的に何か不測の事態によってレートのバランスが崩れ、L$で多額の資産を持っている人が損を被ることは十分に考えられます。

Windows Vista問題

2007年7月現在、Linden LabはSLにおいていまだにWindows Vistaを公式にはサポートしていません。最新のグラフィックカードのドライバをインストールすることで動作したという報告もちらほらありますが、依然として動作しない事例は多く、一刻も早い対応が待たれます。

ラグと人数制限:スケールの限界

SLで大々的なプロモーション活動などを行おうと考えた場合、一番頭の痛い問題が通信の遅延状態、いわゆる「ラグ」です。ラグが発生すると、各ユーザーが操作を行っても、SL内のアバターが実際に動くまでに時間がかかるようになったりします。1つのSIMに同時に接続できるアバター数はデフォルトで40人、最大で100人です。つまり、何かイベントを行ってたくさんの人を集めようとしても、同時に集まれる数は最大で100人が限界ということです(SIMを4つ正方形型につなげて中央部に集まれるようにすることで100×4=400人まで一応可能)。また、人が集まれば集まるほどSIMには負荷がかかり、動作が重くなってラグの原因となります。SIMをコピーして(ミラーリング)人を分散させる方法も考えられますが、それでは1つの場を共有したとはいえません。SLが本当にメジャーになるためには、少なくとも数千人が1カ所に集まっても平気なくらいのSIMが必要になるでしょう。全てのアバターがSIMに対して一方的に接続するのではなく、そのSIMにいるアバター同士がデータを直接融通し合うような、P2Pのシステムの開発がカギではないかと筆者はみています。

このようにSLは普及へのハードルがまだまだ高いのが現状です。にも関わらず企業が先行して進出することに対して「ユーザー数が少ないところへ進出するのは意味がない」といった論調も見受けられますが、それは必ずしも正しくないと思います。逆に、企業が先行して進出してコンテンツを用意していくことでSLの魅力が増し、ユーザーのSL利用意欲が高まってくるという側面もあると考えています。特に日本はトップダウン型の文化がまだまだ強い国柄ですから、、「企業主導型のSLの普及」も日本においては大いにありえるシナリオです。ただしこれまで見てきた事例を通しても明らかなように、SLで成功するにはユーザーの積極的な支持が不可欠です。一般ユーザーの意見を吸い上げながらいかに魅力的なコンテンツを作っていけるかがSLにおけるビジネスのカギではないかと思います。

山田直行
株式会社メルティングドッツ所属。セカンドライフへのビジネス面、教育面、マーケティング面などの活動を支援する同社のクリエィティブスクリプター。
ホームページ:http://meltingdots.com