「公共性」をメディアサービス分類の基準に

先に挙げたコンテンツに関する3つの枠組みのうち、1の「特別メディアサービス」は、従来の地上波放送の枠組みをほぼ維持する。「公共性の高い放送については、従来の放送法よりも規制は緩和しつつも、免許制など現行の枠組みに準じたものとなる」(内藤氏)という。2の「一般メディアサービス」については、「特別メディアサービスに比べて公共性が薄いと判断した放送について、免許制ではなく一部では届出制にするなどの柔軟な対応をし、放送産業の振興を図る」(同)とし、具体的には専門チャンネルのようなものを想定している。特別・一般メディアサービスと公然通信の境目としては、「同時同報性」を基準にし、例えばIPマルチキャスト放送などはこの基準に照らし、メディアサービス(放送)とみなすという。

「Gyao」や「You Tube」などは、現在の段階では、免許や届け出の必要のない「公然通信」に該当するというが、技術的な進歩により同時同報性が確保されるようなことになれば、届け出か免許取得が必要となる「一般メディアサービス」に繰り入れられる可能性もあるという。

だが、何をもって"同時同報性"があり"公共性"が高いと判断するのか、今回の中間取りまとめ案でははっきり示されていない。これらの判断が、恣意的なものにならないか。特別メディアサービス、一般メディアサービスについては、この点が第一に問題となる。また逆に、従来の枠組みのままでは、これらのメディアへの参入が非常に難しくなるという問題もある。コンテンツ産業振興という視点から、免許取得のための要件がどのようになるのかが焦点となる。

伝送サービスと伝送設備も包含

以上のように、コンテンツに関する法体系は議論されるべき問題が最も多い箇所といえる。だが、法律の整備という面からすると、今回の中間取りまとめ案で提言された3つの法体系のうち、2の「伝送インフラに関する法体系」が、実務上最も多くの労力が費やされる部分かもしれない。

同法体系は、主に「伝送サービス規律」と「電気通信設備規律」という2つの体系に整備される。伝送サービス規律に該当する現行の法律は以下の4つである。

  1. 電気事業通信法
  2. 有線テレビジョン放送法
  3. 放送法
  4. 有線放送電話法

例えば、現行の法律だと、ケーブルテレビジョン(CATV)事業者が放送事業に加え、インターネットサービスプロバイダーのような通信事業を行いたい場合、放送については2の有線テレビジョン放送法、通信については1の電気事業通信法の認可を取得する必要がある。新しい法体系では、こうした不便をなくし、1つの認可を得れば、さまざまな事業を行えるようにする。また、電気通信設備規律については、現行の電波法と有線電気通信法の枠組みを、そのまま維持する方向で検討が進んでいるという。

分かりにくい「プラットフォームに関する法体系」

「プラットフォームに関する法体系」は、今回の中間取りまとめ案で、最もイメージしにくい法体系である。分かりにくくしている原因として、法の対象が判然としていないことがあげられる。内藤氏によれば、法律の対象は「いろんなプレーヤーの間を媒介する機能」といい、ネット上の商店街や検索サイトなどが広い意味で該当するという。こうしたサイトは、寡占化する傾向にあり、ネット上での影響力が極めて大きくなっている。そうした状況を野放しにしては、公正な取引やサービスが維持されない、というのが法の趣旨である。

研究会は中間取りまとめ案において、脚注で「モバイル・インターネットでは、寡占状況にある伝送サービス事業者がプラットフォームを提供」していると指摘しており、この注が暗に示していると思われるNTTドコモの「iモード」などのほか、CS放送のプラットフォーム事業で事実上1社体制になっているスカイパーフェクト・コミュニケーションズの「スカイパーフェクTV!」などが、プラットフォームの具体的な例と考えられる。

中間取りまとめ案では、こうした状況を「ネットワーク外部性」と呼んでいる。ネットワーク外部性とは、ユーザーが増えれば増えるほどそのサービス全体の価値が高まるという、ネットサービスなどによく見られる特性を指す。あるネットワークが大きくなればなるほど、新規参入の小さなネットワークが存在する余地がなくなるわけだ。確かに、ネット上ではこうした傾向が見受けられる。検索サイトや電子商店街、SNSなどの世界では、実際そうなっている。

だが、こうしたプラットフォームに関する法体系については、学者の論文の蓄積もほとんどないのが実情だ。内藤氏も「法の必要の是非も含めて、広く議論してもらいたい」と述べている。また、ネットワーク外部性の問題についても、「独占的な地位を利用して利潤を得るというのがビジネスモデルそのもののケースもあり、法律によって投資インセンティブをそぐということにならないようにしなければならない」と話す。

内藤氏の話すように、プラットフォームに関する法体系に関しては、寡占化の是非を含め、幅広い国民的議論がなされるべきだろう。