7年ぶりのフルモデルチェンジを受けたメルセデス・ベンツCクラス。プレミアムコンパクトセダンと呼ばれるこのクラスには、強力なライバルであるBMW3シリーズがいる。さらにトヨタが国内展開したレクサスブランドのISもCクラスにとっては新たなライバルだ。
C200エレガンスは正統派のセダンらしいデザイン。従来の丸型を基調としたヘッドライトから新型はスッキリしたつり目型に変更された |
新型Cクラスのスポーティグレードであるアバンギャルドは、グリルを見ればすぐにわかる。大きなスリーポインテッドスターが目印だ |
プレミアムセグメントのコンパクトセダンの力関係を昨年の販売台数で分析すると、トップセールスを記録しているのは3シリーズだ。続いてCクラス、その次がIS。Cクラスがモデル末期だったとはいえ、3シリーズに負けているのはメルセデスのプライドが許さない。さらに下からはISの追撃があるという具合で、今回のモデルチェンジは今まで以上に気合いが入っているのだ。
まず新型Cクラスに設定されたグレードを見てみよう。直4 1.8Lスーパーチャージャーエンジン(184馬力)を搭載したC200コンプレッサーエレガンスとC200コンプレッサーアバンギャルド、V6 2.5LのC250エレガンス、C250アバンギャルド、V6 3LのC300アバンギャルドSの5グレード。今回の注目グレードはアバンギャルドだ。その注目点はフロントグリルにビルトインされた大きなメルセデスのマーク「スリーポインテッドスター」。従来メルセデスのブランドはスポーツカーやスポーティモデルのフロントグリルに大きなスリーポインテッドスターを与えていた。通常のセダン、ましてコンパクトのCクラスにこうしたスタイリングデザインを許したということで、メルセデスの力の入れようがわかる。
新型はBMW3シリーズに負けないダイナミックな走りを可能にする、スポーティで洗練されたハンドリングが魅力。メルセデスが言うアジリティ・コントロールは素晴らしい |
C300アバンギャルドSのV6 3Lは最大出力231馬力、最大トルク30.6kgm。重低音が効いた排気音がスポーティだ |
新型Cクラスに試乗して、驚かされたのはステアリングフィールの緻密さ。ステアリング操作がスムーズにフロントタイヤに伝わっているのを実感できる。実際そう感じるだけではなくステアリングの操作に対してクルマは極めて自然な動きを示す。高速道路でのコーナリングでもドライバーが狙ったラインをきれいにトレースできる。
実はこのような「感性」の領域を磨き上げてきたのはライバルの3シリーズに対抗するためだ。BMWの特徴でもありファンをひきつける魅力は、スポーティなハンドリングとダイナミックな走りだ。従来のCクラスも高いハンドリング性能を持っていたが、スポーティさやダイナミックさという点では3シリーズに負けていた。そのため新型は、クルマを操る楽しさという部分をブラッシュアップしてきたわけだ。それは確実に成功していると言える。
新型Cクラスのハンドリングは絶妙。速いペースで走るときにはステアリングはしっとりとした重さで、裏道を曲がるようなときには適度な軽さに設定されている。腕力がない女性が駐車するときにも操舵力が軽いから操作が遅れることがない。ステアリングのアシストシステムは電動油圧システムで、車速に応じてステアリング操作トルクを調節する「パラメーターステアリング」のセットアップは絶妙だ。
惜しいのはC200系に組み合わされる5速AT。パワー感はC200の1.8Lエンジンでも従来同様のスーパーチャージャーが組み合わされているので不足はない。だが、この5速ATの変速時のショックはもう少し洗練させたい。アクセルを踏み込んで加速するときのダウンシフトは、ライバルたちと比較するとやや洗練さに欠けるのだ。特にC300の7速ATである「7Gトロニック」のスムーズさと比較するともの足りない。もちろん多段化したほうがショックを少なくできるが、5速ATのままでももう少し何とかできるはずだ。もちろんプレミアムクラスでなければ許容範囲内ではある。
新型は日本市場を重視して細かい配慮を各部に施している。メーター内のディスプレイは従来カタカナ表示しかできなかったが、直感的に意味を理解できる漢字表示を実現した。輸入車では珍しい |
インパネセンターにナビゲーションシステムのディスプレイを収納。だが、このフタが微妙に回りの質感と違い、インパネとの段差が大きいのが気になる |
セレクトレバーやそのインジケーター、ナビやオーディオをコントロールするコマンドコントローラーも右ハンドル仕様。従来は右ハンドルであっても、この部分は左ハンドル用が流用されていた |
センタークラスターに付けられたナビ用の10キーにも「かな文字」がプリントされ、より使いやすくなっている |
C300アバンギャルドSは、走りを重視するBMWのユーザーでも納得させられる完成度を持つ。231馬力のV6 3Lエンジンはスムーズに吹け上がり、3500回転ほどから重低音が混じったエキゾーストノートを響かせ走る心を適度に刺激する。ステアリングに付けられたパドルシフトを操作して加減速を繰り返すような場面では、スポーティな走りを味わえるのだ。前述の正確性が高くスポーティなステアリングフィールとパワー感、リヤサスペンションが路面をつかんで放さない安心感があるからこうしたドライビングを楽しめる。
新型Cクラスは、スポーティなC300アバンギャルドSでも操縦安定性と乗り心地が高い次元でバランスされている。メルセデスらしいしなやかな乗り心地を確保しながら、スポーティさも兼ね備えたというのが美点。3シリーズが得意とした領域に新型Cクラスは切り込んだわけだ。
丸山 誠(まるやま まこと)
自動車専門誌での試乗インプレッションや新車解説のほかに燃料電池車など環境関連の取材も行っている。愛車は現行型プリウスでキャンピングトレーラーをトーイングしている。
日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員
RJCカー・オブ・ザ・イヤー選考委員