MITの教授で、自らもTileraという組み込み向けのマルチコアプロセッサを開発する企業を起こしたAnant Agarwal氏によると、1チップに集積できるコア数は18ヶ月ごとに倍増しているという。また、5年以内にLinuxが搭載された1,000コアのSMP(対称型マルチプロセッシング)構成のプロセッサが出現すると述べた。現在、すでに数十コアのプロセッサが発表されているという現状から考えると、これは妥当な推測であると言える。
さらにAgarwal氏は、1,000コアにする場合の設計面でのトレードオフについても述べた。まずコアに関しては、面積比での性能向上を見た場合、それがリニアを下回るような機能は切り捨てるべきと述べた。ポラックの法則のように、コアの面積を増やしてもその性能が0.5乗でしか向上しないという場合 ― つまりリニア以下の場合は小さいコアが良い。また、キャッシュミスの割合も面積の0.5乗の逆数でしか減少せず、大きくしても面積に対する性能向上はリニア以下であるという。
先のBorkar氏の発表で指摘があったように、アムダールの法則によれば、コアをやたらと増やしても性能は飽和する。しかし、Agarwal氏の話は、組み込み用途でパラレル処理が行える部分に限定した話のようであった。
また、コア間を接続するインタコネクトは、バスやリングは、コア数に比例して性能が向上しないので、大量のコアで構成する"メニーコア"には適さない。一方、メッシュはコア数に依存して性能が向上し、16コアの場合でもバスと比較すると80~90%少ない消費電力で済むという。そして、タイル状にコアを並べ、メッシュで接続した構造は、バスのアービタのような全体の制御を集中して行うメカニズムがないので、スケーラビリティが高いと述べた。
マルチコアプロセッサのプログラミングに関しては、pthreadやMPI、あるいはCELLなどで使っているDMA方式よりも、CAPIなどに基づいたストリーミング方式のプログラミングが良いという。
なお、Agarwal氏は、MITにおいて「Raw」と呼ぶタイル状にコアを並べるプロセッサの研究プロジェクトや、「LOUD」という1020個のプロセッサを用いた音響処理システムの研究なども主導している。なお、Tileraがどのような製品を開発しているのかは明かされず、「組み込み用のマルチコアプロセッサ」という情報しか公開されていうない。 ただ、Agarwal氏のこの発表により、Tileraのターゲットとするものがある程度透けて見えるような気がした。