今秋公開予定の映画『象の背中』の製作発表記者会見が21日、グランドプリンスホテル赤坂にて開かれた。会見では、井坂聡監督をはじめ原作者の秋元康氏、主演の役所広司、今井美樹が登場し、映画製作や役作りへの想いなどを語った。
映画『象の背中』の主人公は、公私共に順調な48歳のサラリーマン・藤山幸弘(役所広司)。藤山は末期がんで余命半年を宣告された時、これまでに出会った大切な人達に自分なりの別れを告げようと決意する。それは自分が生きた人生がどういうものだったかを見極め、23年間連れ添った妻・美和子(今井美樹)と、夫婦としてあらためて向き合うということでもあった。
原作は、2005年1月から6月まで産経新聞で連載された秋元康の同名小説。「象の背中」というタイトルについて秋元氏は「動物行動学的には俗説ですが、象は自らの死期を察知すると、自分のいた群れから離れて死に場所を探す旅に出ると言われています。(その話を聞いて)では人間は死に直面した時、人生をどのように振り返るのだろうかと考えながら小説を書きました」と話す。また、秋元氏は父親の他界が小説の執筆に影響を与えたことを明かした。「父親が肝臓がんであることが判明した時、長男の僕は父にがん告知をしない道を選びました。しかし、父が倒れて救急車で運ばれ、そのまま帰らぬ人となったとき、彼が最後に残したメモ書きを判読できなかったことが非常に悔やまれました。父が何を残したかったのかを知りたい、という想いが執筆の原動力となりました」(秋元氏)。
主人公は映画『バベル』で国際的な評価を受けた役所広司、主人公の妻は20年ぶりの映画出演となる今井美樹が演じている。2人の起用について井坂監督は「僕が秋元氏の原作を読んだ時から主人公は役所広司、主人公の妻は今井美樹をイメージしていた。だから(映画製作が決まった当初から)2人に出演オファーを出していた」と語る。昨年の7月にオファーがあったという今井だが「ずっと芝居をやっていなかったし、役を演じきれる自信もなかったので、最初は断っていたのですが、相手役が役所広司さんに決まったと聞いた時、原作のイメージが立体的に(頭の中で)浮かび上がってきました。そして、夫の死に向き合う時の夫婦の言葉のキャッチボールがどんな風になるのだろうと興味を覚え、オファーを受けることにしました」と振り返る。
主人公の藤山幸弘を演じる役所は「妻も愛人もいる男が、観客から共感を得ることは難しいと思う。だからこそ、藤山自身も気づいていない男としての魅力を引き出したい。そして、藤山が死を迎える時には、観客の皆様に『よく頑張った』と見送ってもらえるような人物像を作り上げたい」とクランクイン前から役作りに熱意を見せた。一方の今井は「美和子は一見、強い女性に見えますが、それは彼女が様々な葛藤を心の内に隠しているから。そういう、美和子の心の機微や空気感を着馴染んだシャツのようにまとえるように、役作りに励みたいと思います」と話していた。
なお、映画製作と連動した「象の背中プロジェクト」が始動。「象の背中」のコミックや絵本、テレビドラマ、ラジオドラマ、韓国での映画化などが決定している。配給は松竹。2007年秋、全国ロードショー予定。