Nokia DesignのSenior Specialist・Jan Chipchase氏

様々な機能やデザインを持った多数の端末をリリースしているNokia。その製品デザインはどのように開発されているのだろうか? 同社の製品デザインをリサーチしているNokia DesignのSenior Specialist、Jan Chipchase氏に話を伺った。

――Nokia Designでどのような仕事をされているのでしょうか?

Nokia Designで私は将来の製品デザインをリサーチする仕事を行っています。これは来年のデザインを考える、といった短期的なものではなく、3年から15年先のように長期的なスパンで製品のデザインの方向性を探っているのです。ベースは東京のノキア・ジャパンですが、年間のほぼ半分は世界中を飛び回っています。

――具他的にはどのようなリサーチを行っているのでしょうか?

プロダクトデザインのベースに必要な哲学、それは人々が何を考え、何を求めているかを知ることだと考えています。このためリサーチの内容はデザインの流行を追い求めることではなく、世界各国で人々がどのような行動をしているかを観察し、そこから製品にフィードバックできるアイディアを発掘することが重要なポイントになります。たとえばその国を訪問したとき、現地のタクシーに乗れば運転手がどのような行動を取っているのか、それは万国共通なのか、やはり地域や国によってパターンが違うのか、といったように人々が日常的に行っている行動の中から、製品に必要な要素を考えていくのです。

もちろん現地のリサーチをするのに私一人や社内スタッフだけでは人手も時間も足りません。そのため現地のスタッフ、たとえば若い人たちのチームに調査を手伝ってもらうことも必要になります。この現地スタッフのマネジメントの仕事も需要で、時には現地ではマネジメント作業に大半の時間を費やすことも少なくありません。しかし私自身も時間の許す限り、実際に現地の街に出て人々の行動を観察するようにしています。私自身、この仕事を気に入っていますから自ら人々を観察しつづけたいと考えています。

――では具体的に、お仕事の内容がどのような製品にフィードバックされているのでしょうか?

お話したように私の仕事の内容とは、人々を観察しそこからプロダクトへフィードバックできるアイディアを発掘することなのです。このためどの製品のどの部分にそのリサーチ結果が生かされたか、ということは具体的にはわかりません。リサーチ内容を社内のデザインチームや製造チーム、営業チームに提示し、そこから彼らが実際の製品にどのように反映していけばよいか、を考えるわけです。すなわち私の仕事結果が直接的にプロダクトデザインに反映されるのではなく、新しい製品の基本コンセプト・基本哲学に生かされていくことになります。

このようにNokiaの製品デザインの基本には人々の行動、すなわち人々が何をしたいのか、何を求めているのか、といった思想が反映されているわけです。

――世界中の人々の行動を観察されているJan氏にお尋ねしたいのですが、Nokiaの製品にはタッチパネルを採用した製品が少ないようです。人々の行動パターンとして"直接触れる"という行為は基本的なものだと思われますが、なぜNokiaにはそのような製品が少ないのでしょう?

Nokiaもタッチパネルを採用した端末はいくつか発売しています。中国市場向けの漢字手書き入力に対応したNokia 6108、インターネットタブレットのNokia 770/N800などです。Nokiaもタッチパネルを搭載した端末を作る技術は持っているのです。ただ、ユーザニーズには様々なものがあります。特にタッチパネル操作は両手が必要になることが多く、操作が若干煩雑となる場合もあります。各国の人々の行動パターンを見ていると、まだタッチパネルを搭載した端末を求めるニーズはあまり多くないという結果になったのです。Nokiaはタッチパネル対応の携帯を作らない、あるいは作れない、ということではなく、将来ニーズが高まればいつでもそのような製品を市場に投入することはあるわけです。

――Nokiaのシェアは日本では低いのですが、これはどのようにお考えですか?

Nokiaのシェアが低いからといって、Nokiaの製品が他社より劣っているということではありません。これは日本のメーカーが海外でシェアが低いからといって、製品が劣っているわけではないことと同じことです。またNokia N73(SoftBank 705NK)は日本でも一定の人気を得た商品であると聞いています。国により人々が求める製品の嗜好は異なるかもしれませんが、それを理解するにはやはりその国の人々の求めているもの、突き詰めていけば人々がどのような行動を日常的に自然に行っているのか、を探求していくことが重要でしょう。

――日本を拠点に仕事を行われているわけですが、日本の印象はいかがでしょうか?

日本はハードウェアUIやテクノロジーなどの面で世界で最も進んだ国の一つです。これらのイノベーションを学ぶには最適な国だと考えています。他国で将来実現されるだろう、可能性のある新しい技術が世界に先駆けて実現されています。Nokiaのマーケットシェアはまだ小さいのですが、リサーチという点では大変需要な国です。私自身、日本に住みはじめて7年になり先日は家を購入しました。今後も日本をベースに世界中の人々が携帯電話にどのようなデザインを求めているのか、観察を続けていきたいと考えています。