ホームシアターとサラウンド
ホームシアターとサラウンドは密接な関係にある。根本に映画館の音環境を家庭に取り入れることにあるからだ。映画館は広い空間なので音の環境を整えることが難しい。スクリーン側にセリフ(ダイアローグ)をきちっと置かなければならないほか、効果音などを空間にちりばめながら観客の周りを取り囲むようにしなければならないからだ。こうしないと映画の臨場感やひっ迫感の演出ができないし、制作者の意図も正確に伝えられない。
そのため映画ソフトはサラウンド音場用のデータをフィルム(ソフト)に作り込んでいるし、チャンネル数も5.1以上の8チャンネルや9チャンネルといった、多チャンネル化を採用している。もちろん狙いはどの席でも同様に音の移動感を正しく演出した空間を創る、映像効果を補完する、というエンターテイメントとしての使命にある。
ホームシアターはソースを主にこの映画ソフトに求めていることからも、サラウンド環境を整えることが必然である。これはすでにアナログのビデオディスク(LD、VHD)時代に求められており、これらがサラウンド再生機能を最初に備えたビデオソースとなった。ただアナログ時代だったことから、サラウンド性能もアナログで制約を受けたが、ドルビーサラウンドを初めて搭載したことが新鮮でもあった。
初期のドルビーサラウンドは前方2ch、後方2chの4ch構成、アナログということもありチャンネル間の分離(セパレーション)も曖昧で、ただ音に包まれているという緩やかなサラウンド音場でしかなかった。その後、チャンネル間のセパレーションを改善するドルビープロロジックの開発によりアナログ式サラウンドも定着をみた。効果があったのはセンターチャンネルを設けたことだろうか。これによりセリフの正確な定位、移動感を伴った映画館並みのサラウンド音場が作れるようになったのだ。これはアナログ式サラウンドの定番として今でも利用されている息の長い音場再生テクニックである。
この後、ホームシアター用ソースもアナログからデジタルに変わる。ソフトメディアがLDからDVDへ移行することでデジタル化が進むのだ。DVDソフトの誕生がホームシアターブームを新たに呼び起こすことになる。手軽さ、高画質で高音質、しかもレンタルもありと、家庭のテレビやプロジェクター&スクリーンで映画を楽しむ方が一気に増えた。
さてDVDソフトの良さは何と言ってもデジタルであること。信号がデジタル化され、アナログとは比較にならないほど正確で高性能な再生が行えるようになったのだ。映像の良さと、音の環境の構築にも効果を上げ、サラウンド再生もデジタル化の恩恵を受けた。それがドルビーデジタルサラウンドである。ドルビーデジタルサラウンドは5.1ch再生を標準に、センターチャンネルを設けたドルビープロロジックをベースにチャンネル間のセパレーションを高め、さらにスーパーウーファーチャンネルを設けたものだ。こうしてホームシアターのサラウンド環境がほぼ完成したのである。
なお、DVDではドルビーデジタルに加えDTSサラウンドを備えるものも多く、これがまた音の良いサラウンド環境作りに貢献している。
性能アップしたソフトによるサラウンド
デジタルソースのDVDがシアターファンに認められてからほぼ10年が経過した。その間、強いライバルも登場せず、順調に成長したメディアと言えるだろう。映画や音楽ソフトなど、優れた映像と音質が支持されたことも成功の秘けつである。
ホームシアターもこのDVDをメインに、DVDプレーヤーやA&Vアンプ、それにスピーカーなども豊富に出揃った。サラウンド再生もドルビーデジタルをベースに、より改善したものを続けて用意している。それがバリエーションに加わったドルビーデジタルEX(6.1ch)、ドルビーデジタルプロロジック2などだ。5.1chシステムを基本にしながら、劇場の感動を家庭に、という狙いで性能を高めた仕様を用意してきたのだ。
ドルビーデジタルEXは新たにサラウンドバックチャンネルを設けたもの。センターバックのチャンネルを独立したことで音の移動感をさらに高める狙いがある。再生での対応は主にAVアンプで行ない、DVDプレーヤー側で対応するものは少ない。理由はAVアンプとは光ケーブルやHDMI接続などで行えることから、AVアンプ内でデコードできるからだ。ドルビーデジタルプロロジック2は、2chオーディオなどをサラウンド化するものだ。主な狙いはオーディオ系ソース、また過去のビデオソースなどにある。ドルビーデジタルをベースにデジタルプロロジック機能をグレードアップ、ほぼあらゆるソースを5.1ch化しようと意気込んだものである。ソースの判別は自動で行なうなど、今ではドルビーデジタルに変わってこちらのドルビーデジタルプロロジック2が定番のサラウンドデコーダーになっている。
新しいビデオソースであるHD DVDやBD、これらハイビジョン映像のソースが、ディスクの大容量による新たなサラウンド音場の提案を始めている。それはドルビーデジタルやドルビーデジタルEXなどをはるかに上回るリアルサラウンド再生を目指したシステムである。
ホームシアター用オーディオはこれまで圧縮化したものと相場が決まっていたが、これはディスク容量の制約によるものだ。しかし、HD DVDやBDは圧縮しなくてもよい大容量さが特徴である。そのためオーディオにも十分に情報量を振り分けられる。これによりスタジオマスターとも呼べる、リアルソースに迫ったリアルなサラウンド音場再生が可能になったのだ。
今後デジタルサラウンドは、ドルビーはドルビーTru HDに、DTSはDTS-HD Master Audioへと大きく飛躍、情報量の豊富なピュアオーディオへと進化するだろう。オーディオ仕様は、192kHz/24ビットとDVDオーディオやSACDでお馴染みのハイサンプリング/ハイビットもの。このCDをはるかに越えた高音質が特徴である。しかもチャンネル数は5.1chを上回る7.1chから、将来的に14ch化までも視野にいれており、サラウンド音場に革命をもたらそうとしている。なお、ドルビーの場合は一部ドルビーデジタルプラスと称する、これまでのソースを使ってより高音質化したモードも提案、いきなりドルビーTru HD化できないソフトをフォローする仕組みで、今のところこれがHD DVDやBDに多く利用されている。
HDMI接続によるサラウンド
HD DVDやBDソフトの高音質サラウンド音場を生かすにはそれに応えたプレーヤーやAVアンプが必要である。特にデジタル接続のHDMI端子を利用できる環境になったことからA&Vアンプ側への要求度が高まった。最終的にスピーカーをドライブするアンプ側でデコードした方が音質からも有利なことがあるが、デジタルによる信号劣化のない方法、また1本のケーブル接続というシンプルさが好評だからでもある。
オンキヨー「TX-SA605/805」はAVアンプとしては初めてHDMI 1.3aに対応。ドルビーデジタルプラス/ドルビーTrueHD/DTS-HDハイレゾリューションオーディオ/DTS-HDマスターオーディオなどのデコーダーも搭載している |
HDMI接続時のサラウンドは、プレーヤー側からは先のドルビーTru HD(ドルビーデジタルプラス含む)やDTS-HD Master Audioで、またドルビーデジタル5.1chや6chのPCM信号で取り出される。今のところA&Vアンプ側でドルビーTru HD(ドルビーデジタルプラス含む)やDTS-HD Master Audioに対応したデコーダー搭載アンプは少ないが、これも順次用意されるだろう。遠からず本来の高音質サラウンド音場が手に入ることだろう。