マイクロソフトは30日、家庭でPCを使うユーザー向けの新施策として、インストラクター資格「マイクロソフト認定 ICTマスター」の認定と、一般ユーザー向けに検定試験「マイクロソフト ICT検定」(愛称:マイ検)を開始することを発表した。同社の認定スクールなどを通じて、6月1日以降順次活動を拡大する。
エンジニアなど同社製品のビジネスユーザー向けには、これまでも「MCP」(Microsoft Certification Program: マイクロソフト認定資格プログラム)を初めとする各種資格が用意されており、ユーザーが持つIT業務の能力・知識の水準を測ることはできたが、ホームユーザーが、家庭や地域社会のためにPCをどれだけ使いこなせるかという観点では、尺度になるものがなかった。
今回の同社の施策では、初心者や高齢者に対してICT(情報通信技術)利活用の指導ができるインストラクターとスクールについて、「ICTマスター」「ICTスクール」という認定資格を設けることで、マイクロソフトがその指導能力に"お墨付き"を与える。そして、それらICTマスター・ICTスクールを通じてホームユーザーのスキルアップを図る際、目標となるものとして、検定試験の「ICT検定」を用意した。加えて、ICTマスターを育てる研修拠点として「ICTマスタートレーニングセンター」を設ける。
認定する「ICTマスター」「ICTスクール」については、NPOなどの参加も期待している |
一般ユーザーのための「ICT検定」、先生役の「ICTマスター」、学校役の「ICTスクール」、先生を育てる学校の「ICTマスタートレーニングセンター」の4つの仕組みを整える |
先生役となるICTマスター、学校役となるICTスクールは、必ずしも既存のPC教室のような人材・施設だけではなく、地域でPC利用の指導を行っているNPOやサークルなども想定しており、使い方を教えるだけではなく、地域のICT化を進めるコーディネーター、交流拠点としての役割も期待する。ICTマスターとなるには、ICTマスタートレーニングセンターにおいて標準4日間分のカリキュラムを修了することが条件で、ICTに関する知識だけでなく、「何回聞かれても笑って答えてくれるフレンドリーさ」(同社テクニカルソリューション推進本部 ラーニングソリューション部の内野良昭氏)など指導者としての適性も要求される。同社では今後約1年の間にICTマスター2,000名、同ICTスクール300拠点の認定を目指す。
ICT検定は全国のICTスクールで7月より受験可能となる予定で、同社では初年度3万人の受験を目標としている。ビジネスユーザー向けの資格と異なり、取得するとIT業務で有利になるといった直接的なメリットはないが、生活や趣味の中でPCやインターネットを役立てるための基本的な能力を身につける指標になる。PCの利用能力に関した検定試験は他にもすでに存在するが、ICT検定はPCの操作技術自体よりも、「文書を作成したい」「写真をWebで公開したい」といった目的を達成するために、どのような手段を用いれば解決できるかを問う内容になるという。
ITリテラシーの向上を通じて、シニア層の地域参加を促す
一連の施策はすべてのホームユーザーが対象になり得るものだが、想定されている中心は定年退職後のシニア層と見られ、日常生活や地域活動におけるICTの利活用を促進するのがねらい。
このようなビジネス以外の場面における、PCを利用した価値創造や、より活動的な生活の支援については、同社の一部で構想自体は以前からあったものの、実施に向けて機が熟すには時間を要していた。しかし、2001年から段階的に取り組みを始めた「全国IT推進計画」、2005年に社長に就任したダレン・ヒューストン氏の3カ年計画「Plan-J」などの中で、IT業界だけでなく、一般の中小企業、行政機関、教育機関、NPOなどとの連携を重視することが経営方針として示され、社内外に浸透してきたことで、ホームユーザー向けの啓蒙活動に投資をすべきという判断に至ったという。
同社では6月1日から、Windows Vista Home PremiumとOffice Standard 2007の限定商品として「シニア割 アップグレード」パッケージを提供する。60歳以上のユーザーが対象で、シニア層が最新技術に触れる機会を増やすのが目的だが、単に製品の販売促進を行うだけでなく、8月末まで電話サポートが回数無制限になるなど、"売りっぱなし"にならないための取り組みを並行して進める。今回のICT検定制度も同じで、モチベーションの維持や、地域コミュニティの支援などにつなげたい考え。
マイクロソフト業務執行役員・テクニカルソリューション推進統括本部長の瀬戸口靜美氏 |
同社業務執行役員でテクニカルソリューション推進統括本部長の瀬戸口靜美氏は、高齢化社会というと「ジュニアがシニアを支える」というイメージがあったが、これからのシニア層は「ただリタイアするということでなく、新しい日本社会を作る」(同氏)ために、仕事以外の場で活躍していくようになるのではないかと話し、マイクロソフトが新たな施策を打ち出すのも、日本の社会構造の変化が背景にあると説明している。