ノキア・シーメンス・ネットワークスが国内での活動を本格化させている。WiMAXとLTE(Long Term Evolution: 第3世代携帯電話技術仕様の発展形)に重点を置き、定額制の導入により、いっそうのコスト削減を迫られている携帯電話事業者には、小型化を実現した基地局を展開していくほか、今後増えることが予想されるMVNO(既存事業者のネットワーク回線を借りてサービスを展開する企業)の需要に応えていく意向だ。ノキア・シーメンス・ネットワークスは、携帯電話の世界的企業であるフィンランドのノキアと、通信機器メーカーの独シーメンスが合弁で2006年に設立した。
同社の日本/韓国市場担当責任者を務めるマイケル・キューナー氏は「日本はたいへんユニークな市場だ」と指摘する。一般消費者は、有線であれ無線であれ、ネットワークでは広帯域幅が必要になる画像/動画メール、ゲーム/音楽のダウンロードなど、リッチコンテンツを求める。そして通信事業者はこれらのコンテンツを供給しやすくするため、通信サービスの定額制の導入を余儀なくされ、そのためにコスト圧力を受けている。事業者各社は、国際標準の製品を使うなどの対策を講じているが、大きなデータ容量日本市場での特殊要因もあり「収益確保のためには、営業費用の抑制が重要になる」(キューナー氏)との状況がある。
同社では、日本の通信事業者のこのような課題への解決策として、WiMAX対応基地局を、いわば切り札のような製品と位置づけている。同社の基地局は「部品の小型化や、チップベンダと共同でシグナルプロセッサを開発するなど」(ノキア・シーメンス・ネットワークス日本法人の小津泰史 代表取締役)の策により小型化/低消費電力化されており「設置コストW-CDMA携帯電話の約半分」になるという。基地局のコストは初期導入の時点だけでなく、設置場所の賃料、回線使用料、電気代など「運用コストの方が高くなる」(同)ことから、同社はこれらの「運用コストも抑えられるような設計にしている」(同)
ノキア・シーメンス・ネットワークス日本・韓国市場担当責任者マイケル・キューナー氏 |
ノキア・シーメンス・ネットワークス日本法人の小津泰史 代表取締役 |
WiMAXでは、同社は基地局だけでなく、端末(2008年に、Wi-Fiにも対応するWiMAX端末であるN800インターネットタブレットを販売する予定)から中核となるネットワーク装置、ネットワークそのものの設計、設置、保守、サポートに至るまでのソリューションを備え「End-to-endのサービスを提供することができる」(キューナー氏)としており、「日本市場で当社は、事業者の強力なパートナーになれる。日本でビジネスを大きく拡大させたい」(同)との意向を示した。
国内でのWiMAX動向については、先日、総務省が「広帯域移動無線アクセスシステムの免許方針案」を示し、このシステムで用いられる2.5GHz帯では、使用周波数帯が決まるとともに、全国展開する2社に免許が割り当てられるとともに、既存の第三世代移動通信事業者は事実上、除外され、新規事業者を優先している。ここで使用される規格としてモバイルWiMAX(IEEE 802.16e-2005)と次世代PHS方式が有力とみられている。小津氏は「WiMAXすべてがIP化されているため導入しやすい」と語り「日本でWiMAX市場が拡大する潮流は明確」と強調する。
一方、LTEについては、ネットワーク回線を保有する既存事業者からの需要を想定している。LTEは、下りにはOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)を、上りにはSC-FDMA (Single-Carrier Frequency Division Multiple Access)が用いられる。最大のデータ転送速度は下りで100Mbps、上りでは50Mbpsだ。
OFDMAは、周波数帯域を複数の狭い周波数帯域に分割し、各周波数帯上にデータを載せて伝送を行う。この方式では、狭い周波数帯域を、互いに干渉することなく密に並べることから、高速伝送を実現し、周波数の利用効率を上げることができるとされる。
SC-FDMAは周波数帯域を分割、異なる周波数帯域を用いて、複数の端末間で伝送するため、端末間の干渉を低減することができる。この方式では、送信電力の変動が小さくなる特徴があることから、バッテリの耐用年数を向上させることができる。また、端末の送信器の構成を簡素化できるとされている。
同社は、これらの特性によりLTEは、ネットワークの複雑性を解消し、IPベースのパケットだけの単純なアーキテクチャを実現、運用コストを削減でき「携帯電話事業者は、これによりコストを下げ、定額制を展開することに有用となる」(同社)と考えている。国内の携帯電話事業者はいずれも、定額制により、収益性を圧迫されており、あの手この手のコスト低減策を打ち出しており、同社は、LTEがこれらへの特効薬となることを期待している。