イー・アクセス 千本倖生会長 |
イー・アクセスの2007年3月期(2006年4月-2007年3月)連結決算は、移動体通信事業に本格参入してから初の決算となった。同社はこれまでADSLの卸を主軸に成長してきたが、3月31日にW-CDMA/HSDPA方式によりデータ通信のサービスを開始、13年ぶりの携帯電話事業の新規参入企業となった。FTTHの普及が進むなかでADSLサービスは成熟化しており、同社としては、携帯電話の分野を成長させることにより、新たな中核事業領域の育成を図る。同社では、携帯電話事業を担う子会社のイー・モバイルを2011年に単年度黒字化させ、2012年に売上高3,000億円、加入者数500万にすることを目標としており、早ければ2011年にも株式を上場させることを目指す。
今年度からの同社の経営方針として非常に大きな意味を持つのは、イー・モバイルを6月より連結対象から外し、持分法適用会社へと変更することだ。具体的には、同社が保有するイー・モバイル株10万株を1株12万円で、米ゴールドマン・サックス・グループに売却する。理由として最も大きいのは「イー・アクセスの連結バランスシートが悪化することを回避する」(代表取締役会長の千本倖生氏)ためだ。
事業に新規参入しようとすれば、多くの場合、当初は赤字が出る。特にインフラの整備など、先行投資のかさむ移動体通信事業となれば、損失額はより大きくなる。2007年3月期でいえば、イー・モバイルの営業損失は114億6,700万円だ。2008年8月期の見通しでは、2007年4-5月だけでも同事業の営業損益は48億円の赤字と予想している。
「モバイル事業は最初の2、3年は苦しく、巨大な子会社が大きな赤字を出すことになる」(同)。千本会長は「このような構造をどう解決するか。株主にとって何が一番良いか。去年からずっと考えていた。MBO(Management Buy Out:企業経営陣による買収)、LBO(Leveraged Buy Out:買収しようとする企業の資産などを担保として金融支援を受けることにより実現される買収)はかなり検討した。新株発行も考えたが、株主に不利だ。その結果、今回の策が最もポジティブな解決策ということになった」と語る。
同社は2008年3月期の連結業績を次のように予想している。売上高は対前年同期比12%増の630億円、営業利益は同90.7%増の20億円、経常損益は105億円の損失(前年同期は15億6,400万円の損失)、当期純損益は73億円の損失(同9億900万円の利益)。増収、営業増益になる。これは、イー・モバイルを連結から切り離して想定したもので、「もし、イー・モバイルを連結に含めていれば、売上高は860億円になるが、営業損失は220億円、経常損失は270億円、当期純損失は100億円、設備投資は1,000億円に上り、バランスシートへのインパクトが大きくなる」(イー・モバイルのエリック・ガン社長兼COO)とみている。
同社全体を牽引しているADSL・ISP事業の売上高は対前年同期比7.2%減の559億8,400万円、営業利益は同7.4%増の125億3,200万円となり、減収増益だった。同社では「移転、回線クラス変更の際の手数料無料化、下り3Mbpsサービスを同5Mbpsに自動アップグレードするなどの解約抑止策強化や、同12Mbpsサービスを低価格で提供するなどの策を講じた結果、増益を果たした」としている。
千本会長は「日本では、NTTがFTTHで大攻勢をかけており、ADSL市場は全般的に縮小傾向にある。他社が純減になっているのに対し、イー・アクセスは7,000回線の純増ができた。通期の解約率は、2%をどのくらい上回るのか心配していたが、1.91%だった。FTTHの影響は懸念してきたが、FTTHへの移行を理由とする解約は、当社としては横ばいであり、ADSL・ISP事業は、営業/経常利益はいずれも過去最高だった」と話す。
また、今年度は、ADSL・ISP事業としていた部門を「ネットワーク事業」と改める。これには従来のADSL・ISP事業のほか、バックボーンサービス、WiMAXが属することになる。同事業の2008年3月期業績予想は、売上高が527億円、営業利益が99億円、経常利益は88億円、当期純利益は53億円としており、引き続き同社の要となる。さらに、新たに「デバイス事業部門」を設け、携帯端末、コンテンツ、アプリケーションの開発、販売を担当する。通信事業者、メーカー、コンテンツ/アプリケーション事業者との取引を拡大し、事業機会を伸長させることを図り、初年度には80億円の売上を見込んでおり「新しい事業の柱としていきたい」(千本会長)考えだ。