いかにして、少しでも低い特許使用料負担で、ATSC規格に適合した製品を米国市場に輸出できるかが中国TVメーカーの切なる課題となっている。そこで中国TVメーカーが考案した対策とは、結束してATSCメンバー企業と特許使用料についての交渉に臨むことと、特許プール方式で対抗することだった。
今年4月下旬、中国10大TVメーカーが共同で深セン中彩聯科技有限公司(以下、「中彩聯」と略)を設立した。中彩聯の登録資本金は1,000万元で、大手TVメーカーのTCL、長虹、康佳、創維、海信、海爾(ハイアール)、夏華、上広電、新科、夏新10社がそれぞれ100万元を出資、10%の株を持ち合う。元新科副総裁のハン文健氏、元TCL開発センターの羅秋林氏がそれぞれ中彩聯の董事長と総経理に選出された。
メンバー各社は出資以外に、各社がそれぞれ持っている特許を出し合い、「中国彩電行業合建専利池(中国カラーTV業界共同特許プール、以下「特許プール」と略)」を設立した。中彩聯が特許プールの運営に当たる。
特許プールは出資企業から提供される400件以上の特許から構成され、TCL1社からの特許が100本以上を占める。特許プールを充実させるため、中彩聯は今後積極的に共同開発と共同イノベーションを推進し、独自の知的財産権を持つ特許の商用化を促進していく。このほか、中彩聯は出資企業各社の知的財産権保護プログラムや特許戦略の構築実行をサポートするとしている。
しかし中彩聯の最も重要かつ喫緊の課題は、いうまでもなく、出資企業10社の代表としてATSCメンバー企業を相手取り、特許およびその使用料について交渉を行うことだ。中彩聯の目指すところは、買い手の交渉力を結集し、売り手に譲歩を迫ること。特許の有効性や、使用料設定の合理性、使用料の値下げあるいは免除などが、交渉のキーポイントになると思われる。
中彩聯がすでにATSCメンバー企業数社と接触、交渉の打診を始めたと伝える業界筋もあるが、中彩聯や関係企業からは一切コメントが出ていない。また、交渉の進捗状況についてのニュースリリースなどもまったくない。だが、FCCとATSCによる規制はすでに実行段階に入っており、韓国メーカー、日本メーカーとの競合もあるので、中彩聯に与えられている時間がもはや多くないことも事実。こうした実情からみれば、水面下での交渉が開始されている可能性は相当に高いものとみられる。
業界では、ATSCメンバー企業が提示した使用料と、中彩聯の受け入れられる金額との間に大きな差額があるため、交渉が短期日に確実な成果を得られる保証はなく、むしろ長期戦が必至との見方が根強い。いずれにしろ、中彩聯による集団交渉は国内関係者の注目の的となっている。