概要&あらすじ
イラストレーター、エッセイスト、作家、ディレクター、ミュージシャン、フォトグラファーと、あらゆるジャンルで奇才を発揮しているリリー・フランキーの同名小説を映画化。 主人公の"ボク"が幼い頃にオトンとオカンは別居し、ボクはオカンの実家である筑豊の炭坑町で育つ。15歳のとき、オカンの元を離れ大分の美術学校へ。そして離れて暮らすオカンに学費を負担してもらい東京の美大へ進むが、ボクは絵も描かず無為に日々を過ごす。結局留年してしまうボクをオカンはひたすら励まし、支え続ける。時代は平成になり、仕事も順調に回りだしたボクは母を東京に呼び寄せ、15年ぶりに共に暮らし始めるが、そのとき既に母の体を病魔が着実に蝕んでいた……。
"ボク"を演じるのは今をときめくオダギリジョー。"オカン"には名優・樹木希林、その若い頃を実の娘である内田也哉子が好演している。"オトン"は世代を通し小林薫が熱演。ボクの彼女・ミズエを松たか子。その他、数シーンしかない小さな役に仲村トオル、小泉今日子、宮崎あおいなどが、主題歌に福山雅治が参加しているが、特にそれをクローズアップせず、淡々と紹介している。脚本はリリーと同世代で同郷の松尾スズキ。監督は『バタアシ金魚』『さよなら、クロ』の松岡錠司。原作に惚れこんだ松岡氏は、自ら本書のサイン会の列に並び映画化を直談判、ようやく実現に漕ぎ着けたという。
放談メンバー | ||
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はなこ |
マサオ |
ステラ |
いやー、泣けたね。東京に出てきてもなかなか変われないボク、ずっと変わらぬ愛情を注いでくれるオカン、そして東京への憧れもあり変わりたい気持ちはあっても結局そのまま中途半端なオトン……。あらゆる場面で自分自身とリンクしたよ。なのに、お涙頂戴っぽい重たい辛気臭さがないんだ。軽快なテイスト。まさか、これほど素直に泣けるとは思わなかった。
母の醍醐味を満喫できる作品ネ。あたし自身、自分の中の母性を強く感じさせられたわ。成長していく息子が愛しくて愛しくてたまらなかった。特に高校生役の男の子が可愛かったわぁ(うっとり)。
どこ見てるんだよ。いやほんと、想像を絶する痛みを乗り越えて僕らを産んでくれた偉大なお母さんへの思いを再確認させられる名作だった。
はい、ティッシュ。足りないんでしょ? 全部あげるよ。
え、いいの? はなこだってちょっとウルっときてたじゃないか。思い出せば出すほど泣きたくならない?
昭和と平成が交互にあらわれる構成は巧いと思ったけど、別に……。ラスト、ちょっと悲しくなったくらいで、おなか一杯。
あんた、今日はずいぶんクールね。
うん。ぜーんぜん感情移入ができません。
どうして? オカンが病気でぼろぼろになりながらも自分の子の食事を心配するシーンなんて、もう…(と、思い出し泣きで嗚咽)。
はいはい。それはマサオ自身が母親の自己犠牲を払う姿を思い出すから感動するんだよ。
え? はなこの家は違うの? うーん。それって、はなこが本当の母親の姿をわかってないだけと思うけど。
うちのオカンはあんなに強くない。地味なストーリーだけど、実はオカンが異常に強い人だから映画になるんだよ。どこにでもあるありふれた話、と銘打ってるけど、実はとんでもないスーパーウーマンのおとぎ話なんですよ。
確かにある種の理想像ではあるけど…どのお母さんもそういう部分って持ってるものなんじゃない?
それは男の幻想。我が家の場合、オカンはオカンのために、私は私のために生きてる。あんなに自己犠牲を払ってくれるような家族は重たくて、うっとうしい。『親がなくても子は育つ』ですよ。リア王じゃないけど、親を親以上に好きじゃない人にとっては、特に深く残る作品にはならない。
普通の家族の生き様を綴った「ありふれた話」だというけど、現代は決してそうではないかもね。子供の世話より自分が遊びたい、と思う人はたくさんいるし。
私はこの映画見て、ますます死ぬまで一人でいいと思った。人のために一生を捧げるなんて冗談じゃない。私もうちのオカン同様、自分の人生は自分のために生きる。
それなら……はなこが共感したのはオトン?
そう! オトンは確かに身勝手かもしれないけど、居場所がなくてかわいそうだよ。自分のため、家族のために働いているのに『時々、』なんて扱いひどくない? この映画のオトンは自由人ぽく描かれていたけど、仕事に一生懸命なばかりに、家庭で居場所がなくなっちゃうニッポンのお父さんが本当にかわいそうだと思う。
結局、はなこはファザコンなんだよ。
うるさーい! 冷静に事実を言ってるだけですーっ!
まぁまぁ。逆にボクはマザコン。それでいいじゃない。まだ自分たちが親の立場になってないから、わからないだけでは? とにかく、息子にとって母親ほど偉大なものはないよ。
きっとはなこもお母さんになったら感想が変わるんじゃない? アタシはなれないけど。
さて、1カ月後の母の日、オカンに何をあげようかな。
実際に会いに行ったほうが喜ぶんじゃないの?
うちの田舎いいぞ、今度一緒に来るか?
いや、いい。私には"東京"がある。喧騒の中に溺れて夢見ているほうが幸せだから。
(イラスト:アサダニッキ)